「社外取締役・橋下徹」を拒否する関西電力のおかしな内情  ガバナンス改革は「口だけ」か?

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「お約束します」とは言うものの…

原子力発電所のある福井県高浜町森山栄治・元助役(故人)から、役員ら75人が3億6000万円にのぼる金品を受け取っていた関西電力。3月14日には第三者委員会(委員長・但木敬一検事総長)が調査報告書をまとめ、「容赦できない背信行為」だと厳しく指弾された。

これを受けた関西電力も、ホームページに「全く新しい関西電力を創生していくとの不退転の決意で、さらなる経営の改革・刷新に取り組みながら、信頼回復に全社一丸となって全力を尽くしてまいります」との一文を掲げ、あたかも反省している姿勢を示している。

3月30日には森本孝・新社長名で「ステークホルダーのみなさまに対する宣誓」と言う文書を公表。以下の4点について「お約束します」としている。

 

1. 私は関西電力グループのトップとして、「業績や事業活動をコンプライアンスに優先させることは断じてあってはならない」と肝に銘じ、法令遵守はもとより、時代の要請する社会規範とは何かを常に「ユーザー目線」で考え、それに則って行動し続けることを約束します。
2. 私は、そのために必要であれば、いかなる社内慣行やルール、組織・体制等であっても、ためらうことなく、改めるべきを改めていくことを約束します。
3. 私は、これらを自ら徹底して実行し続けることによって、改革への強い意志を当社グループの隅々にまで拡げ、関西電力グループ全体として、誠実で、透明性の高い開かれた事業活動を継続していくことを約束します。
4. 私は、ステークホルダーの皆様からの信頼を損なうような事態が発生したときには、速やかに原因究明と再発防止に努め、自らの責任を明確にすることを約束します。
 

巧言令色、いろいろ書いているが、では具体的にどう行動するのかが見えてこない。

「モノいう元・筆頭株主」はお断り

だが、さっそく、「やはり関西電力は変わっていない」と思わせる具体例が出てきた。

大阪市松井一郎市長が4月17日、関西電力社外取締役橋下徹・元市長を推薦したことを明らかにした。大阪市関西電力の発行済株式の7.27%を保有する筆頭株主。「ステークホルダー」の最たるものだ。松井市長は「経営の透明性を確保し、業務改善計画の実施状況を点検するため」だと提案理由を語っている。

関西電力は、4月28日に開く取締役会で結論を出すとしている。だが、この市の要求を拒否する方針を固め、着々と準備しているという。

まず、4月20日に開いた「人事・報酬等諮問委員会」で6月の株主総会で提案する役員人事案を決めたが、そこには橋下氏の名前はない。

「橋下氏は特定の政党色が強いことに加えて、大阪市の意見だけを取り入れることに慎重意見が相次いだ」と報じられている。

橋下氏は大阪市長時代に、東日本大震災後に関西電力が電気料金を値上げしたことを批判、株主総会で経営陣の総退陣を求めるなどしていた。「モノ言う株主」の代表はお断り、ということだろうか。

決めたのは不祥事に責任のある人々

ちなみに人事報酬委員会は森本社長と彌園豊一副社長、それに社外取締役の4人だ。一見、独立性の高い委員会のようにみえるが実態はまったく違う。

4人の社外取締役は、井上礼之・ダイキン工業会長、沖原隆宗・三菱UFJフィナンシャルグループ元会長、小林哲也近鉄グループホールディングス会長、槇村久子・京都女子大学元教授。いずれも問題を隠してきた全経営陣が選んだ人たちだ。

中でも井上氏と小林氏は、自らも金品を受領していて引責辞任した八木誠会長と共に関西経済連合会の副会長を務める「お友だち」である。

また、関西電力ダイキン工業の株式を「地域社会の発展・繁栄に資するため」として100万株、約129億円保有している。

三菱UFJフィナンシャル・グループの株式も、「安定的な資金調達に資するため」という理由で1251万株68億円分持っている。

つまり株式を保有することで影響力を持っている会社のトップを社外取締役に据えているのだ。

こうした社外取締役は本来、今回の不祥事に長年気がつかなかった、あるいは見逃してきた責任を問われてしかるべき存在だ。それが、次の取締役候補を選ぶというのだからあいた口が塞がらない。

しかも、2019年6月の株主総会の取締役選任決議では、井上氏への賛成票は82.1%と取締役候補の中で最も低かった。沖原氏も82.5%、小林氏も84.8%しか賛成を得られていない。いずれも問題の岩根茂樹社長(当時)以下の賛成率だったのだ。

大阪市株主代表訴訟

報道によると、橋下氏を取締役とすることについて、「政党色が強い」ことを理由に拒否しているとされる。株主や取締役候補者を「思想信条」で区別することは憲法違反だろう。

森本社長がどこの政党を支持しているのか、もしかしてどこかの党員なのかは一切問われないし、明らかにする必要もない。それと同じで、大株主の大阪市が推薦した人物の「思想信条」で候補者とするのを拒否することはできない。

拒否の方針を聞いた松井市長は、「一番来てほしくない人を受け入れることで信頼を取り戻せるのに残念だ」と皮肉ったという。受け入れない場合には株主代表訴訟を起こすとしていたが、本当に自治体が株主として企業経営者を追及する事態になれば前代未聞だ。

仮に取締役会で橋下氏抜きの取締役候補を選んだ場合、国は何と言うのだろうか。

三者委員会の報告書を受けて経済産業大臣関西電力に「業務改善命令」を出した。そこでは「指名委員会等設置会社への移行の検討も含めた外部人材を活用した実効的なガバナンス体制の構築」が求められている。

取締役を認可する権限も経産大臣が握っており、国として何らかの発言をすることは可能だ。

果たして関西電力は6月の株主総会に向けて、どんなガバナンス体制を構築し、どんな社外取締役候補者を出してくるのか。関西電力が言う「不退転の決意」がどの程度なのかが明らかになる。