ふるさと納税は「地域循環」のツール 2017年度も過去最高、「ふるさとチョイス」須永社長に聞く

日経ビジネスオンラインに7月20日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/071900081/

 「ふるさと納税」が2017年度も過去最高を更新した。全国自治体のふるさと納税受け入れ額の合計は3653億円と前の年度に比べて1.28倍に増えた。ふるさと納税の使い道を指定できる自治体が増え、地域課題の解決に役立てようという動きが広がりつつある一方、幅広い返礼品を揃えた自治体が多額のふるさと納税を集めるなど、問題点も指摘されている。ふるさと納税総合サイト『ふるさとチョイス』を運営するトラストバンク(東京都目黒区)の須永珠代社長に、ふるさと納税の今後について聞いた。

(聞き手は磯山友幸



2017年度の1位は135億円を集めた泉佐野

須永珠代(すなが・たまよ)氏
1973年群馬県伊勢崎市生まれ。大学卒業後は派遣やアルバイトなどで、塾講師、アパレル店員、営業、コールセンター、結婚相談所など、多岐にわたる業種、業態で経験を積む。WEBデザインの専門学校でITスキルを学び、IT関連企業に就職。2012年にトラストバンクを立ち上げた。同年9月、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」開設。2014年ガバメントクラウドファンディングの専用ページを開設。2016年東京・有楽町駅前に「ふるさとチョイス Café」オープン。


――ふるさと納税の受け入れ総額が、またしても過去最高を更新しました。

須永珠代社長(以下、須永):2015年度に制度改正があり、控除額の上限が住民税所得割の1割から2割になりました。これをきっかけに、受け入れ総額が大幅に増えました。2015年度は前の年度の4倍、2016年度は1.7倍、そして今回集計結果が出た2017年度は1.3倍でした。しかし、個人的にはそろそろ成熟期に入っていくのではないかと見ています。1.1倍程度に落ち着き、4000億円から5000億円程度で頭打ちになってくるのではないでしょうか。

――ここ数年、納税者が欲しがる返礼品を揃えて、多額のふるさと納税を集める競争のような状態になりました。2017年度も全国の名産品1000種近くを取りそろえた大阪府泉佐野市が135億3300万円を集めて、ダントツの1位になりました。

須永:成熟期に入って重要になるのは、地域の貴重な財源をどう使うか、ふるさと納税で集めたお金をどう活用するかに移ってくると思います。隣の自治体よりも多くの金額を集めれば良い、という時代ではなくなっていくでしょう。


地域経済に貢献する返礼品が不可欠
――確かにふるさと納税の仕組みを使って地域の問題解決をしようという動きも広がっています。東京都文京区が昨年始めた貧困家庭に食事を届ける「子ども宅食」プロジェクトには、あっという間に目標額が集まりました。

須永:「ふるさとチョイス」ではガバメントクラウドファンディング(GCF)と名付けて、自治体が抱える地域課題をふるさと納税の仕組みを使って解決する手法を提唱しています。災害支援にもふるさと納税が使われるようになっています。こうしたGCFなどの寄付層はこれまでのふるさと納税の寄付層とダブっていません。ふるさと納税全体は成熟期に入るにしても、こうしたGCFや災害援助の分野はまだまだ成長していくと思います。

――「お得感」を前面に打ち出して資金集めをしている自治体についてはどうお考えになりますか。

須永ふるさと納税にどういった視点で取り組むか、私たちも多くの首長さんとお話をするのですが、折り合わないことも多いです。多くの自治体の首長さんや担当者は、今のふるさと納税の仕組みがいつまで続くか分からないと漠然と感じています。

 総務省が返礼品の納税額に対する比率を3割以下にするよう指導していますが、これに従って引き下げた自治体は、ふるさと納税の仕組みが続いて欲しいから従っているのです。こうした自治体が99%です。ごく一部の自治体が、いつまで続くか分からないから、今のうちにできるだけ多額の納税を集めてしまおう、という考えなのです。

