FinTechの流れを後押しする、中小企業用の新たな資金調達システムに注目!

現代ビジネスに7月13日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49166

手形に代わる新たなシステム

金融庁は7月7日、都内のベンチャー企業に対して、「電子債権記録業」としての指定を与えた。

電子記録債権は、企業間の取引で生じた「債権」を電子データとして記録し、それを譲渡する仕組みで、手形取引などに比べて事務コストを軽減できることから、手形などによる支払いに代わる方法として将来性が期待されている。

「電子債権」にするには、取引の債権を電子記録化する必要があり、その登録先として「電子債権記録業者」が選定されている。

これまでは「みずほ電子債権記録」などのメガバンクが設立した子会社や、全国銀行協会が設立した「全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)」など、大手金融機関系に限られていた。でんさいネットの業務開始から3年がたったことから、金融庁ベンチャー企業にも門戸を開くことにした。

金融庁は昨年来、Fintech(フィンテック:金融・IT融合の動き)ベンチャーの育成に力を入れ始めており、今回の指定で新サービスが広がることを期待している模様だ。

指定を受けたのはTranzax(東京都港区、小倉隆志社長)グループ。子会社の「Densaiサービス」を指定機関とし、中小企業が発注元企業に対して持っている売掛債権を電子化。それを特別目的会社(SPC)に譲渡することで、中小企業が低金利で資金調達することを可能にする仕組みの提供を狙っている。

マイナス金利政策によって市場金利は大きく下落しているものの、中小企業向けの金利は下がっていないのが実状。売掛債権がバックにある融資でも、信用金庫などが中小企業の信用力をベースに判断しているためで、現在でも2%程度の金利を課しているケースが少なくない。

一方、Tranzaxが提供する仕組みでは、発注企業単位でSPCを設立するため、SPCは発注企業の信用力をベースに資金調達することが可能になる。このため、0.7%〜1.2%の金利で迅速な資金調達が可能になるとTranzaxでは試算している。この仕組みをTranzaxは「サプライチェーンファイナンス」と命名、これに参加する企業を募っている。

すでに不動産会社3社を含む6社が参加の意向を示しているという。

なんと数日で現金化が可能に

とくに工期が長い建設業などに携わる中小企業の場合、工事完成から代金支払いまでの資金繰りが大きな経営課題になる。発注側の大手不動産会社などとの連携によるサプライチェーンファイナンスの仕組みへのニーズは大きいと判断している。仕組みが出来上がれば、電子債権化から数日で現金化が可能になるとみている。

また、受注先である中小企業の資金調達コストを下げると同時に、発注元の大手メーカーなどにとっても大きなメリットが見込める点も大きい。部品供給などを行う中小企業向けの買掛債務をSPCに一本化することができるようになる。債務を一括管理することが可能になり、財務コストを低減することにつながるわけだ。

取引先中小企業の資金調達コストは、結局のところ製品価格に上乗せされているとみることも可能で、この仕組みを使った資金コストの圧縮は大手メーカーにとってもプラスに働く。

Tranzaxは、野村証券出身でエフエム東京執行役員CSK−ISの執行役員を務めた小倉隆志が、2009年に日本電子記録債権研究所として設立した。2008年に中小企業の資金調達の円滑化を狙って「電子記録債権法」が施行されたのが起業のきっかけという。

「中小企業金融スキームを革新させるだけの、確かな法的機能と柔軟性を兼ね備えた素晴らしい制度だと感じた」と小倉氏は語る。

中小企業金融は従来、不動産担保や第三者の保証のよる融資が主流で、本来は最も確実性が高い売掛債権はなかなか担保として認知されてこなかった。それが、電子債権の誕生で大きく変わると考えたわけだ。

もっとも、金融庁から指定を受けるには、会社としての実態が必要なため、資本金集めに奔走。10億円を集め、港区虎ノ門にオフィスも構えた。取締役には奥島孝康早稲田大学元総長や田端広道・CSK元副社長を据えた。また、今後の建設業界や大手ゼネコンなどが重要な取引先になるとの戦略から、国土交通省の政策統括官だった松脇達朗氏を特別顧問に招いた。

すべては中小企業のために

TranzaxのビジネスモデルはFintechという時代の流れにも合っている。サプライチェーンファイナンスにしても、提供しているのはノウハウや仕組み、事務代行だけで、Tranzaxが与信などのリスクを負っているわけではない。そうしたプラットフォームづくりはIT系ベンチャーなどが得意分野だ。

与信を担ってきた既存の金融機関はそうした新しい「仕組み」づくりでは後手に回っている。このため、金融庁は昨年末にFinTechに関する一元的な相談・情報交換窓口である「FinTechサポートデスク」を設置したほか、「フィンテックベンチャーに関する有識者会議」を始めるなど、急速にFinTech強化に乗り出している。

Tranzaxはサプライチェーンファイナンスを軌道に乗せた段階で、電子債権を活用した新たな資金調達の仕組みも開始したい考え。中小企業が仕事を受注した段階でそれを債権化し、中小企業が資金調達できるようにしようという発想だ。受注段階で資金化できるようになれば、中小企業がさらなる事業拡大に取り組めるようになるとみている。