大阪だけ百貨店絶好調の「怪現象」一体なぜ 「商都復活」の兆しか?

現代ビジネスに1月25日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54224

突出する売り上げ増
消費が今ひとつ盛り上がらないと言われる中で、大阪がひとり気を吐いている。

日本百貨店協会が1月23日に発表した全国百貨店売上高(店舗数調整後)では、大阪地区の売り上げが前年同月比12カ月連続でプラスを続け、2017年1月から12月の累計では、6.6%の増加となった。


全国平均は0.1%の増加だったから、そのすさまじさが分かる。ちなみに東京は0.5%増、名古屋は0.4%減だった。

大阪の百貨店売り上げは2017年1月から前年同月比プラスに転じ、6月には同7.3%増、9月には13.9%増を記録するなど、好調ぶりが目立った。

この結果、百貨店売上高全体に占める大阪地域の割合は13.6%にまで上昇、東京の27.0%に次ぐ規模に。東京の「10分の1経済」などといわれて久しいが、百貨店売り上げだけで見る限り「商都復活」といった趣きなのだ。

いったい大阪で何が起きているのか。
ずばり、外国人観光客による「インバウンド消費」の急増が百貨店の売上増に直結している。

産経新聞が大阪観光局の推計として報じたところによると、2017年に大阪府を訪れた訪日外国人客は1100万人。その消費額は1兆1731億円にのぼったという。消費額は3年前に比べて4倍になったというから、大阪の消費底上げに大きく貢献している。

日本政府観光局(JNTO)の推計による日本全体での訪日外国人は、2017年1年間で2869万人だったので、3人に1人が大阪を訪れた計算になる。

訪日外国人とくに中国人によるインバウンド消費が、日本の消費を下支えしているのは間違いないが、なぜ、大阪なのか。

ひとつは「足の便」。

関西国際空港に格安航空会社(LCC)専用のターミナルができるなど、LCC便の数が大きく増えたことが背景にあるとみられる。また、香川・高松空港など周辺の空港でもチャーター便などの発着増が増えており、周遊客が大阪を訪れやすくなっているとみられる。

だが、一方で、人数増だけでは説明ができない点もある。地域別百貨店売上高の年間データで、大阪以外の関西エリアの業績がパッとしないのである。京都は0.1%減だし、神戸に至っては9.4%減である。やはり「大阪」人気が盛り上がっているのだ。

やすい、うまい、肩ひじ張らない
どうやらひとつは、大阪の「コスト・パフォーマンス」が人気の秘密のようだ。お買い得感である。

企業業績が好調なことや国内景気の底入れ感が広がったことで、昨年夏あたりから東京のホテルの宿泊代金が上昇している。これに合わせるかのように中国人観光客が大阪にシフトしているのだ。大阪のミナミ周辺には東京に比べてまだまだ割安なビジネスホテルがある。

「食いだおれ」と言われる大阪の食べ物事情もアジアの観光客を惹きつけている。

例えば、もともとは大阪の台所と言われてきた黒門市場は、ここ数年ですっかり趣を一変させた。さながら食べ歩きのフードコートの様相を呈している。店先のテーブルで、刺身から鍋まで簡単に味わえる。

たこ焼きやお好み焼きなど大阪の味も観光客の胃袋を大いに満足させている。大阪の猥雑さは、アジアの嗜好に通じるのだろう。

道頓堀や心斎橋筋を歩いてみれば、いかに中国人など外国人観光客が多いかがわかる。商業集積が進んでいるのも、他の都市とはひと味違う。しかも、東京と違って「価格勝負」が当たり前。この辺りもアジア人に受けている。

そうした商業地の中に大阪の百貨店はある。東京・銀座の百貨店のような高級ムードが溢れる店づくりとはいかないが、品揃えも豊富で価格帯も幅広い。庶民的なムードが旅行者にはかえって買い物しやすい雰囲気を作っているのかもしれない。

京都や神戸などの観光地に便利なことも、もちろんプラス要因だ。京都や奈良は相変わらずホテル不足で、宿泊料金だけでなく、食事にもお金がかかる。コスト・パフォーマンスの良い大阪で夜は過ごし、昼間に京都や奈良へ日帰りする、という観光客も少なくないようだ。

素でアジアをやっている大阪
中国人を主体とするアジアからの観光客は、SNSなどインターネット上の情報でホテルや飲食店についての情報を得ているようだ。路地裏の小さなお店に中国人観光客の長蛇の列ができていたりするが、ほとんどネットで紹介されたのがきっかけ、というケースが多い。

旅行ガイドブックに載っているような有名店でなくても、「爆買い」のターゲットになり得るわけだ。

その点、「大阪商人」の腕の見せ所、とも言える。ミナミの商店街で今や中国語や韓国語の表記は当たり前。どうやって外国人に買ってもらうか知恵をしぼる。洋品店の店先には服に「日本製」と書いた看板が下がる。日本の良いものが欲しいという観光客目線に合わせてのことだ。

東京では一時の中国人観光客による「爆買い」が影を潜めつつある。高級品や家電製品を大量に買う姿が減り、日本製の化粧品や医薬品、食料品などに対象が移っている。

こうした日本製の製品を安く仕入れるノウハウは商都大阪で受け継がれている。そんな買い物しやすさがアジア人を大阪に惹きつけているのかもしれない。

東京や名古屋に比べて景気の落ち込みが激しいと言われてきた大阪。アジアのエネルギーを取り込むことで、日本一の繁栄を今後も謳歌し続けていけるのかどうか。大阪人の商魂に注目したい。