――須永さんは、ふるさと納税の返礼品がどういう基準で決められるべきだとお考えですか。

須永:それが地域経済のためになっているのかを考えることが重要だと思います。ふるさと納税で返礼品を地域から自治体が買い上げることで、地場産業の発展に結びつき、地域の雇用を生み出す。地域の経済循環のためにどう役立たせるか、ですね。ふるさと納税はあくまでツールです。

 やり方を間違えると、バケツの穴から大都市圏に資金が還流してしまう。例えば米アップルのiPadを返礼品とした場合、数%は地域に残るかもしれませんが、9割以上は米国に資金が流れてしまうことになります。

――ふるさと納税の仕組みは、自治体の創意工夫で納税を集めるという自主性を重んじているところに意味があるように思います。総務省がこと細かに規制するのもどうかと思います。

須永総務省も規制はやりたくないと思っているのではないでしょうか。私も規制はできるだけない方が良いと思っています。「ふるさとチョイス」には掲載基準というのがあって、換金性の高いものや地場性の低いものは返礼品リストから外すことにしています。現状で40〜50自治体のそれぞれ数品目という程度です。

 ただ、今後はどうみてもふるさと納税の趣旨に反するような問題自治体については、その自治体の掲載自体を取りやめることもあるかもしれません。



豪雨災害への支援にもふるさと納税が活躍
――ふるさと納税サイトはたくさんできていますが、最大の「ふるさとチョイス」から外されると影響は大きいでしょうね。

須永:首長さんとのコミュニケーションを続けて、ふるさと納税をどう活用するべきか、意見交換していきたいと思います。

――総務省地域通貨のようなものは返礼品としては好ましくないとしていますが、先ほどの地域循環を考えると、むしろその地域でしか使えない地域通貨のようなものを返礼品とするのは悪くないのではないですか。

須永:私たちも総務省とは考え方が違います。地域経済に寄与して転売できないようなものであれば、むしろ好ましい。ふるさとチョイスでは「電子感謝券」という仕組みを提唱しています。埼玉県深谷市が導入し、道の駅や市内の契約店舗で使えます。一種の地域通貨ですね。

――GCFのように、問題解決のために人々に呼びかけて共感してもらい、ふるさと納税で応援してもらう仕組みは、広がっていますか。

須永:プロジェクトは300を超えています。ふるさと納税を使って起業家を支援するプロジェクトも始まりました。愛知県碧南市の「宇宙機開発プロジェクト」というのもあります。碧南市は自動車部品などの工場が集積している地域ですが、一方でガソリン自動車の時代が終わるのではないかという猛烈な危機感があります。ふるさとの技術を継承し、それを磨いて宇宙を飛ぶ飛行機を開発しようと本気で考えている小規模な企業を応援しようというユニークなもので、1億円を目標にしています。

――西日本各地で豪雨による災害が発生しました。被災地への支援でふるさと納税も活用されていますね。

須永:7月の豪雨災害の寄付は、被災した当該自治体向けと代理自治体向けを合わせて8億円(7月19日時点)を超えました。また、新しい仕組みとして「被災地支援パートナーシップ」という取り組みを始めました。パートナーシップに参加した自治体が集めたふるさと納税額の3%を被災自治体に届ける仕組みです。できるだけ早期に被災自治体に寄付金を届けることができます。災害の初期段階では、自治体の判断で自由に使える資金が非常に重宝がられます。

――日本には寄付文化がないとしばしば言われます。トラストバンクを立ち上げた時、ふるさと納税がこんなに大きくなると思いましたか。

須永:初めは思いませんでしたが、途中からこれはすごいことになると感じました。ふるさと納税は確かに、返礼品による「お得感」もあって一気に広がりましたが、それをきっかけに寄付をしたり、地域の問題解決にできる範囲で協力しようというムードが広がったのではないでしょうか。地域のプロジェクトに共感した資金が集まり、地域で循環する経済が出来上がっていくこと。自立した経済圏が地域に出来上がっていくことが重要だと思います。