岩泉ヨーグルトが大ヒット! 「稼ぐ第三セクター」岩泉ホールディングスの挑戦

2月17日に現代ビジネスにアップされた原稿です。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47950

第三セクターが地域経済の中核

第三セクターと言えば、全国の自治体のお荷物になっているケースが圧倒的に多い。そんな中で、「攻め」の経営で地域経済の中核企業体になろうとしているところがある。岩手県岩泉町の「岩泉ホールディングス」だ。

岩泉町は盛岡の東に位置し、太平洋岸にまで広がる人口1万人ほどの町。鍾乳洞の龍泉洞が有名だが、最近では「岩泉ヨーグルト」で知られる。「岩泉ホールディングス」の名前の通り、それまで4つあった三セクを子会社化し、持ち株会社として今年、1月末にスタートした。

バラバラだった三セク会社を一体運営することで効率化を進める一方、積極的な設備投資に乗り出し、町の中核企業体として成長させることを狙っている。三セクを持ち株会社化したのは全国で初めてという。

ホールディングスの傘下で子会社化したのは乳製品製造販売の「岩泉乳業」、道の駅などを経営する「岩泉産業開発」、キノコ製造販売の「岩泉きのこ産業」、ホテル経営の「岩泉総合観光」の4社。ホールディングス株の90%は町が保有する形とし、1月27日に登記を完了した。

もともと三セク4社の事業は善戦していた。岩泉乳業は6年ほど前に開発した「岩泉ヨーグルト」がヒット。濃厚な味わいと、独特のもっちりした食感でファンを獲得した。

全国200のホテルや岩手県内外のスーパーなどに出荷。インターネットでも買える。最近では6割が県外に出荷されている。売上高は10億円を超え、経常収支は8400万円の黒字に達していた。

また、岩泉きのこ産業は年間1000トンのシイタケを生産、9割近くを首都圏など県外に出荷している。売上高は8億7000万円、8600万円の黒字だった。

4社合計で売上高36億円、350人の従業員を抱える。ホールディングスとなったことで、村役場の180人を超え、町内最大の事業体になった。

最大の狙いは町内に雇用を生むこと

なぜ、ホールディングス化に踏み切ったのか。先頭に立って改革を進める伊達勝身・岩泉町長は語る。

「人材の有効活用が第一の狙いです。地方の町は人材が限られている。4社バラバラよりもひとつの大きな組織になれば、能力を発揮してもらえる。また、4社の間でダブっている事業もあり、その効率化にもつながる。もちろん、間接部門の集約もできます」

民間企業なら、グループ会社の集約は当たり前の経営手法だが、三セクのホールディングス化は実現までに時間がかかった。国や県が行く手を阻んだのである。経営統合を決めた2013年から3年近くもかかった。

というのも、三セク会社は国や県から補助金をもらってきた。ホールディングスにした場合、事業主体が変わるので、過去の補助金を返還する義務が生じると言われたのだ、という。法律を厳密に解釈した結果のことだった。また、縦割り行政の下では、それぞれの事業ごとに担当が異なるため、ホールディングスにして一本化する意味を国や県に理解してもらうのは至難の業だった。

経営統合は暗礁に乗り上げ、もはや断念するしかないというところで、転機が訪れる。財務省から震災復興の予算の担当者が視察にやってきたのだ。

伊達町長は持ち前の熱血ぶりで、国や県の対応の理不尽さを訴えた。町長の情熱に打たれた財務官僚は霞が関に戻ると同僚たちにかけ合ってくれた。最終的にはルールが改められ、三セクをホールディングス化する障害がなくなったのである。

念願の「岩泉ホールディングス」の誕生で、伊達町長の構想は広がっている。今後5年間で100億円の投資をし、売上高を3倍にするというのだ。

まずは25億円を投じて、岩泉ホールディングスが直営の牧場を持つ計画だ。岩泉ヨーグルトのヒットで、町内で生産する原乳は不足気味。町内の小規模畜産農家には子牛の繁殖などに特化してもらい、放牧や原乳生産をホールディングスが担う。畜産農家の高齢化や人手不足を支援していく考えだ。

もうひとつは経営する「龍泉洞温泉ホテル」の改築。町の観光資源である龍泉洞の価値に磨きをかけるためにも、老朽化したホテルを一新したい考え。龍泉洞にはピークで年間48万人が訪れていたが現在は20万人を切っている。龍泉洞の水をミネラルウォーターとして販売しているが、その増産に向けた設備投資も検討している。

ホールディングスの経営拡大は町内に雇用を生むことが最大の狙い。高齢者の孫世代などを呼び戻す運動も始めている。町内全戸にブロードバンドの通信網を引くことで、サテライトオフィスなどの設置も可能にしたいと考えている。

三セク4社の従業員は5年間で100人近く増えた。ホールディングス化を機に雇用が生まれ、若い人たちが戻ってきてくれる町にーー。岩泉町の挑戦は続く。