「3つの施策」を総動員し、消費底割れ防げ 課題は「住民税減税」「内部留保対策」「金融課税」

日経ビジネスオンラインに11月2日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/110100088/

百貨店売上高に現れた消費の変調
 足元の消費が弱い。10月23日に日本百貨店協会が発表した9月の全国百貨店売上高は前年同月比3.0%減と、3カ月連続でマイナスになった。西日本豪雨災害や相次いだ大型台風の来襲、連日続いた酷暑、そして北海道胆振東部地震と、自然災害によって経済活動が大きく影響を受けた。

 台風による高潮被害で関西国際空港が一時閉鎖されたことや、北海道の地震で、増え続けてきた訪日外国人観光客も減少した。JNTO(日本政府観光局)の推計によると9月の訪日外客数は216万人と、前年同月比で5.3%も減少した。訪日外客数がマイナスになったのは2013年1月以来、なんと5年8カ月ぶりのことだ。

 訪日客は日本の消費にも大きく貢献してきた。百貨店で免税手続きをした売上高は9月は246億5000万円で、百貨店全体の売上高4197億円の5.9%を占める。いわゆる「インバウンド消費」である。免税売上高は、前年同月と比べればまだ6%増えているが、前月比では6カ月連続のマイナス。2014年10月に外国人観光客の免税範囲が拡大されて以降、6カ月続けてマイナスになったのは初めてのことだ。

 百貨店の売上統計を使って、この「インバウンド消費」を除いた純粋な「国内売上高」を計算してみると、7月は7.3%減→8月1.3%減→9月4.1%減と大幅なマイナスが続いている。百貨店売上高を見る限り、完全に消費は変調をきたしているのだ。

 そんな中、安倍晋三首相は、10月15日に臨時閣議を開いて、2019年10月からの消費増税を予定通り行うと改めて表明した。実施まで1年を切ったにもかかわらず、世の中が「どうせまた延期だろう」とタカをくくって、システムの改修などに着手していないというのだ。特に中小企業の準備は進んでおらず、「このままで増税して混乱が起きないのか」といった危惧が政府内から上がっていた。特に来年の増税時には「軽減税率」が導入されることが決まっている。そのシステム対策が間に合わないのではないかという焦りがあるのだ。

 安倍首相がわざわざ「念押し」したにもかかわらず、エコノミストや大手メディアの中には、それでも再度の延期はあり得る、という分析が見られる。安倍首相が2度にわたって消費増税を先送りした「常習犯」だということもあるが、それ以上に、足元の景気が悪く、ここで増税すれば消費が腰折れし、日本経済が失速するとみている専門家が多いということだろう。

住民税減税は低所得者にも恩恵
 安倍首相は増税を念押しした閣議で、「あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する」と述べた。景気を失速させないために、全力を挙げるというのだ。これを受けて永田町や霞が関から様々なアイデアが上がっている。

 最も可能性が高いとみられているのが、公明党などが主張する「プレミアム商品券」だ。過去にも発行した前例があるが、どれだけ効果があったのかは正確には分からない。自治体が発行する2万5000円分の商品券を2万円で販売するというもので、過去の実施時は「バラマキ」と批判されたが、今回は消費増税によって目減りする可処分所得を穴埋めする施策が不可欠だから、検討には値するだろう。

 消費を喚起する政策の王道は「所得減税」だが、低所得者層を中心に所得税の課税対象から実質的に外れている人にとっては、減税ではまったく恩恵を受けられない。野党などからは「給付付き税額控除」制度を設けるべきだという主張が長年続けられているが、制度改正をしていては、今回の消費税対策には間に合わない。

 当初は、中小事業者でキャッシュレスによって購入した場合、増分に相当する2%分をポイントで返すというアイデアも出た。だがこれには、中小企業に新たな設備投資を強いるものだとして反対論が噴出した。麻生太郎副総理兼財務相が真っ先に反対したこともあり、沙汰止みになった。

 日本は先進国の中でも現金による決済の比率が高く、金融技術を進化させるにはキャッシュレス化を進める必要があると金融庁などは考えている。取引を電子化すれば現金移動の捕捉率が上がり徴税効率が上がると考えていた財務省の現場からすれば、格好のチャンスだったが、一気に消え去った感じだ。

