ふるさと納税の見直しは「愚策」 総務省にとっては「目の上のたんこぶ」に

日経ビジネスオンラインに9月24日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/092000085/

野田聖子総務相が制度見直しを表明
 野田聖子総務相が9月11日の記者会見で表明した「ふるさと納税」の制度見直し方針が、大きな波紋を呼んでいる。

 「ふるさと納税制度は存続の危機にあります。このまま一部の地方団体による突出した対応が続けば、ふるさと納税に対するイメージが傷ついて、制度そのものが否定されるという不幸な結果を招くことになりかねません」

 野田総務相はこう述べて、制度見直しの必要性を強調した。

 野田氏が言う「突出した対応」というのは、一部の自治体が高額の返礼品を用意することで、巨額のふるさと納税(寄付金)を集めていること。昨年度に寄付受け入れ額トップに躍り出た大阪府泉佐野市は特設のふるさと納税サイトを設け、約1000種類もの返礼品を取りそろえ、135億円もの寄付を集めた。前年度に比べて100億円も増加した。

 あたかも通信販売サイトのような泉佐野の返礼品サイトが人気を集めたのは、「泉州タオル」などの地場製品に限らず、近江牛や新潟産のコメ、北海道のいくら、ウナギなど全国の逸品を取りそろえたこと。食品だけでなく、ホテルの食事券や航空券が買えるポイント、日用雑貨など様々だ。

 これまでも地元特産の牛肉や海産物、果物などを返礼品としていた自治体が寄付額上位に名を連ねていたが、泉佐野は「地元産」という枠を一気に取り払ったことで、返礼品を求める人たちの寄付を集めたのだ。

 総務省は2017年4月と2018年4月に総務大臣名の通達を出し、寄付金に対する返礼品の調達額の割合を3割以下に抑えることや、地場産品でない返礼品を扱わないよう自治体に「通知」してきた。ところが、要請に応じないどころか、泉佐野のように「開き直る」ところまで出てきたことで、いよいよ規制に乗り出すことにした、というわけだ。

 野田氏は会見で「これまでと同様に見直し要請を行うだけでは自発的な見直しが期待できない状況」だとして、「過度な返礼品を送付し、制度の趣旨を歪めているような団体については、ふるさと納税の対象外にすることもできるよう、制度の見直しを検討する」としたのだ。

 これに対して、地方自治体からは反発する声が上がっている。自治体が疑問視するのは、「調達額3割」の妥当性や、「地場産品」の定義である。

「地場産品」の定義はどうなる?
 調達額3割については、自治体がふるさと納税の返礼品用に地場産品を買い上げることで、産業振興につながっているのに、なぜ3割とするのか。寄付という税収の使い道を総務省がとやかく言うのは、そもそも地方自治の本旨に反するのではないか、というわけだ。

 また、「地場産品」についてはその定義をどうするのか、という問題もある。地元に工場がある大手電機メーカーの製品は地場製品なのか、最終製品は米国製の電話機かもしれないが、その部品は地場の工場で作っている、といった主張もある。また、牛肉やうなぎなどでも、途中までは他地域や外国で育ったものもある。

 総務省が一律に基準を押し付け、それに従わない自治体は制度から除外するという「上から目線」のやり方に反発する声も多い。

 総務省はかねてから高額返礼品への批判を繰り返してきた。それがここへ来て強硬手段をちらつかせるようになったのには、明らかに総務省としての事情がある。

 ふるさと納税の受け入れ額は2017年度で3653億円。2014年度は388億円だったので、この3年で10倍近くになった。ふるさと納税は2008年に導入されたが、時の総務大臣菅義偉・現官房長官。菅氏の後押しで実現したが、当初から総務省自体は導入に消極的だったとされる。

 ふるさと納税の発想の根源は、東京に一極集中している税収を地方に分散させることにある。東京に住んで働く人が自らの意思でふるさとに税の一部を納めるというものだった。最終的には寄付という形が取られたが、税収を納税者の意思で移動させることができると言う点では、当初の発想どおりになった。

 もともと地域間の税収格差を調整する仕組みとして、地方交付税交付金制度がある。この分配は総務省が握っており、これが総務省が地方をコントロールする権益になっているのは間違いない事実だ。ふるさと納税で、納税者の意思が税収再分配に反映されるようになると、もともとの総務省の利権に穴が開く。

 2008年にふるさと納税が導入された年はわずか81億円で、15兆円を超える地方交付税交付金からすれば微々たる金額だった。それが急激な伸びで無視できない存在になってきたのだ。2016年度の地方税収は39兆3924億円で、仮におおむねの上限とされる2割がふるさと納税で動いたとして8兆円になる。それから比べれば昨年の3653億円はまだまだごく一部ということだが、返礼品競争が激しさを増し、納税者の関心をひくことになれば、さらに爆発的にふるさと納税が増えることになる。そんな危機感を総務省は持っているのだろう。

地方の消費を下支えする効果は無視できない
 では、本当に通達に従わない自治体を対象から除外するような立法が可能なのだろうか。仮に一部の自治体への寄付を控除対象として認めないとした場合、寄付する納税者の側に大混乱をもたらすに違いない。また「3割」や「地場産品」といったルールの具体的な基準を明記しないと、法律としては成り立たないだろう。

 総務省は今回の「警告」によって多くの自治体が3割以下に返礼品の調達額を抑えたり、地場産品でないものの取り扱いを止めることを期待しているに違いない。11月に再度の調査を行うとしており、それまでに改善されれば、法改正の動きは立ち消えになるかもしれない。10月には内閣改造も予想されており、野田総務相の交代も噂される。

 結局は、自治体に自制を促すための「警告」にとどまり、ふるさと納税の仕組みが大きく変わることはないだろう。

 ただし、一方で、納税する側の意識変革も必要になるかもしれない。このふるさと納税が本当にその自治体を応援することになるのか、返礼品が魅力的かどうかだけでなく、税の使われ方として正しいかどうかも重要な判断基準にすべきだろう。

 もっとも、高額返礼品人気は、低迷している地方の消費を下支えする効果があることも忘れてはいけない。その自治体に住んでいない人が返礼品を目的に寄付をすることで、その地域内で返礼品が買い上げられ、地域の「消費」が上向くことになる。一種の「インバウンド消費」である。

 消費を盛り上げるために、むしろ返礼品の金額を引き上げて、地域での購入額を積み増すのも景気対策として意味があるのではないか。いったん税金として集めてそれを産業振興予算や景気対策などに配るよりも、ふるさと納税(寄付)というすぐに現金が入ってくるものを、地場の産業に回した方が即効性がある、とみることもできる。しかも、首長や議会などが補助金の助成先を決めるよりも、返礼品として人気のある商品の企業に直接恩恵が及ぶ方が、競争原理が働き、地域活性化に役立つとも考えられる。

 災害が多発する中で、ふるさと納税の仕組みを活用して被災地を支援する取り組みも広がっている。そうしたふるさと納税には返礼品はなしというものも多い。返礼品がなくても、税金(寄付金)の使われ方が明確なものに対しては、応援しようと言う納税者も増えているということだろう。

 ふるさと納税を巡る論議を、税金の使われ方をどう透明化し、そこに納税者の意思をどうやって反映させるかを考えるきっかけにすべきだろう。分配権限を握る総務省にとっては、ますますふるさと納税は目の上のたんこぶになっていくに違いない。