「高島屋一番店は大阪店」で知る「商都大阪」復活!? ひとり勝ちの大阪は外国人をガッチリつかむ

月刊エルネオス5月号(5月1日発売)に掲載された原稿です。

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 国内消費がいまひとつ盛り上がらない中で、ひとり大阪だけが元気だ。理由は大阪を訪れる外国人旅行者が落とすおカネをガッチリとつかんでいるから。今や大阪難波から心斎橋筋にかけて歩いている人の過半は外国人ではないかと思われるほど。立ち並ぶ商店も中国語や韓国語のポスターやチラシを用意し、外国語が話せる店員を置くなどインバウンド・マネーの獲得に工夫を凝らしている。まさに「商都大阪」復活の様相なのだ。
 これは統計にはっきりと表れている。日本百貨店協会が毎月発表する全国百貨店売上高。店舗数調整後の数字で「大阪地区」の売上高の増減を見ると、何と二〇一七年一月以降十四カ月連続で前年同月比プラスが続いている。全国平均はプラスになったりマイナスに沈んだりの一進一退で、一七年十二月以降は三カ月連続でマイナスになっている。それだけに、大阪の「ひとり勝ち」は際立っているのだ。
 郄島屋の二〇一八年二月期決算は象徴的だった。同社の百貨店店舗の中で「大阪店」の売り上げが一千四百十四億円と八・八%も増え、東京・日本橋店の一千三百四十二億円を抜いて「一番店」に躍り出た。郄島屋はもともと大阪が本社だが、大阪店が「一番店」だったのは一九五一年が最後というから、何と六十六年ぶりの一番店返り咲きである。
 前期の郄島屋全体の年間売上高は九千四百九十五億円。このうち免税手続きをしたものの売り上げは四百八十七億円だったという。つまり、五・一%だ。同じ期間の全国百貨店の免税売上高は二千八百五十億円ほどで、全売上高の四・八%相当だから、郄島屋はそれをやや上回っていたことになる。

インバウンドで潤う大阪

 だが注目すべきは「大阪店」だ。大阪店の売上高一千四百十四億円に対して、同店の免税売上高は二百四十億円あまりだったという。何と全体の一七%である。実際には免税手続き対象外の商品も外国人観光客は購入しているとみられ、郄島屋大阪店の外国人客依存度は二割を大きく超すとみられる。まさに、外国人観光客様々なのだ。
 もちろん、外国人で潤っているのは郄島屋だけではない。道頓堀や心斎橋筋の商店街、難波の黒門市場など、外国人の人気スポットになっている。黒門市場はさながら、日本の味を楽しめるフードコートと化している。京都や神戸の百貨店売上高がそれほど増えていないのを見ると、間違いなく、大阪が外国人を惹きつけているのだ。
 報道によると一七年に大阪府を訪れた訪日外国人客は一千百万人。日本政府観光局(JNTO)の推計では、日本全体での訪日外国人客は、二千八百六十九万人だったので、三人に一人が大阪を訪れた計算になる。その外国人が大阪で使ったおカネの総額は一兆一千七百三十一億円にのぼったというから、大阪経済の底上げに外国人は間違いなく大きく貢献している。
 なぜ大阪なのか。
 その理由のひとつはLCC(格安航空会社)便の増加である。関西国際空港にLCC専用のターミナルができたこともあり、LCC便の発着数が大幅に増えた。大阪ミナミの難波は、関空の玄関口である。難波駅から関西空港駅まで南海電鉄の特急で三十六分。百貨店などでは空港までの時刻表を配布するなどして、「出発までの空き時間をギリギリまで買い物ができる」点をアピールしている。銀聯カードやアリペイなどが使えるのは当たり前、当日の航空券を見せると割引になるサービスなどもあり、さすが大阪商人の心意気を感じさせる。街を挙げて観光客に買い物しやすい環境を提供しているのだ。

コスパの良さと官民の「やる気」

 大阪の「コスト・パフォーマンス」の高さも人気の秘密のようだ。特に、アジアからの観光客には、大阪流の「コスパの良さ」が受けている。大阪ミナミ周辺のビジネスホテルは東京に比べればまだまだ割安なところが多い。さらに、大阪の「色」も肩ひじ張らず、気軽に買い食いができるものが多い。まさに「食いだおれ」の大阪が、アジアの観光客にフィットしているのだ。
 商都大阪は、「価格勝負」が当たり前。観光客が値切っても決して嫌な顔など見せない。このあたりも東京の高級店とはひと味違う。
 大阪を訪れる観光客は、圧倒的にリピーターが増えているとみられている。有名な観光地は一度訪れるとなかなか同じ場所に行かないが、大阪には繰り返しやってくる。玄関口ということももちろんあるが、食事や買い物など「日本」を楽しむには格好の街なのだ。これは同じ関西でも、京都や神戸とは大きく違うところだろう。
 商都復活の背景には、もうひとつ、政治の役割も大きいかもしれない。大阪維新の会が大阪での改革を掲げた頃、大阪の経済はどん底だった。大阪の県民所得はかつて競っていた東京には大きく引き離され、名古屋や横浜に追いつかれていた。少子高齢化も深刻で、閉塞感が満ちていた。そこで、経済再生を政策の柱として掲げたのである。
 府市統合による二重行政の解消や市営地下鉄の民営化、地下鉄新路線の検討など公共インフラのつくり直しを橋下徹知事・市長らは掲げてきた。関西空港伊丹空港の一体運営化なども実行に移した。そうした改革が、街に活気を与えていることも間違いない。
 公共インフラの整備は、外国人観光客を積極的に受け入れていくうえでも重要だ。民間の「やる気」ももちろん大事だが、行政が本腰を入れて誘致を行う必要がある。そういう意味でも、まだまだ大阪はポテンシャルがあるかもしれない。
 大阪の賑わいは、決して偶然の結果ではない。官民を挙げたさまざまな工夫が街の魅力を増し、外国人観光客を引き寄せたと見るべきだろう。まだまだ地域の魅力を発揮できていない日本各地は、大阪に学ぶことがありそうだ。