 経済産業省からは自動車取得税の免税、国土交通省からは住宅取得促進税制などのおきまりの対策が主張されている。

 だが、いずれの対策も、消費税が上昇した後の「影響」をどう軽減するかに焦点が当たっている。本来考えるべきは、消費増税をするための地ならし、増税前の景気刺激策も合わせて実施することが不可欠だろう。住宅などを買うのに、消費増税前も後も負担が実質変わらないとなれば、増税前の駆け込み需要も消える。さらに増税後の方が有利な条件が出てくるとなれば、今の消費を先送りする動きが出るかもしれない。対策は、効果を生み出す「規模」と同時に、いつ実施するかという「タイミング」も重要になる。

 では、消費を腰折れさせないために、どんな施策が必要か。ひとつは住民税の減税だ。所得税は様々な控除の結果、負担していなくても、住民税は取られているケースが多い。前述の低所得者層の恩恵という面でも、住民税減税は効く。

 税源はどうするのかという問題は、今ある制度を活用すれば良い。ズバリ、ふるさと納税制度だ。ふるさと納税の仕組みを使って、ほぼ負担なしで自治体に「寄付」できるのは住民税の2割程度。ふるさと納税した金額の10割を返礼品として寄付者に返せばいい。今は総務省が大臣通達などを出して、返礼品を3割以下に抑えさせようと躍起になっているが、真逆の政策だ。

 これならば実質減税分がすべて返礼品というモノやサービスで寄付者(納税者)に返されるので、減税分が貯蓄に回ることはない。しかも自治体の創意工夫で地域の景気対策に使える。地域からモノを買い上げるわけだから、即効性は高い。

企業が蓄積する「現金・預金」も課題
 ふるさと納税の「当初の趣旨」だとか、「モノ目当ての寄付はおかしい」などと言わず、「景気対策」と割り切れば良い。返礼品競争に負けて税収が減ったところには国の税金から補填しても良いし、努力不足の結果として自治体に負担させても良い。

 地方自治体はそれぞれ産業振興予算などを持ち、業界に助成金などを出している。これがふるさと納税による増収分で賄えるようになると考えれば、10割を返礼品の買い上げとその事務経費に充てても、実質的に財政が困窮することはない。景気対策したい国にとっても、地域経済を振興したい地方自治体にとっても、減税を受けたい納税者にとってもメリットのある、「三方よし」の施策だと思うがいかがだろう。

 もう1つは積み上がっている企業の「内部留保」を吐き出させるための施策だ。財務省などの一部には「内部留保課税」を主張する向きもあり、最近では同調するエコノミストも出始めている。何せ、内部留保が毎年過去最高を更新し、その伸びもバカにならないほど大きいのだ。

 毎年9月に年度分が発表される財務省の法人企業統計によると、2017年度の企業(金融・保険業を除く全産業)の「利益剰余金」、いわゆる「内部留保」は446兆4844億円と過去最高になった。前年度比にすると9.9%増、1年で40兆円も増えたのである。増加は6年連続で、9.9%増という伸び率はこの6年で最も高い。

 内部留保課税には経済界が猛烈に反発するのは必至だ。大物財界人のひとりも、「とんでもない話だ。そもそも二重課税だし、会計がまったく分かっていない人の議論だ」と憤る。利益剰余金はバランスシート右側(貸方)で、そこにだけ注目するのは誤りで、左側(借方)には資産として何かに使われているというのだ。

 確かにその通りなのだが、左側に「現金・預金」が積み上げられている点に問題がある。2017年度の現金・預金は221兆9695億円で前の年度に比べて11兆円も増加した。

 もちろん、ただそこに課税するとなれば、明らかに二重課税だ。企業は法人税を支払った後の残りを「剰余金」として積んでいる。それに課税すれば、ダブルで課税することになる。

 国民民主党玉木雄一郎代表が、私見としながらも面白い解決策を言っている。「国際競争力の観点から法人税率をゼロにしても良いので、内部留保に課税したらどうか」というのだ。世界は今、法人税率の引き下げ競争が凄まじい。日本もこの流れに逆らうことはできない。逆らえば、企業は法人税の安い国や地域へと移動してしまうからだ。

 玉木氏はいっその事、法人税率をゼロにして、剰余金に課税すれば、二重課税にならない、と言っているのだ。玉木氏は財務官僚出身だ。

 税制の変更は時間がかかるが、例えば、3年後には内部留保に課税がされるとなれば、企業はせっせと従業員の給与引き上げや配当の増額、設備投資の積み増しなどに動き、剰余金を圧縮しにかかるだろう。

 もちろん、剰余金すべてに課税すれば、バランスシートの左側を無視することにもなるので、現金・預金相当分にだけ課税するという手もある。これは前々からエコノミストの間などで主張されている「金融資産課税」とほぼ同義になる。いずれにせよ、経済の好循環を引き起こし、消費を盛り上げるための抜本的な施策が今こそ重要だろう。