「やめられない止まらない」岸田内閣の「分配」しまくり政策の行く末 財政悪化、円安、輸入価格高の悪循環

現代ビジネスに4月29日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/94918

バラマキ政策を始めるのは簡単だが、いったん始めてしまうと、それをやめるのは難しい。岸田文雄内閣は「7月の参議院選挙に勝つまでは」を半ば合言葉に、国民に分配しまくるバラマキ政策を続けている。7月の選挙で勝ったら180度舵を切ってアメを取り上げ、国民に負担を求めることができるのかどうか。

岸田文雄首相は4月26日、記者会見を開き、「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を打ち出した。「私は、2段階のアプローチで万全の経済財政運営を行ってまいります」と大見えを切り、1段階として予備費を使った支援策、第2段階として、補正予算を組んでの対策を取る姿勢を示した。

その具体策のひとつが、ガソリン価格の上昇抑制を狙った石油元売り会社への補助金拡大だが、まさしくこれが、止められなくなった政策の典型だ。

経産省補助金にこだわる理由

2022年1月にガソリン価格を全国平均で172円程度に抑えるとして、石油元売り会社に補助金を出し始めた。ガソリン価格には上乗せで税金がかかっており、価格上昇時にはその税金を外す「トリガー条項」が付いているが、経済産業省は減税には後ろ向きで、石油元売り会社への「補助金」を出す形にこだわった。目的税は役所の「第2のポケット」だから、それを手離すのに抵抗しているわけだ。

補助金は、当初は1リットル当たり最大5円で、3月末までの時限措置だった。実際、1月27日~2月2日分として払われた補助金は3.4円、2月3日~9日分は3.7円だった。

ところが、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻すると、原油価格は大きく上昇を始める。ニューヨークの原油市場ではWTI先物価格は7年7ヵ月りに100ドルを突破した。これに対して岸田内閣は補助額の上限を25円に引き上げる道を選んだ。その後、3月末までとしていた期限も4月末までに延長した。しかし、原油価格の上昇は収まらない。

4月26日の「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」に盛り込まれたのは、石油元売り会社への補助金の上限を35円に引き上げること。さらに172円だった「基準価格」を168円に引き下げた。もはや止められないどころか、国際市場価格の上昇につれて、補助金をどんどん積み増しせざるを得なくなっている。さらに4月末だった期限も9月末まで延長することになった。

この5ヵ月間で、石油元売会社に支給する補助金は1兆5000億円に達するという。しかも、国際市場価格が上昇を続けた場合、上昇分の半分を国が追加で助成することも盛り込んだから、価格が上昇すればするほど、補助金も必要になるということだろう。

とりあえず、9月末に期限を区切っているものの、だれもそこで終わるとは思っていない。35円の補助金を止めれば、ガソリン価格が168円から203円に飛び跳ねることになる。ジワジワ上がるのと違い、その衝撃は大きい。

国が何があっても手放そうとしないもの

価格が上昇しているのはガソリンだけではない。輸入小麦の価格上昇も激しく、すでに小麦粉の値上げによるパンやパスタの値上がりが起きている。これに対しても岸田首相は「9月までの間、政府の販売価格を急騰する前の水準に据え置きます」と記者会見で表明した。

輸入小麦は国が一括して買い上げ、民間製粉会社に売却する「国家貿易」が行われている。

輸入価格に手数料とマークアップと呼ばれる差益分が上乗せされて販売価格が決まる。通常は、輸入価格よりも販売価格は高いから、その差額が国内小麦農家の保護などに使われてきた。ところが、販売価格を引き上げられないと、輸入価格の方が高い「逆ザヤ」が生じる。もちろんこれは国が被ることになるわけで、財政支出で補うことになる。

価格を抑えるために国が負担を増やすのは簡単だが、価格が下がらない限り、止めることができなくなるだろう。

これまで国が続けてきた政策でも止められなくなっているものが少なくない。雇用調整助成金もそのひとつ。新型コロナの蔓延で影響を受けた企業が、余剰人員を抱え続けた場合、政府がその人件費の一部を雇用調整助成金として支給、失業者の発生を抑え込む政策だ。

これも何度も政策の期限がやってきたものの、新型コロナの蔓延が収まらないことから、延長が繰り返されてきた。

2022年3月末までだった期限は6月末に延長されているが、これもさらに延長されることが確実視されている。7月の参議院選挙前に給付を打ち切れば、選挙にマイナスになるという声が自民党内に根強くあるためだ。

当然、政府が支出する金額も膨らみ続けている。2020年4月から2022年4月22日までに支給決定された雇用調整助成金は総計5兆5948億円にのぼる。

国民生活に打撃を与える「分配重視」

政府・日銀が続ける「大規模な金融緩和」政策も、出口を失っている。本来は物価上昇に対して打つべき手は「利上げ」だが、日銀は金融緩和を続ける姿勢を崩さない。

金利が上がれば、企業経営に影響を与え、景気にマイナスになるというのが建前だ。利上げに動き出した米国との間で金利差が拡大し始めており、円安に拍車がかかっている。それでも政策転換できないのは、政策を変えることによる政権への打撃が大きいからだろう。

岸田首相の言う「分配重視」は、国民には心地よい政策には違いないが、国家財政の悪化が続けば、さらに円安が深刻化し、輸入物価の上昇で、国民生活は大きな打撃を被ることになるだろう。