オンライン総会の早期実現へ法改正を コロナ禍を規制突破の好機に

SankeiBiz『高論卓説』に4月21日にアップされた拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

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 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)による緊急事態宣言で外出自粛が求められている。そんな中で、株主総会のピークを6月に控えた上場企業が対応を苦慮している。既に株主総会を開催した12月期決算や1月期決算の企業では、株主に来場を控えるよう依頼文を送ったケースも多い。会場ではなく、議決権行使書の郵送で済ませてほしいというわけだ。

 6月に総会を迎える3月期決算企業の中には、オンラインでの株主総会開催を模索する企業もある。ところが、現在の会社法にはオンラインだけによる株主総会開催の規定はない。つまり、実際に人を集めて行うリアル総会なしに済ませることはできない、と解されている。

 そんな中、経済産業省は今月2日に「株主総会運営に係るQ&A」を公表した。そこでは、例年よりも会場の規模を縮小することや会場に入場できる株主の人数を制限することも「可能と考えます」としている。さらに、「現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えます」としている。入場制限して出席株主がたとえゼロでも株主総会は成立する、というのである。

 このほか、「事前登録した株主を優先的に入場させる」ことや、「ウイルスの罹患(りかん)が疑われる株主の入場を制限することや退場を命じること」「議事の時間を短くすること」も可能だとした。

 新型コロナの拡大を何としても止めなければならない現在の状況からすればやむを得ないことには違いない。だが、平時では到底認められないことを、「法解釈の変更」だけでなし崩し的に認めてよいのかは考えるべきだろう。

 法務省は早急に会社法を改正し、オンライン株主総会について規定を設け、そのために必要なシステムや手続きを明確に定めるべきだ。これまでもオンラインでの株主総会に向けた規制改革は議論されてきたが、遅々として進んでいなかったのが実情だ。

 郵送による議決権行使と合わせて、最近はようやくインターネットのシステムを使った投票が行われるようになってきた。だが、これは総会前の事前の投票に限られ、当日の報告や議案提案理由を聞いた上で投票することはできない。

 総会の模様を株主にインターネット中継するケースは増えるだろうが、オンラインで株主の質問権を保証する会社は簡単には増えないだろう。

 富士ソフトは3月13日に開いた株主総会で、インターネット出席を可能とした。実際の会場には159人が参加したほか、インターネットでも11人の株主が出席した。だが、ネット中継での議決権行使に十分な法的裏付けがあるわけではない。

 今年の株主総会では海外の投資家から多くの株主提案が出され、経営陣の再任の可否などが焦点になる会社も少なくない。

 事前に議決権行使しない傾向が強い個人投資家などの賛否が焦点になるだけに、「入場制限」や「質疑短縮」が後々トラブルの種になる可能性もある。

 新型コロナの蔓延をきっかけに、これまで反対が強かった規制改革がすんなり実現に向かっている。4月7日には政府の規制改革推進会議が、受診歴のない患者も含め初診からオンライン診療を認めることを決議した。オンライン服薬指導についても規制を大幅緩和するとした。これまでは医師会や薬剤師会の反対で、オンライン診療は進んでいなかった。当面新型コロナ対策での「時限措置」ということになっている。これを一気に法改正して規制緩和を進めるべきだろう。新型コロナ禍を規制突破のチャンスにするべきである。