WEDGEで連載中の「地域再生のキーワード」。10月号(9月20日発売)は「北海道ガーデン街道」を取り上げました。オリジナルページ→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5385
![Wedge (ウェッジ) 2015年 10月号 [雑誌] Wedge (ウェッジ) 2015年 10月号 [雑誌]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/516URxcgwbL._SL160_.jpg)
- 作者: Wedge編集部
- 出版社/メーカー: 株式会社ウェッジ
- 発売日: 2015/09/19
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隣町にはたくさんの観光客が来ているのにウチは素通りで─。地方を歩いていると、そんな嘆きをしばしば耳にする。実は北海道の帯広もそうだったという。交通の要衝にもかかわらず、「観るものがない」と言われ続けてきた。
一方で、北に車で2時間ほど行った富良野には、全国からたくさんの観光客がやってくる。ラベンダーの季節ともなれば凄まじい数だ。目の前を素通りして富良野を目指す観光客を何とかつかまえられないか。それが帯広の長年の願いだった。
そんな願いをちょっとしたアイデアで実現させた人物がいる。林克彦さん。帯広の北、清水町で観光ガーデン「十勝千年の森」を運営するランラン・ファームの社長だ。アイデアとは、「点を線で結ぶ」ことだった。
帯広にはいくつもの観光客向けのガーデンが点在していたが、これを富良野やさらに北の旭川と結び、一本の観光ルートにしてしまおうというのである。そうして2010年に生まれたのが「北海道ガーデン街道」だった。
旭川から帯広までの「街道」沿いにある7つのガーデン(現在は8つ)で協議会を作り、共通チケットを発売。「街道」を案内する小冊子を作るなどPRに乗り出した。それを旅行会社に売り込んだのである。文化志向型の旅としてクラブツーリズムが取り上げると大ヒットする。60歳代から80歳代のガーデニング好きの女性に圧倒的な支持を得たのだ。
とかち帯広空港、旭川空港、新千歳空港の3つの玄関口から入った観光客は、時計回りにせよ、その逆にせよ、旭川から帯広の間の「ガーデン街道」を旅するようになる。「ドイツのロマンチック街道は有名ですが、それぞれの町の名前は余り知られていない。そんな街道にできないかと考えたのです」と林さん。帯広、富良野、旭川というそれぞれの観光地が「点」で戦うのではなく、ルートを作って街道化すれば、一気に集客力を高められると考えたのだ。そんな林さんの狙いは見事に当たる。年間約35万人だった旅行者数は60万人に跳ね上がった。
もちろん、各ガーデンが初めからすんなり「街道化」の話に乗った訳ではなかった。富良野は自力で集客できる力があるし、旭川の「上野ファーム」は、ガーデン好きの女性たちにもともと大人気だった。旭川には旭山動物園や大雪山の旭岳もある。帯広と組むメリットがあるのかどうか。
成熟期に入っていた観光地
だが、伝統的な観光地として成熟期に入っていたそれぞれの地域が、自分の力だけで集客し続けていくことに限界を感じ始めていたのも事実だった。いつか人気が衰える時が来るのではないか、そんな不安を感じていたのだ。もちろん、点を線にすることで地域全体が潤うようにしたいという林さんの熱心な説得もあった。
「北海道ガーデン街道」が人気ルートになったことで、それぞれのガーデンの入場者は大きく増えた。「十勝千年の森」は2000年にスタートしてレストランやチーズ工房を手がけたが、年間の来場者は2万人ほどだった。それが街道化で8万人にまで増えた。「組み合わせによって新しいものが生まれる。まさにイノベーションを起こすことができました」と林さんは振り返る。
上野ファームも、個人だけでなくツアー客が増え、年間6万人が訪れるようになった。「点在していたガーデンが線でつながることで、それぞれの違いを知ってもらうことができました。結果として個別ガーデンの新たな魅力に気が付いてもらえるようになりました」と上野砂由紀さんは語る。
街道化で何より大きいのは、観光客の滞留時間が伸びたことだ。いくつものガーデンを散策しながら、街道をゆっくり旅しようと思えば、最低でも2泊3日は必要だ。この地域のハイシーズンは6月から7月にかけての花のシーズンで、ホテルは軒並み満室になる。逆にスキーリゾートはこの時期オフシーズンだったが、街道化したことでお客が増え、今やフル稼働になった。
街道沿いにあるホテルを「オフィシャルホテル」に認定、それらのホテルで「ガーデンランチ」と銘打った昼食を提供するなど、街道化の効果を周辺に広げる工夫も凝らした。点から線になった街道が面に広がりつつあるのだ。
街道を行く人が増えて、地域全体が活性化したのは間違いない。地元のバス会社とタクシー会社が協力、路線バスとタクシーを組み合わせてガーデンを巡るパッケージを売り出すなど、事業に広がりが出始めた。
東日本高速道路(NEXCO東日本)がサービスエリアなどに「北海道ハイウェイガーデン」を作り始めたのも、ガーデン街道との相乗効果を狙っている。千歳から帯広、千歳から旭川は同社の高速道路が走る。最近増えてきたリピーターは空港からレンタカーで街道を巡るケースが多い。当然、高速道路を利用するわけだ。砂川サービスエリアのハイウェイガーデンは上野ファームが監修、占冠パーキングエリアは紫竹ガーデンが監修といった具合に、街道のメンバーとタイアップして、ミニガーデンを制作している。
もちろん、ガーデン街道のメンバーになれば、それで自動的に観光客がやってくるという話ではない。
林さんの「千年の森」では、ガーデンとチーズ工房、そしてセグウェイを売りにしている。セグウェイは米国で発明された電動立ち乗り二輪車。これに乗って広大なガーデンの中を回れるガイドツアーを始めたところ、大ヒットしたのだ。
こうした取り組みで、6〜7月に集中している客足をほかの時期にも広げることができると期待する。初夏とは違った秋のガーデンの魅力も訴えている。十勝の豊かな食材をアピールすることで、さらにリピーターを増やしたい─。林さんの地域おこしの夢は広がる。