現代ビジネスに10月18日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58031
予定通り消費税引き上げ方針
安倍晋三首相は10月15日に臨時閣議を開き、2019年10月に消費税率を10%に引き上げることを改めて表明した。そのうえで、「あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する」と述べ、駆け込み需要とその反動による消費減少を防ぐための経済対策の策定を指示した。
足下の消費が弱い中での消費税率の引き上げは、景気を腰折れさせる危険性を秘める。メディアやエコノミストの間でも消費増税を再度延期するのではないか、という見方が広がっていた。
来年10月の消費税率引き上げでは酒と外食を除く食料品に軽減税率が適用されるが、民間ではその軽減税率導入に向けたシステムの準備などが進んでいないとされる。安倍首相が1年を切ったこのタイミングで改めて「増税実施」を打ち出した背景には、そうした準備を促す狙いがある。
だが、景気動向に関係なしに増税に踏み切れば、消費の冷え込みは間違いなく起きる。それを回避するために、政策を総動員するとしたわけだが、役所から聞こえてくる「対策」は心もとない。
安倍首相は、消費税額が大きくなる自動車や住宅などで、来年10月以降の購入にメリットが出るように税制・予算措置を講じる、としたが、駆け込み需要を無くす政策を取った場合、足元の消費は盛り上がらない。増税後の方が有利な対策にした場合は、逆に買い控えが起きかねない。
中小小売業への支援策として、増税後の一定期間、消費者にポイントとして還元するという案も打ち出された。実質的な増税の先送りに近い効果があるが、大手のスーパーや百貨店で買い物した場合と中小業者の店舗で買い物した場合で、格差ができることになり、消費者がどこまで受け入れるかが焦点になる。
ポイント還元の仕組みをどうするかによっては中小業者にカードリーダーなどの設備投資が必要になり、短期間のために投資を行うかどうかも分からない。
軽減税率は初めての試みにもかかわらず、準備が遅れている。欧米のように消費税率を今後大幅に引き上げていくためには不可欠な制度だが、導入直後は税率の差が2%で、「軽減」という感覚は乏しい。
ドイツは本則の税率が19%なのに対して、食料品などは7%だ。この2%の「軽減」が、食料品は消費税率据え置きと消費者に受け取られ、食料品の消費に影響が出ないのかどうかも焦点だろう。
景気対策に決定打無し
また、公共事業の積み増しなども検討されている。ただ、旧来の土木工事型の公共事業では、簡単には消費対策にはつながらない。土木建設業で働く人の数が減っているうえ、圧倒的な人手不足で、予算を付けても工事がこなせない状態が続いている。また、働き手には高齢者や外国人も多く、仮に給与が増えてもどれだけ消費に回るかは分からない。
公共事業増→企業利益増→給与増→消費増と好循環が起きるにはかなりの時間を要するため、来年10月の消費増税での落ち込み分を補うにはタイミングが間に合わない可能性が高い。
消費を増やすには、可処分所得を増やすのが手っ取り早い。特に子育て世代など30歳代半ばから50歳代半ばまでの現役世代の「手取り」を増やす必要がある。
毎年上がり続けてきた厚生年金保険料は昨年10月で打ち止めになり、今年は、保険料引き上げはない。ただし、毎年4月に見直される健康保険料は医療費増加の影響で、保険料の上昇が続きそうだ。
本来ならば大規模な所得減税を行うべきだが、財源は乏しい。また、多額の所得税を払っている世帯が必ずしも大量に消費する世帯とは限らず、減税が消費につながる保証はない。
安倍官邸が最も期待しているのは、企業の給与引き上げだ。
安倍首相は経済好循環を掲げて経済界首脳に賃上げを要請、2014年以降の春闘で5年連続ベースアップが実現した。また、2018年は「3%の賃上げ」を経済界に要請し、ボーナスなど諸手当を含めれば実現している企業も少なくない。
また、最低賃金の引き上げが続き、今年も約3%の上昇となった。こうした賃上げが消費の増加に結びつき始めているとの見方もある。
来年の春闘に向けて、安倍首相がさらに大幅な賃上げを要請することになりそうだ。440兆円にのぼる企業の「利益剰余金」を設備投資や人件費にまわさせることが重要で、そのための政策検討が不可欠になる。
2019年10月をずらせない理由
足下の消費は改善の兆しが見えない。さらに豪雨災害や台風、地震といった災害によって目先の消費が落ち込んでいる。復興需要が生まれる中期的には消費が持ち直すという見方もあるが、足元は厳しい。
そんな中で、今打ち出されている経済対策には見るべきものがない。このまま消費増税を迎えれば、景気が失速することになりそうだ。
だからといって、消費増税の延期は難しいだろう。
2019年10月という増税のタイミングは、反動減があったとしても、2020年の東京オリンピックパラリンピックにやってくる外国人の消費によって穴埋めされると期待できる。外国人観光客は免税による買い物ができるので、消費増税の影響は関係ない。オリンピックが終わるころには増税から1年がたち、統計的には「反動減の反動」で消費が戻る可能性もある。
つまり、消費増税のタイミングとしては来年10月は絶妙で、これを延期した場合、永遠に消費増税などできなくなる可能性が高い。それでなくてもオリンピック後には「特需」が消えるわけで、そのタイミングで増税すれば、日本の消費は一気に底が抜けることになりかねない。
つまり、来年10月の増税は必須なのだ。だからこそ、知恵を絞って、足元の消費を盛り上げる施策を立て続けに行う必要がある。