台風や地震の影響で一時的なものか? 訪日外国人が前年同月比で5年8カ月ぶりに減少

月刊エルネオス11月号(11月1日発売)に掲載された原稿です。
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 二〇一三年二月以来、前年同月比で増加を続けてきた「訪日外国人」が、今年九月は五年八カ月ぶりにマイナスになった。日本政府観光局(JNTO)が十月十六日に発表した訪日外客数の推計値によると、九月に日本を訪れた人は約二百十六万人と前年の同じ月に比べて五・三%減った。
 台風二十一号の影響で関西国際空港が閉鎖されたことや、北海道胆振東部地震で北海道旅行を取りやめる観光客が増えたことが主因。香港や韓国、中国、台湾からの訪日客が減少した。こうした国・地域の観光客は「爆買い」に代表されるように、日本での買い物に多額のおカネを落としてきただけに、観光客の減少が続くようだと、日本経済に大きな影響を与えそうだ。
 最も多い中国からの訪日客は、九月は六十五万二千七百人と三・八%減った。関西国際空港の閉鎖による欠航や、胆振東部地震での札幌新千歳便の欠航で、団体旅行のキャンセルが相次いだ。また、クルーズ船も台風の影響で欠航や寄港中止となったことが響いた。
 中国からの訪日客が対前年同月比でマイナスになったのは、一三年の八月以来、五年一カ月ぶりのことだ。また、香港からの訪日客は二三・八%減の十二万六千二百人と大幅に減少した。
 台湾は、前年は十月だった中秋節の休暇が九月になった効果があったはずだが、訪日客は三十二万九千百人と五・四%減った。
 問題は今回の減少が、悪天候や災害、それに伴う空港閉鎖といった外部要因による一時的なものかどうかだ。中国などからの訪日客の減少をよそに、タイやシンガポール、マレーシアなど東南アジア諸国や、米国、豪州、欧州各国からの訪日客は九月としては過去最高を記録している。日本旅行ブームはまだまだ広がりを見せており、訪日外国人の増加傾向は揺るがない、という見方もある。

百貨店の免税売上高の減少は
訪日ムードの変調か?

 その一方で、韓国からの訪日客が今年七月以降、三カ月連続で減少するなど、増加傾向に変化が出ているのではないかと懸念される数字も見える。韓国からの訪日客は、九月は四十七万九千七百人と一三・九%も減少。天候や災害だけが要因ではない可能性もある。
 中国などからの訪日客が頭打ちになった場合、日本経済への影響は大きい。特に、低迷している消費を訪日外国人による「インバウンド消費」が下支えしていたこともあり、訪日客の減少はモロに消費悪化に結びつく可能性が大きい。
 例えば百貨店の売上高に占める免税手続き売上高は六%前後に達している。免税で購入するのは大半が訪日外国人だが、実際には免税にならない商品も購入しており、外国人依存度はさらに高いとみられる。
 全国の百貨店での免税売り上げは今年四月の三百十六億円をピークに、八月の二百五十八億円まで四カ月連続で前の月を下回っている。月によって訪日客数に違いがあるため単純に前月とは比べられないが、四カ月連続で前月を下回ったのは免税対象が拡大された一五年以降で初めてのことだ。明らかにムードが変わってきていると言えそうだ。
 訪日外国人の消費の恩恵を受けていた代表的な地域は大阪だ。全国の百貨店売上高が振るわない中で、大阪地区の百貨店売上高は一七年一月以降、今年六月まで対前年同月比プラスを続けた。それだけに、高潮による被害を受けた関西空港の発着便の減少は大きな痛手になっている。九月の大阪地区の百貨店売上高がどこまで減少するか、そして、それがどのくらいの期間で回復するかが注目される。

地域経済の底上げにも
外国人観光客がカギを握る

 観光庁の推計では、今年一月から九月までに訪日外国人が旅行に使った費用は三兆三千三百三十八億円。年間で見ると昨年に引き続いて四兆円を大きく超えることは確実だ。
 ただ、使うおカネも頭打ちになりつつある。七〜九月の速報を見ると、訪日外国人ひとりが使う旅行費用の総額は平均十五万五千五百五十二円と、前年同期比六・〇%減。中国からの訪日客はひとり平均二十一万五千四百九十九円で、九・六%も減少した。中国人観光客は買い物に使う金額がダントツで、九万四千五百八十五円を使ったが、これが減っていけば日本の小売店などへの影響は大きい。
 訪日外国人の増加は、安倍晋三首相が一二年末に第二次安倍内閣を発足させ、アベノミクスを打ち出して以降、長らく続いてきた。為替が円安になったことで、海外から見た日本旅行のコストが大幅に安くなったことが、日本旅行ブームに火を付けた。
 また、それ以前の円高期に仕入れた外国ブランド品などが在庫としてあった一三年から一四年にかけては、アジアの人たちから見ればバーゲンセールのような状況になり、「爆買い」を生んだ。当初は家電製品などが消費のターゲットだったが、その後も、化粧品などを中心に日本製のブランド商品に対象が広がった。また、医薬品や健康食品などの人気も高い。
 アベノミクスの成果がなかなか上がらないと批判される中で、円安が外国人を呼び寄せた効果は大きい。一二年に八百三十五万人だった年間の訪日外国人は一三年に一千万人を突破、一五年には一千九百七十三万人を記録した。昨年一七年は二千八百六十九人と過去最多を更新し続けており、今年は三千万人を超えることが確実視されている。
 政府は東京オリンピックパラリンピックが開かれる二〇年に、四千万人を目標として掲げている。
 今後も、外国人に日本を訪れてもらうには、日本の魅力を磨いて、観光客のリピーターを増やす努力が不可欠になる。また、東京や大阪などの主要都市だけでなく、地方の観光資源を海外の人たちにアピールすることが重要だ。
 外国人観光客へのアンケートでは、次の訪日時には日本らしさを体験したい、という声が多い。農家などへの体験型の滞在プランや、地域の祭りなどへの参加といった工夫が必要になる。地域経済を底上げするためにも、外国人観光客が大きなターゲットになる。