企業は儲かっても賃金が上がらない構造~これが岸田文雄政権支持率どん底の真因だ 家計はインフレ困窮、企業は最高益

現代ビジネスに11月8日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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内閣支持率、政権発足後最低

岸田文雄内閣の支持率が政権発足以来最低に落ち込んでいる。日本経済新聞社テレビ東京が10月27〜29日に実施した世論調査では、内閣支持率が33%で2021年10月の政権発足後最低。共同通信社が11月3~5日に実施した全国電世論調査でも28.3%と過去最低を更新。JNNの調査でも29.1%と3割を下回って最低となった。

支持率急落の原因ははっきりしている。政府が11月2日にまとめた総合経済対策が不評だったからだ。JNNの調査では、経済対策に「期待する」と答えた人はわずか18%。72%の人が「期待しない」と突き放した。「目玉」だったはずの所得税・住民税合わせて4万円の定額減税についても、「評価しない」が64%で、「評価する」は26%にとどまった。

それだけ多くの人たちが足下の「経済」に不安を抱いているということだろう。消費者物価の上昇率は9月には前年同月比2.8%で、上昇率が鈍化したという解説もあるが、実際には昨年9月もその1年前に比べて3.0%上がっているので、物価上昇が止まらないというのが生活者の実感だろう。しかもこれはエネルギーを含んだ総合指数の伸びで、実際にはガソリン代や電気・ガス代の抑制に巨額の国費が投じられた後の物価。エネルギーを除いた指数では前年同月比4.2%の上昇と1年前の1.8%の上昇からさらに拍車がかかっている。食料品は1年前に比べて9%も上昇している。

一方で給与は上がらない。賃金から物価上昇分を差し引いた実質賃金は2023年8月まで17カ月連続でマイナスとなっている。岸田首相は賃金は上昇し始めていると胸を張るが、まったく物価上昇に追いついていない。政府が影響力を持つ最低賃金にしても、今年は時給1004円と初めて全国平均で1000円を突破したが、上昇率は4.4%。年間の物価上昇率を3%としても実質は1.4%に留まり、安倍晋三内閣時代の2%台に及ばない。円安が進んでいることもあり、ドル建ての最低賃金はむしろ下落しており、外国人労働者の日本離れの引き金になっている。

最低賃金の引き上げくらい思い切りやってはと思うが、岸田首相の賃上げに対する本気度が疑われる。8月には最低賃金1500円を目指すと発言したが、実現の時期を「2030年半ばまでに」としたのには耳を疑った。そんな姿勢で物価上昇を上回る賃上げは実現しそうにない。

企業は空前の好決算

「家計」は物価上昇で困窮しているが、「企業」は空前の好決算に沸き、それに伴って「政府」は税収増で潤っている。物価が上昇していることで企業の売り上げが増えていることから、結果的に利益も納税額も増える結果になっている。売り上げが増えれば消費税収は増えるので当然と言えば当然だ。「企業」と「政府」はインフレが追い風になっている。

9月1日に財務省が発表した2022年度の法人企業統計によると、企業(金融業・保険業を除く全産業)の売上高は9.0%増加、当期純利益も18.1%増えた。新型コロナ前のピークである2018年の利益水準62兆円を大きく上回り74兆円に達している。

その利益を企業はしっかり抱え込んでいる。内部留保(利益剰余金)は過去最高を更新し続け、554兆円に達している。1年で7.4%も増えた。一方で、企業が払った人件費は3.8%の伸びにとどまっている。2019年度、2020年度と人件費は大きく減ったが、内部留保は一向に減ることなく増え続けた。内部留保は危機の時への蓄えだと言いながら、まったく取り崩されることなく増え続けている。

次の春闘での大幅利上げが無い限り

かつて麻生太郎氏が財務大臣だった時、法人税率の引き下げに対して、税率を下げても内部留保に回るだけでは意味がない、と苦言を呈していた。法人税率の引き下げによって、増えた利益が配当に回ったり、次なる投資へと使われることで、日本経済が活性化することが狙われたが、結果は思うように進まなかった。

配当こそ32兆円あまりと、新型コロナ前の2018年度の26兆円から大きく増えたが、利益の何%を配当に回したかを示す「配当性向」は42.2%から43.8%に僅かながら上がったに過ぎない。結果的には麻生氏の危惧する通りとなった。

2018年度から2022年度の間で、内部留保は463兆円から554兆円に19.8%も増えたが、人件費総額は208兆円から214兆円に2.8%増えただけにとどまっているのだ。

増え続ける内部留保に対して、課税すべきだという声が上がったことがある。財界は「二重課税だ」として強硬に反対した。内部留保法人税を支払った後のお金なので、それにさらに課税するのはおかしい、というわけだ。また、貸借対照表の貸方にある利益剰余金の反対側、つまり借方は「建物や設備」などになっていて、「現金」が積まれているわけではない、という主張もある。

だが、ここまで会計上の剰余金が増えるのは異常だろう。企業がもっと利益を上げる資産に資金を回したり、財産である社員の待遇を引き上げることが重要ではないか。

果たして来年の春闘に向けてどれだけの賃上げを実現するのか。内部留保を積み上げている大企業を中心に思い切った賃上げが実現しないと、来年の自民党総裁選に向けて岸田内閣の支持率回復は望めないだろう。