「アパートローン大幅減少」で、日本経済にイヤな予感が漂ってきた マンションは高値で推移だが…

現代ビジネスに2月14日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54463

3年ぶりの減少
景気動向を大きく左右する住宅建設の行方に不透明感が漂っている。

国土交通省がまとめた2017年の「新設住宅着工戸数」は96万4641戸と前年に比べて0.3%減少、3年ぶりにマイナスになった。

マイナス幅は大きくないが、2015年に1.9%増だったものが、2016年は6.4%増と大きく増えていたこともあり、2017年の数字が注目されていた。結果は、「頭打ち」感が鮮明になった。

最大の要因は前年に10.5%増と大きく伸びた「貸家」が0.2%増にとどまったこと。41万9397戸と全体の43%を占めており、伸び率鈍化が全体の伸び率に響いた。相続税対策として建設が増えていた賃貸用のアパート・マンションが一服したことが大きい。

節税対策として、土地所有者などにアパートやマンションを借金して建てるよう勧める「相続対策アパート」は、全国各地に広がってきた。

業者が家賃保証して借金返済などに充てるスキームだが、供給過剰によって約束通りの家賃が支払われない問題業者のケースなどが報道され、社会問題化している。

こうした「相続対策アパート」の人気が下火になったことが「貸家」の建築に影を落としているとみられる。また、前の年は3.1%増えた「持家」の建設が、28万4283戸と2.7%のマイナスになったことも響いた。

一方で分譲住宅は1.9%増と3年連続のプラスになった。分譲一戸建ての伸びは鈍化したものの、前年に0.9%のマイナスだった分譲マンションが0.2%増とプラスに転じたことが大きい。

今後、この分譲マンションがどれぐらい供給されるかが、住宅着工に大きな影響を与えるとみられる。

金融機関のブレーキ
このように年間でみると、まだら模様の住宅着工だが、月別にみると傾向がはっきりしている。「持家」も「貸家」も昨年6月から7カ月連続で前年割れを続けているのだ。昨年6月あたりから急ブレーキがかかっているのである。

背景には金融機関の融資姿勢の変化がありそうだ。

2016年1月に日本銀行は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」と呼ぶ緩和策を導入。2月以降は超低金利となった。銀行はこぞって不動産向け融資などに資金を回したため、2016年は不動産向け融資が12兆円を突破、統計を遡れる1977年以降で最高を記録した。

日本銀行が今年2月8日に発表した統計によると、2017年の全国の銀行による不動産向け新規融資額は11兆7143億円となり、前の年に比べて5.2%減った。新規融資が前年を下回ったのは2011年以来6年ぶりという。

なかでも、個人が貸家を建てる際のアパートローンが大幅に減った。不動産向け融資のうち、アパートローンなど個人の賃貸業向けは3兆3202億円と14.2%の大幅な減少になった。

2015年と16年は2ケタの増加が続いていただけに、急ブレーキの主因がこのアパートローンにあったことを伺わせる。不動産価格の上昇や、アパートの供給増などで、個人向けのアパート建設に対する金融機関の融資姿勢が厳しくなったとみられる。

昨年は不動産向け融資が大幅に膨らんだことから、「バブルの再来」を指摘する声が上がり、日銀のマイナス金利政策への批判が盛り上がった。銀行もこうした「バブル批判」に敏感になり、融資姿勢を見直したとみられる。

昨年6月ごろには、三井住友信託銀行東京スター銀行など一部の銀行が、不動産融資の急拡大に慎重になっている、という記事も掲載されていた。ちょうどその6月から「貸家」の着工が前年比マイナスに転じており、金融機関の融資姿勢と新設着工の頭打ちには密接な関係があるとみていいだろう。

消費税駆け込み需要を越えられず
住宅着工戸数は消費税の駆け込み需要が大きかった2013年度の98万7254戸をいまだに上回っていない。消費増税の反動減が大きく、影響が長引いたためだ。

2016年3月頃からは2013年度の月次戸数を上回る月が出始めたことから、期待されたが、2017年の6月以降は2016年の月次実績にも届かない状況が続いている。

住宅着工は景気の先行きを占ううえで、大きなウエートを占める。住宅を建てれば、家具や内装品、家電製品などの消費にも大きく貢献するからだ。今後、新設住宅着工がどうなっていくのか。景気の先行きを見極めるうえで、要注目である。

相続対策アパートなど貸家向けの融資はさらに厳しくなる可能性もあり、貸家建設には逆風となりそうだ。一方で、賃金の上昇など景気回復ムードが高まってくれば、分譲住宅やマンションなどの需要増を見込んだ着工も増えて来ると考えられる。

マンション価格などは高値圏で推移しているが、景気回復によって金利の底入れ感が広がってくれば、駆け込み需要が出て来る可能性もある。毎月月末に公表される住宅着工の統計数字から目が離せなくなってきた。