【高論卓説】日本企業にまかり通る「ウソ」 相次ぐ不正、経営トップは本当に反省しているのか?

11月7日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。
オリジナル→
http://www.sankeibiz.jp/business/news/171107/bsg1711070500001-n1.htm


 東芝日産自動車神戸製鋼所と、企業の不正が相次いで発覚している。日本企業はいつから「ウソ」がまかり通る組織になったのか。どうすれば、不正を根絶することができるのか。不正が発覚した企業はみな、謝罪会見を開いてトップが頭を下げてはいる。だが、本当に反省しているのか。見ていて疑わしい印象を受ける。

 東芝でも粉飾決算を行った歴代社長は逮捕すらされていない。粉飾、つまり有価証券虚偽記載罪はれっきとした犯罪だ。にもかかわらず、証券取引等監視委員会が求めても東京地検は立件に踏み切らない。理由は、当事者たちが容疑をかたくなに認めないためだとされる。つまり、トップたちは、「チャレンジとは言ったが、粉飾をやれとは言っていない」「自分が罪を犯したわけではない」と思っているのである。

 粉飾決算にしても、「会社のためにやったことで、悪いことをしたわけではない」というのが当事者たちの率直な思いだろう。欧米企業でしばしば起きる不正事件のように、経理帳簿を改竄(かいざん)して自分の懐にカネを入れたわけではない。あの段階で数字を作ってかさ上げしなければ会社が潰れて路頭に迷っていた。だから、仕方がなかったのだ。そう思っているフシがある。

 かつて総会屋事件で利益供与していた総務担当の役員たちも、本当には反省していなかった。会社のためには「汚れ役」が必要で、それをこなしているだけ。自分の利益のためにやっているわけではない、と思っていた。経営トップもそれが分かっていて、仮に逮捕されても、ほとぼりが冷めると子会社の顧問などにして生活の面倒をみていたものだ。建設業界の談合もまったく同じ構図だった。

 総会屋対策では、利益供与した会社側役員にも厳罰を加える法改正が実施された。さらに総会屋の罰則も強化されたため、割に合わない犯罪になって、今はほとんど下火になった。

 では、どうすれば企業の不正は根絶できるのか。一つは、不正が発覚したら厳罰に処することだ。不正が明らかになれば、厳しい罰が待っているとなれば、誰も不正は働かない。

 もう一つは会社のトップが「不正は絶対に働くな」と明言することだ。その上で、不正が発覚した場合、「不正に手を染めた社員は守らない」とはっきり言うことである。守らないどころか、会社が不正を働いた役員や社員を告発したり、損害賠償を求めたりするとまで言えば、社員はだれも不正に手を染めなくなる。

 終身雇用が幻想だと思い始めている若い世代は、会社に対する絶対的な忠誠心など、もはや持ち合わせていない。会社のために自分が不正を働いて処罰されるなど、ばかばかしいと思っている。だからこそ、社長が「会社のためだから不正を働くなんて絶対にダメだ。そんなことをしても、決して会社のためにはならない」とはっきり言えば、不正のカルチャーは根絶できる。日本企業から不正をなくす第一歩は、社長がまず腹をくくることである。

【プロフィル】磯山友幸

 いそやま・ともゆき ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め2011年に独立。55歳。