消費が盛り上がり始める3つの理由

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。1月号(12月上旬発売)に書いた原稿です。

高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]https://www.webchronos.net/

クロノス日本版 2018年01月号【雑誌】

クロノス日本版 2018年01月号【雑誌】

 時計や宝飾品、美術品といった高額品の消費が再び盛り上がる気配が見え始めた。日本百貨店協会がまとめた9月の全国百貨店売上高(店舗数調整後)で、「美術・宝飾・貴金属」部門の売上高が前年同月比11.1%の増加と6カ月連続のプラスとなった。しかも、10%を超える2ケタの伸びになったのは2015年11月以来、1年10カ月ぶりだ。高級品の売れ行きは消費動向を見るうえで先行指標とも言えるだけに、低迷を続けてきた消費がいよいよ本格的に回復する可能性が出てきた。
 高額品消費の売れ行きが好調な理由は3つ。ひとつは日本を訪れる外国人が引き続き増加を続けていることによる「インバウンド消費」の伸び。百貨店で外国人旅行者が免税手続きをした「免税売り上げ」は232億円と、過去最高だった。来店客数は33万人と、7月の35万7000人には届かなかったものの、1人当たりの購買額が7万円と前年同月の5万9000円から大幅に増えた。ちなみに客単価が7万円を超えたのは2016年2月以来だ。外国人消費が高額品に再びシフトしている様子が見て取れる。
 従来は外国人観光客の伸びだけが目立ち、国内消費にはなかなか火が付かなかったが、どうやらそこにも変化が見え始めた。百貨店売上高から免税売り上げを引いた「実質国内売り上げ」を計算し、対前年同月比を見ると、2017年9月は2016年7月以来1年2カ月ぶりにプラスに転じた。
 高額消費好調のふたつ目の理由は株価上昇による資産効果だろう。日経平均株価が9月中旬に2万円を突破、10月に入ると2万2000円台へと駆け上がった。9月25日の週以降、海外投資家が買い越しを続けている。そんな中で個人投資家はせっせと株式を売り越しているが、当然、利益を得ているとみられ、それが財布のひもを緩ませている。いわゆる「資産効果」である。おそらく10月以降の高額品消費も同じような傾向が続くだろう。
 もうひとつ理由が今後予想される「可処分所得の増加」だ。安倍晋三内閣は2014年以降、「経済の好循環」を政策として掲げ、円安で企業収益が好転した分を給与に回すよう要請し続けてきた。2014年以降、春闘では4年連続でベースアップが実現している。ところが、消費が増えないのは、実は、可処分所得が増えていなかったから。給与の支給総額は上がっても、手取りが増えなかったのは、厚生年金などの社会保険料負担が増えていたからだ。
 多くの国民は忘れているが2004年の法律改正で、厚生年金の保険料率は2005年から毎年9月に引き上げられている。2004年9月に13.58%(半分は会社負担)だった保険料率は、それ以降、毎年0.354%ずつ引き上げられている。2017年9月には18.3%になった。2004年と比べると、13年で4.72%も上昇したのだ。仮に基準となる給与が年400万円だとすると、会社負担分と合わせて19万円近く上昇したことになる。
 この保険料率の引き上げがようやく終わり、頭打ちになったのである。これによって企業が給与を増やせば、手取りも増える環境に変わるわけだ。
 また、人手不足もあって、賃金の上昇が著しい。特に深夜のアルバイトや年末年始のパートなど、人手が集まらない職種や時間帯の時給は大幅に上昇している。こうした手取りの増加が続けば、消費にプラスになってくるのは時間の問題とも言える。
 外国人消費と株高による資産効果、そして給与増に伴う可処分所得の増加ーー。この3つが重なることによって、消費は本格的に回復に向かうだろう。2020年の東京オリンピックパラリンピックに向けて、景気は一段と力強さを増すに違いない。日本を訪れる外国人も2020年に向けてさらに伸びるのは明らかで、これに伴うインバウンド消費も好調を持続するだろう。時計など高級品の販売などでも、再びチャンスが到来することになるに違いない。