ここでミスれば未曽有の株価下落も! 5月末、安倍政権「最大の正念場」がやってくる サプライズの「弾」はまだあるか?

現代ビジネスに5月11日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48630

5月末から6月にかけて、今後の日本経済の行方を決める“計画書”が一斉に決定される。アベノミクスの息切れが指摘される中で、どんな追加の政策が打ち出されるのか。

日本経済の先行きに期待を持たすことができれば、年初から売り越してきた海外投資家が「日本買い」に転じる可能性がある一方、目立った「サプライズ」がなければ、アベノミクスが世界から見放され、日本経済が再びデフレの淵に沈む可能性が強まる。

7月に予定される参議院議員選挙の結果をも大きく左右しかねないだけに、どんな中味になるのか注目される。

漂う「失望感」

4月28日、午前中まで高かった日経平均株価が午後に入って急落した。同日まで開いていた日本銀行金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決めたためだ。市場では「追加緩和」が織り込み済みだったこともあり、失望売りが膨らんだ。この日の高値から安値の差は919円に達し、まさに「釣瓶落とし」状態だった。

株式市場は全面安となり、28日の日経平均株価終値で前日比624円安、連休最中の5月2日も518円安となり、1万7500円を超えていた日経平均株価は一時1万6000円を割り込んだ。

日銀は2月にマイナス金利を導入したが、市中銀行が日銀の当座預金に新たに積み増す分(政策金利残高)のみにマイナス0.1%を適用するとしただけで、約220兆円にのぼる基礎部分は相変わらずプラス0.1%の利息が付いている。ここに斬り込むなど、マイナス金利政策を拡充すると市場は見ていただけに、「据え置き」への失望感は大きかった。

とくに、海外投資家の失望を招いたことが、相場を大きく揺さぶった。年初から5兆円近く売り越していた海外投資家は、4月4〜8日の週に14週ぶりに買い越しに転じ、4月22日まで3週連続で買い越していた。それが、28日までの週は再び売り越しに転じてしまったのである。

野党などから「アベノミクスは失敗だ」と批判される中で、日本の株式市場に大きな影響力を持つ海外投資家の「期待」をつなぎとめることができるのか。その正念場が5月末から6月にかけてやってくる。

「さすがに弾切れ」のため息

安倍内閣が昨年来掲げている「一億総活躍社会」の実現に向けた具体的な政策パッケージとして「ニッポン一億総活躍プラン」を策定しているが、これを5月末に閣議決定する。

また、2013年以降、毎年改訂してきた「成長戦略」と、経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」も閣議決定する。さらに「規制改革実施計画」も決定する予定だ。いずれも今後の政策の方針を示す重要な“計画書”には違いないが、問題は中味。目新しいインパクトのあるものが出てくるかどうかが焦点だ。

「一億総活躍プラン」については内閣府に置かれた一億総活躍推進室が取りまとめているが、サプライズを演出するためか、徹底した情報管理が行われ、関係各省庁に根回しする際も、その部分の文言しか見せない徹底ぶり。メディアに情報が先に流れて、新鮮味が失われることを恐れているという。

もっとも初めて打ち出す「一億総活躍プラン」に霞が関の力が集中しているため、他の“計画書”はインパクトに欠けるものになりそう。成長戦略を主に担当する経済産業省の幹部からは「さすがに弾切れだ」というため息が漏れる。

また、市場に好感されそうな「激しい改革案」を出そうとすると、「参議院議員選挙への影響を懸念した官邸からのストップがかかる」(関係する民間経営者)という声が漏れる。規制改革についても同様で、業界団体の支援が不可欠な参議院選挙を前に、業界の既得権に斬り込むような改革案は打ち出せない構図になっている。

5月26、27日に開かれる伊勢志摩サミットで打ち出される政策にも注目が集まる。サミットを前に訪欧した安倍晋三首相は、減速感が強まる世界経済への処方箋として、G7が協調した経済対策綱領を打ち出すことを狙っている。サミットは久方ぶりの「経済サミット」になりそうで、G7が協調して財政出動を表明することなどが柱になりそうだ。

もっとも、各国ごとに経済状況が違う中で、政策の方向性を一致させられるかは未知数で、どこまで市場にインパクトのある政策が打ち出せるかは分からない。

日本としては世界経済への配慮を理由とした消費増税の再延期を打ち出す可能性が高いが、これがどれだけ世界のマーケットに影響を与えるか、それも分からな い。

サプライズが起こせるのか

参議院選前に、株価や為替に決定的に影響を与えそうなのが、6月15、16日に開かれる日銀の金融政策決定会合だ。今度こそはマイナス金利政策の追加に踏み切るだろうという市場の期待が高まるのは必至だ。

仮に「ニッポン一億総活躍プラン」も、「成長戦略」も「骨太の方針」も「規制改革」もインパクトに乏しく、サミットでの合意も迫力に欠けることになれば、日銀の政策への期待はいやがおうにも高まる。そこで市場の期待を裏切れば、株価の下落は4月末の比ではないだろう。

消費など景気の足取りが弱い中で、大幅に株価が下落することになれば、参議院選挙の勝敗にも影響することになる。それだけに、サプライズが起こせるのかどうか。まずは5月末の発表に注目が集まる。