高級時計が売れない! 全世界で売上大幅ダウン、これは何の兆候か? 中でも日本市場が一番凹んでいる…

現代ビジネスに10月12日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49924

一番落ち込みが激しいのは日本

世界の高級ブランド品市場の冷え込みが鮮明になってきた。

高級時計や宝飾品ブランドなどを傘下に持つスイスのリシュモン・グループが9月中旬に開いた株主総会で、今年4月から8月までの5ヵ月間の売り上げ速報を公表したが、全世界での売上高は為替の影響を除いた実質ベースで14%減と大幅な減少になったのだ。

中でも目立ったのが日本での売り上げ減少。前年の同期間に比べて25%も減った。中国からの旅行客の「爆買い」が沈静化したことで、高級時計などの売り上げが激減したことが響いた。

続いて減少率が高かったのは欧州の18%減。テロ事件などの影響で、フランスを訪れる旅行者が減っていることなどが売り上げの減少に結びついたという。その他の欧州地域も総じて販売が振るわなかった。次いで中東アフリカが10%減った。

日本を除くアジア太平洋は9%の減少。中国本国での売り上げは伸びたとしているが、香港やマカオでの売り上げが減少し、全体ではマイナスになった。

比較的景気が良好とされる米国でも6%減っており、世界的に続いてきた高級品ブームに陰りが出ていることがはっきりした。

リシュモンは時計と宝飾品を扱うが、時計が18%減、宝飾品が15%減となっており、ほぼ同じ傾向になった。

中国人旅行者が世界中で高額品を買ってきたことが、ここ数年、高級ブランド品業界を潤わせてきた。しかし、中国経済の停滞が鮮明になったことで、高級品が落ち込んだ。旅行者が中国国内にお土産品を持ち込む際の課税を強化する動きなどもあり、旅行先での高級品購入が減っているという見方もある。

スイス時計も急落

こうした傾向は他の高級ブランド・グループにも共通している。スイス時計協会がまとめたスイスから各国への時計輸出額は1月から8月までの累計で124億8400万スイスフラン(約1兆3195億円)と前年の同期間に比べて10.9%減少した。

中でも世界最大の消費地である香港向けが27.6%減と大幅に落ち込んだほか、台湾向けが19.8%減、シンガポールが18.4%減った。いずれも中国人旅行客でこれまで伸びてきた国々である。欧州ではフランス向けの減少率が最も大きく、18.4%減となった。

スイスからの輸出額では日本向けは2.8%減だが、これは今年前半の時計輸入が比較的堅調だったことや、円安によって輸入価格が上昇しているためとみられる。8月単月でみると日本向けは27.1%減という大幅な減少になっており、日本の足下の消費低迷が大きなインパクトを与えていることが分かる。

香港に次ぐ世界2位の市場である米国向けスイス時計の輸出も10.4%減っている。世界経済を牽引してきた米国の消費に陰りが出始めているとすると、今後の世界経済の足を引っ張ることになる可能性もある。

爆買い終了も痛手

一方、このスイス時計協会の統計をみると、主要30ヵ国のうち1−8月がプラスになっているのは英国(0.4%増)、カナダ(4.2%増)、クウェート(8.8%増)、スウェーデン(6.7%増)、バーレーン(37.0%増)、イスラエル(0.7%増)の6ヵ国のみ。

英国は国民投票EU欧州連合)からの離脱が決まったことで、為替が一気にポンド安に振れており、金額ではプラスになっているものの、数量が増えているかどうかは微妙だ。中東が比較的順調とみられるものの、世界全体の需要と比べれば量が小さい。

また、完成品の時計だけでなく、ムーブメント(駆動機械)の輸出個数も1−8月では19.2%減っており、世界での高級時計の需要が冷え込んでいることをうかがわせる。

日本での高級品販売も復活の兆しが見えて来ない。

日本百貨店協会がまとめている全国百貨店売上高の「美術・宝飾・貴金属」部門の売り上げ推移をみると、消費増税の反動減が消えた2015年4月以降、前年同月比プラスが続いていたものが、今年3月以降、マイナス続きとなっている。

しかも3月に4.3%減だった減少率は、4月7.1%減→5月7.9%減→6月9.2%減→7月6.0%減→8月10.7%減と減少率が大きくなっており、足下の高級品消費の落ち込みが激しい。

高級時計など高額品の利益率は高いことから、百貨店の業績を一気に悪化させている。10月7日に高島屋が発表した2016年8月中間決算は、売り上げが4433億円と前年同期比1.4%減ったことで、純利益も84億円と23.2%減った。2017年2月本決算の見通しをこれまでの増収増益から、大幅に下方修正し、売り上げは0.5%減、純利益は16.1%減とした。

アベノミクス開始直後は、円安株高によって、いわゆる「資産効果」が発生、百貨店の高額商品の売れ行き好調が続いた。昨年6月をピークに株価が低迷していることもあり、国内個人客の財布のひもは締っている。

中国人観光客を中心とする「爆買い」が一服したこともあり、日本国内でも高級時計などの需要は当面、盛り上がりに欠ける展開になりそうだ。