安倍首相「消費増税延期」判断は正しかった! 〜今振り返る。あの時消費増税していたら、日本経済は滅茶苦茶になっていた

安保関連法案を巡る安倍晋三首相の政治手法に批判が強まっていますが、内閣支持率はあまり下がりません。なぜか。安倍氏を退陣させて代わりに据えたい首相候補がいないからでしょう。野党が批判の受け皿になれないのも、アベノミクスに対抗するきちんとした経済政策が打ち出せないからではないでしょうか。「アベノミクスは失敗だ」と言うのは簡単ですが、まったく対案が出て来ません。消費税再増税の先送りも、今になってみれば「正解」だったということができそうです。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45333


「英断」か「愚挙」か
目先の政策判断についてはメディアが繰り返し取り上げるが、ひとたび決まった政策について検証されることは少ない。2015年10月1日、本来ならば消費税率が8%から10%に引き上げられているはずだった。

それを止めたのは昨年11月18日。安倍晋三首相の“独断”だった。法律に付いていた「景気判断条項」を使って、首相自らが方針を決めたのである。

当時、政府も経済界も大勢は再増税実施で固まっていた。役所がお膳立てした首相官邸での意見聴取でも、増税論が優勢だった。首相周辺の経済ブレーンだけが、4月に5%から8%に引き上げたばかりの消費増税の影響が大きいとみて、再増税に強く反対。「このままでは日本経済は瓦解する」と進言していた。

財務省は最後の最後まで首相が景気判断条項を使って先送りを決断することに抵抗した。景気判断条項はあくまでリーマンショックのような不測の事態を想定しており、今はそれに当たらないというものだった。

そんな中で、2014年7-9月期のGDP(国内総生産)が予想外のマイナスにならなければ、安倍首相も先送りを決断できなかったかもしれない。

2期連続のマイナス。「影響は早期に解消される」としていた財務省の説明に疑を抱いた安倍首相は、経済ブレーンの主張に一気に耳を傾けた。そして「首相の暴走という批判を封じるために総選挙に打って出た」(首相に近い政治家)のである。まさに政治生命をかけた首相の政策決定だったと言える。

この安倍首相の“独断”は正しかったのだろうか。検証してみたい。

消費増税に向けて駆け込み需要が大きかったのは住宅である。国土交通省の新設住宅着工戸数の統計をみると、2013年5月から14年1月まで、対前年同月比でほぼ2ケタの伸びが続いた。毎月8万〜9万戸が着工され、1年前よりも1万戸程度上乗せされた。

14年4月の消費増税によって、その反動が出たのは言うまでもない。14年3月から対前年同月比でマイナスになったのが、プラスに転じたのは今年(2015年)3月。大きくプラスになったのは5月(5.8%増)以降である。消費増税の影響が消えるのに1年3ヵ月を要したのである。

もちろん2014年の数字を上回ったからといって影響が消えたと言えるわけではない。2013年の着工戸数を上回るか、それに迫る数字にならなければ、影響がなくなったとは言えないだろう。

実は6月の新設住宅着工戸数は凄まじい伸びを見せた。16.3%増の8万8118戸と2年前の8万3704戸を上回ったのだ。都心部を中心に高層マンションの着工が相次いだほか、長く低迷していた持ち家の着工も増えた。持ち家の着工戸数は2万6643戸と3万戸を超えていた2013年12月以来の戸数となった。

今振り返ると、正解だった
7月も7.4%増の7万8263戸と大きく増えたが、2年前の8万4801戸は下回ったものの、ようやく消費税の影響から脱し始めたと見ていいだろう。

つまり、住宅着工から見る消費増税の影響はつい最近まで残っていたということである。仮に、当初の予定どおりこの10月から消費税が再増税されていたとすると、駆け込み需要もあったかもしれないが、その後の反動はさらに大きくなった可能性がある。ようやく影響から脱し始めた景気回復の芽を一気に摘んでしまった可能性が高いのだ。

つまり、安倍首相の決断は、今振り返ってみると、正解だったと言えるだろう。

安倍首相の経済ブレーンのひとりである高橋洋一嘉悦大学教授は、「先送りは大正解だったということ。こんな状態で消費増税をしたら、日本経済は滅茶苦茶になっていただろう」と語る。

新設住宅着工戸数は増税の影響から回復しつつあるように見えるが、まだまだ影響が残っているのが個人消費である。消費増税前の力強さがまったく見えなくなっている。今年4-6月のGDPがマイナスになったのも、消費の弱さが原因だった。

全国百貨店売上高も、チェーンストア販売統計も、4月以降、かろうじて前年同月比プラスを続けているが、6月7月の売り上げの伸びには力強さが欠けている。ここで消費税の再増税が行われたとすると、完全に消費の息の根を止めていた可能性は否定できない。

住宅着工戸数が再び伸びる気配が見えてきたことで、消費にもプラスに働いてくる可能性が高い。住宅を新築すると、家具や生活用品だけでなく、さまざまな消費に結び付く。住宅完成までにはタイムラグがあるため、今年度末、つまり来年3月末に向けて、消費が回復してくる可能性はありそうだ。

雇用者数も増加が続き失業率が低下しているうえ、人手不足でアルバイトなどの時給も上昇傾向にある。給与や残業代、賞与などが増えてくれば、消費におカネが回ってくることになる。

中国経済の動揺や、株価の大幅な下落などもあるが、足元の景気は決して悪くはない。政府の経済対策などが加われば、早晩、再び成長プロセスに入ってくることになるだろう。

だが、そんな中で、再び問題になるのが消費税率の再引き上げである。17年4月に延期した再増税を実施することが決っている。

もう「再延長」は難しい
一部の有識者の間からは消費増税は再延期すべきだという声が出始めているが、今度は「景気判断条項」が付いていないため、首相の決断だけで再延長というのは難しい。

来年の3月頃に消費が盛り上がり始め、春から夏にかけて景気回復を多くの国民が実感できるようになっていれば、17年4月の再増税の影響は早期に吸収できるかもしれない。

だが、世界経済がこのまま鈍化し、日本の景気回復が覚束ない状態が続いている中で消費増税に踏み切ったとすれば、日本経済に深刻な影響を与える可能性がありそうだ。

増税を止めるとすれば、来年夏には決断して、先送りの法案を国会で可決する必要が出てくる。ここ半年ほどの景気の行方次第では、消費増税の再延期が大きな争点になる。

もちろん、そんな事態を避けたいのは財務省はじめ霞が関の本音だろう。来年7月の参議院選挙に向けて経済再生を国民に強くアピールしたい安倍内閣としても、景気回復は絶対命題になる。

安全保障関連法案にケリを付けた後、どんな思い切った経済政策を打ち出すのか、大いに注目される。