サラリーマンを待ち受ける絶望…正社員を「秋の大リストラ」が襲う? 新型コロナで雇用情勢が激変

現代ビジネスに7月2日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73732

オイルショック以来の求人減

新型コロナウイルスの蔓延による経済収縮が労働市場を揺さぶっている。

仕事を求めている人1人に対して企業などから何人の求人があったかを示す「有効求人倍率」は、5月は1.20倍と4月の1.32倍から急落した。倍率で0.12の下落は、オイルショック後の1974年1月に記録した0.20の下落以来46年4カ月ぶりの下げ幅となった。

2月の1.45倍、3月の1.39倍から大幅な下落が続いており、「人手不足による求人難」から一気に「求職難」へと状況が一変し始めている。

一方、総務省が6月30日に発表した5月の労働力調査によると、就業者数、雇用者数とも、88カ月ぶりにマイナスとなった4月に続いて2カ月連続の減少となった。この結果、完全失業率も2.9%に0.3ポイント上昇、3年ぶりの高水準となった。

それでも雇用者の減少率は前年同月比1.2%の減少にとどまっている。特に正規の職員・従業員の場合、3534万人と昨年に比べてわずか1万人減っているだけで、ほぼ横ばいと言える。

日本は健闘している方だが

米国では3月中旬から5月末までの失業保険の新規申請件数が4000万件を突破、労働人口と単純比較すると4人に1人が失業した計算になる。それに比べれば、日本はほとんど失業者を出していないに等しい。

政府が雇用調整助成金の支給対象を大幅に広げたり、保障額を大幅に引き上げた事で、大手企業を中心に雇用には手を付けず、社員を抱え続ける決断をしたことが大きいとみられる。

パートやアルバイトについても、休業補償をした事業者には補填をする制度拡充が行われた結果、大手企業を中心にパートなどもクビにせずに雇用を維持したところもある。

日本企業はもともと内部留保が多く、手元資金も潤沢なため、結果的にこれが奏功して、従業員の雇用を守り続けることができたと、とりあえずは言って良さそうだ。

もちろん、労働力調査でも、パートなどの「非正規雇用」は1年前に比べて2.9%、61万人も減少しており、女性パートを中心にした雇い止めなどが広がっていることを統計数字は示している。「外食チェーンを解雇された」といった女性パートや、「シフトがなくなって収入が途絶えた」という学生バイトも少なくない。

だがそれでも、本格的な雇用調整は起きていないというのが現状だろう。

正念場は6月以降に

では、このまま、雇用情勢は回復に向かうのだろうか。4月、5月は政府や自治体の休業補償などもあって、従業員を「休業」させたところも多い。休ませることで雇用調整助成金などが入るので、企業にとってはダメージが少なかったわけだ。

問題は営業が再開された6月以降。飲食店や小売店がお店を開ければ、当然、人件費はかかるし、店舗の家賃も光熱費もかかる。そうした営業経費を賄えるだけの売り上げが確保できれば良いのだが、なかなか経済はV字回復とはなっていない。

 

つまり、政府が人件費や家賃などの面倒を見てくれなくなる6月以降が、経営者にとっては正念場なのだ。

新型コロナの蔓延が収まらない中で、「密」を避けるために客席の数を減らしたり、入店客数を制限すれば、当然売り上げは元には戻らない。旅館やホテルなどでも同様だ。そうなると、売り上げや客の数に合わせて従業員を削減しなければならなくなる。

ある温泉地のホテル経営者は、「営業は再開したが、お客様の数が元に戻るには数年はかかる。残念ながら高齢な社員やパートさんには退職してもらうしかない」と話す。

そうした人員整理が始まるのは、むしろこれから、というわけだ。

秋には正規社員のリストラも

中堅大手の上場企業も、ほとんど雇用には手を付けていない。だが、売上高が大幅に激減している中で、今年度は赤字に転落する企業が少なくない。

それが誰の目にも明らかになってくるのは9月中間決算が発表される10月から11月にかけて。今は今年度の業績予想を「算定不能」として公表していないところが多いが、秋になれば今年度の業績の深刻さが明らかになる。

そんな中で、年末のボーナスを支給できるのか。あるいは雇用に手を付けずに踏ん張ることができるのか。

当然、年末のボーナスが減れば、消費にも大きく響き、再び小売業などの業績悪化に結びつく。景気悪化のスパイラルが始まる可能性もある。そうなれば世の中で再び「リストラ」という言葉が口の端にのぼることになるだろう。

好転の要素は見当たらず

海外からやってくる訪日外国人旅行客の回復も見込めない。インバウンド消費に依存していた観光関連産業の苦境はそう簡単には収まらない。

国境を超えた人の動きがままならないことで、日本と海外の間の貿易量も大幅に減少している。輸出入関連の企業などもボディーブローのように響いてくるに違いない。

外出自粛によるテレワークの急激な普及などで、通信・電子機器やソフトウエア、宅配会社など需要が盛り上がっている企業もある。だが、消費全体が落ち込んでしまえば、こうした企業の売り上げ増は一時的な「特需」で終わってしまうことになりかねない。経済活動の停滞が続いて儲かる産業や企業などほとんどないのだ。

新型コロナ感染症は高齢者や持病を持つ人など「弱者」に襲いかかっている。経済的にも非正規労働者など不安定な弱い立場の人たちに真っ先にしわ寄せが言った。今後、突然、新型コロナが消滅でもしない限り、リストラの波は高齢者や女性のパート・アルバイトなどから正規雇用の人たちへと影響が広がっていくことになりそうだ。