「正社員増」に「新築ラッシュ」…日本経済回復を示す二つの明るい数字

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日本経済の明るい兆し

景気の現況についての議論がかまびすしい。

G7伊勢志摩サミットで安倍晋三首相が、データを挙げてリーマンショックの前と似た状況だいう認識を示したことに、「そんなに現状は悪くない」と専門家が批判の声を上げた。その一方、野党議員からは、「(増税再延期で)アベノミクスが失敗したことを首相自ら認めた」と喝采が挙がる。

いったい景気は良いのか悪いのか。

安倍首相が世界経済の「リスク」をことさら強調してみせたのは、消費増税を再延期したいという明確な意図があったからに他ならない。アベノミクスで消費が上向くなど回復し始めた景気を、2014年4月の消費増税で失速させた失敗を繰り返したくないという思いがあった。

ところが、首相自ら、「リーマンショック級あるいは東日本大震災級の事態にならない限り、消費税は予定通り上げる」と言い続けてきた経緯がある。再延期で「ウソつき」との批判を浴びないためには、今が「危機」だと示す必要があったのだ。

確かに、消費は年明けから悪化の度合いを増しており、予定通り2017年4月に税率を8%から10%に引き上げるのは「酷」な状況にあった。2年半先送りして2019年10月に延期したのは賢明な政策判断だと言えるだろう。

オリンピック前のこの時期に景気が悪かったとしたら、日本の将来は終わりである。

では、アベノミクスが失敗に終わった結果、今の景気がどん底で、増税ができない状況に陥っているという野党議員の批判は正しいのだろうか。

実は、足元の経済指標をみると、失敗ではなく、景気回復の兆しらしきものが見え始めている。そんなデータが5月31日に相次いで発表された。

景気好循環のサイクルに入った!?

ひとつは総務省統計局が発表した4月の労働力調査。雇用者数は5679万人と前年同月比1.8%増と、101万人も増加した。

しばしば安倍首相がアベノミクスの成果として胸を張る統計だが、実際、アベノミクスを開始した2013年1月から40ヵ月連続で増え続けている。しかも今年1月以降、1.2%〜1.8%の伸びが続く。1%未満の伸びが多かった昨年に比べて、明らかに好転しているのだ。

増えたと言っても非正規雇用が増えただけではないか、と思われるかもしれない。野党が繰り返し、増えているのは非正規だけで正社員はあまり増えていないと批判してきたからだ。

ところがこれも今年1月以降ムードがガラリと変わっている。正社員の伸びは昨年12月には0.8%増と非正規の1.1%増を下回っていたが、その後、1月1.7%増→2月1.7%増→3月2.0%増→4月2.5%増となり、非正規の伸びを3月4月は大きく上回った。

ここへ来て人手不足は深刻さを増している。

厚生労働省が同じ5月31日発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.04ポイント上昇して1.34倍になった。何と、バブル期の1991年11月に記録した1.34倍以来、24年5カ月ぶりの高水準である。しかもすべての都道府県で1倍を上回り、東京都は2.02倍と2倍を突破、1974年6月以来の高水準になった。

この人手不足は、タイムラグがあるにせよ、いずれ給与の増加に結び付いてくる。

実際、都心部の深夜バイトなどの時給は急速に上がっているが、それでも働き手は集まらないという。安倍首相が繰り返し主張してきた「経済好循環」が始まる兆しが出てきたと言えるのだ。

もうひとつ、景気好転の「兆し」が明らかになった。国土交通省が5月31日発表した4月の新設住宅着工戸数だ。4ヵ月連続で増加し、8万2398戸と前年の同じ月より9.0%も増えた。

新設住宅着工戸数は、消費増税前の2013年に大きく増えた。ところがそれ以降、2013年の数字を下回り続けてきた。昨年6月には単月で2013年を上回ったが、7月以降再び、下回る水準に沈んでいた。

ところが、今年2月以降、2013年の数字を着工戸数を上回り始めたのだ。4月で3ヵ月連続である。

どうやら消費増税以降低迷が続いていた住宅建設に「火」が付いた模様なのだ。消費増税前のピークだった月間9万戸にはまだ届いていないが、住宅建設が増えれば景気には大きなプラス材料になる。

増税延期でさらに加速

なぜ、長年低迷していた住宅に明るさが見えてきたのか。

マイナス金利政策の効果だと見るべきだろう。住宅ローン金利が下がれば住宅需要は増える。また、不動産業界にとっても、新規に賃貸住宅などを建てるチャンスだ。何せ、銀行に預金しておいてもほとんど金利がつかない。マイナス金利政策によって、銀行の貸し出し姿勢も前のめりになっている。

マイナス金利政策はまだ「フル」に発動されていない。市中銀行日本銀行に預けている当座預金のうち210兆円には今も0.1%の金利が付いている。マイナス0.1%が適用されるのは、さらに上積みした場合だけだ。

日銀が6月の政策決定会合で、210兆円の一部や全部について金利をゼロにしたり、マイナスにする決断をすれば、一気に資金が不動産や株式などの資産に流れるだろう。そんな気配を先取りして、不動産業界などが投資を始めている可能性が高い。

都心の商業地などでは土地価格の上昇も起きており、「不動産バブル」を懸念する声もある。だが20年にわたってデフレが続いた日本では、そう簡単に「バブル」と呼んで忌避するようなレベルの価格上昇にはならない。

消費増税という「懸念材料」が消えた今、日本の景気が急速に回復過程に入る芽が生じていると見て良さそうである。