「会計は原点に戻れ」なぜ日本企業は不祥事解明のための「第三者委員会」を設けないのか 日産、SUBARU、東レ……民間委員会が異例の声明

現代ビジネスに2月7日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54321

声明がやり玉に挙げたこと
企業不祥事が相次いだ場合に設置される「第三者委員会」の報告書を評価する民間の「第三者委員会報告書格付け委員会」が、昨年相次いで発覚した品質偽装などの不祥事について、真相究明のために「第三者委員会」すら設置しないのは問題だとする異例の声明を2月6日、発表した。同委員会の委員長を務める弁護士の久保利英明氏が都内の事務所で記者会見して公表した。

日産自動車SUBARUが委員会を設置していないことや、東レが設置した有識者委員会が調査を自ら行っていないことをやり玉に挙げ、社外取締役のリーダーシップによって第三者委員会を設置するよう求めている。

声明ではまず、日本取引所自主規制法人が2016年2月24日にまとめた「上場会社における不祥事対応のプリンシプル〜確かな企業価値の再生のために」を挙げ、それに沿った対応の重要性を強調した。

プリンシプルでは、「内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当の疑義が生じている場合、当該企業の企業価値の毀損度合いが大きい場合、複雑な事案あるいは社会的影響が重大な事案である場合などには、調査の客観性・中立性・専門性を確保するため、第三者委員会の設置が有力な選択肢となる」とされており、声明ではこの点を重視すべきだとした。

そのうえで、日産自動車神戸製鋼所SUBARU三菱マテリアル東レといった昨年不祥事が相次いだ企業では、「いずれも、独立性・中立性・専門性を確保した第三者委員会の設置が必要と思われるが、少なくとも、日産自動車SUBARUは委員会を設置せず、東レ有識者委員会は調査を自ら実施せず、プリンシプルに即した対応を避けている」と、強く批判している。

経営者はなぜためらうのか
格付け委員会は第三者委員会がまとめた報告書を検証するのが役割だが、そもそも第三者委員会の設置自体を企業経営者が意図的に避けていたのでは話にならない、というわけだ。

経営者が「第三者委員会」を設置しないのは、プリンシプルが上場会社に求めている「必要十分な調査により事実関係や原因を解明し、その結果をもとに再発防止を図ることを通じて、自浄作用を発揮する」という点や、「速やかにステークホルダーからの信頼回復を図りつつ、確かな企業価値の再生に資する」という点に明らかに反しているとした。

さらに、不祥事企業の経営者が第三者委員会の設置をためらう事について、「経営者がその経営責任(及び法的責任)を問われる場面であり、安易で不十分な調査により事案を矮小化して難局を切り抜けたいという動機が働」いている点を指摘。「経営者と会社との間に利益相反が生じる」としている。

そうした経営者の「逃げ」を防ぎ、「会社の利益」を守るために真相究明に当たるためには、社外役員の役割が重要だとしている。

「社外役員は、経営者が安易で不十分な調査に逃げないよう、リーダーシップを発揮し、確かな企業価値の再生に向けた道筋を付けるべきである」と声明では述べている。取引所のプリンシプルが求める「独立役員を含め適格な者が率先して自浄作用の発揮に努める」という規定を積極的に遵守すべきだとしているのだ。

「名ばかり」で失敗した東芝
だが、その一方で、「名ばかり第三者委員会」に気を付けるべきだという点を、東芝の例を挙げて指摘している。

東芝は過去の会計不正について調査する「第三者委員会」を2015年5月に設置したものの、米原子力子会社のウエスチングハウスの「のれん」の減損問題を調査対象から外した。

声明では、このことが、「同年12月の同子会社による旧CB&Iストーン&ウェブスターの買収につながり、その後の経営危機を招いたという見立ては、企業社会の共通認識になりつつある」と指摘している。

三者委員会がきちんとウエスチングハウスの経営状況を調査していれば、入れ替わった新経営陣が旧CB&Iストーン&ウェブスターの買収を承認することはなかったに違いないとしているのだ。

取引所のプリンシプルは「第三者委員会という形式をもって、安易で不十分な調査に、客観性・中立性の装いを持たせるような事態を招かないよう」と注意喚起している。

今回の声明では、「実態を伴わない『名ばかり第三者委員会』は、確かな企業価値の再生を阻むどころか、逆に企業価値を毀損する事態を招く。こうした事態を招かないようプリンシプルに即して行動することも、有事における役員の善管注意義務の一部をなすことを、役員は銘記すべきである」と締めくくっている。

「第三者委員会報告書格付け委員会」は2014年に民間の自主的な組織として設立。久保利氏を委員長に、弁護士の國広正氏が副委員長、竹内朗氏が事務局長を務める。現在は他に委員が6人。齊藤誠氏、行方洋一氏の弁護士2人に、会計監査学者の八田進二氏と中央大学法科大学院教授の野村修也氏の学者2人、科学ジャーナリスト松永和紀氏と元共同通信社会部長の塚原政秀氏のジャーナリスト2人で構成する。

格付け対象を選んで各委員がA〜Dの4段階で格付け、評価に値しない報告書についてはFとする「格付け」結果を公表している。すでに15回の格付けを行い結果を公表した。

一番最近では日産自動車が検査不正問題について弁護士チームに依頼して昨年11月17日に公表した「調査報告書(車両製造工場における不適切な完成検査の実施について)」を対象に評価。結果を、2018年1月26日に公表した。

結果は、格付けに携わった8人の委員のうち6人が最低ランクの「D」を付けたほか、2人が評価に値しないとして「F」を付けている。