ピーク時と比べてほぼ半減…ガソリンスタンド消滅時代がやってくる!

現代ビジネスに8月2日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49316

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こんなに儲からなくなった

ガソリンスタンドの減少が止まらない。経済産業省が発表した今年3月末の全国の給油所数は3万2333カ所と、1年前に比べて1177カ所、率にして3.5%も減少した。ピークだった20年前には6万カ所を超す給油所があり、ほぼ半減している。

どこへ行ってもガソリンスタンドがある、という状態が大きく変わっている。高速道路ですら100キロ以上にわたって給油所がない場所が80カ所以上存在するとされ、市町村でも給油所の激減で、生活に支障をきたしかねない状況に追い込まれているところも出始めた。

なぜガソリンスタンドの減少が止まらないのか。ハイブリッド車の普及などで、ガソリン消費量が減っていることが一因とされる。確かにガソリンの国内販売量は減少傾向だが、販売量が激減しているわけではない。2015年のガソリン販売量は5311万キロリットル。前年比で0.9%の減少だったが、年度でみると若干プラスに転じている。販売量が激減したからガソリンスタンドを閉めているということでは必ずしもないようだ。

最大の要因はガソリンスタンド経営が成り立たなくなってきたからだ。原油価格の下落もあって、ガソリン価格が下がったため、利幅が小さくなったことが大きい。つまり儲からなくなったのだ。

同じ経産省の調査で、揮発油販売業者の数は1万5574事業者と1年間で855も減少している。業者自体がつぶれているのだ。

揮発油販売業者にしても、給油所にしても、法律に基づいて届け出することが義務付けられており、廃止する場合にも手続きが必要だ。ところが、給油所を廃止して年数が経っているにもかかわらず、廃止手続きをしないまま、連絡がつかない事業者が頻発。各地の経済産業局が職権で廃止手続きするケースが相次いでいる。

国道脇に入り口をロープで仕切ったまま、草ボウボウになっている給油所などを見かけるが、業者が廃業して放ったらかしになっている給油所も少なくないわけだ。

ガソリンスタンドが儲からなくなったことは、ガソリンを卸している石油元売り会社の業績をみれば一目瞭然だ。2016年3月期のJXホールディングスの業績は、最終赤字が2785億円に達した。出光興産も359億円の赤字、コスモエネルギーホールディングスも502億円の赤字となった。消費量が伸びないところへ、原油価格の低迷で、採算が悪化したのだ。

スタッフ不足も深刻
石油元売りが隆盛だったころは、全国のガソリン販売会社に積極的に支援を行い、自社のシェア拡大に力を注いだが、最近はめっきり石油元売りの力も落ちた。経営態勢の立て直しに向けて業界の合従連衡が進んでおり、現在も出光と昭和シェル石油が統合を目指して準備作業を進めている。

創業家である出光家が統合に反対しているが、経営陣はあくまで統合で生き残りを図る戦略をとっている。こうした石油元売りの業績悪化が地方のガソリン販売会社にも影を落としている。

加えて、地方での給油所の減少の背景には、地方経済の収縮という構造問題がある。人口の減少が鮮明になり、ガソリンスタンドの経営や営業を担う人材が急速にいなくなっている。体力的にきついガソリンスタンドのスタッフが集まらなくなっているのだ。

欧米諸国ではガソリンスタンドの無人化などが進んでいる。日本でもセルフ式のスタンドも解禁されているものの、欧米のように完全無人で運営できるわけではない。規制緩和が後手に回ったという見方もできる。

もうひとつ、ガソリンスタンド経営に重くのしかかる規制がある。給油所のタンクは地下に埋設することが義務付けられてきたが、このタンクが40年たって老朽化した場合に補修義務が課されている。

利幅が小さくなって儲からないビジネスになっているのに加えて、経営者の高齢化も進んでおり、設備投資が必要になった段階でその給油所の廃止や、会社全体の廃業を選択するケースが増えているのだ。

このままガソリンスタンドの減少が続けば、一段と生活に支障をきたす例が増えることになりそう。長距離のドライブでは、事前に給油カ所を決めて出発するのが当たり前の時代が来るかもしれない。また、地方都市の場合、給油所がなくなると冬場の灯油などを手にいれる術がなくなる地域も存在する。

こうした状況に国も危機感を持っている。地下埋設を義務付けてきた給油所のタンクを陸上に設置できるようにするなど、規制緩和を検討している。事業を継続するうえでの投資を小さくすることで、廃業を食い止めようというわけだ。

コンビニエンスストアなどに給油所を設置しやすくするなど、兼業での給油所確保にも力を入れている。

これまで日本では増え続ける石油消費をいかに抑えるかという「脱石油」戦略が採られてきた。ハイブリッド車だけでなく、電気自動車の普及促進などに力を入れているが、一方でガソリン需要が頭打ちになれば、インフラとして整備されていた給油網が壊れるという新たな問題に直面しているわけだ。

地域のエネルギー供給体制をどうするか、という根本問題にもからむだけに、今後、議論が本格化することになるだろう。