菅総理の記者会見、なぜか「最後の質問」だけがいつも面白くなる「ウラ事情」  そのメッセージは国民に届く…のか?

現代ビジネスに2月4日掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/79921

世界の標準装備

菅義偉首相は、2月2日の記者会見で、初めて「プロンプター」を使った。反対側からは透明に見える板に原稿を投射する装置だ。「手元の原稿ばかり読んでいる」「国民に訴えかけることができない」と散々批判を浴びたためだろう。

世界の政治家や経営者の演説では「標準装備」だし、前任の安倍晋三首相も使っていた。なぜ今まで使わなかったのかが不思議なくらいだが、やはり目線を上げて話した菅首相の印象は大きく違った。

ところがそれも、冒頭発言まで。質疑応答だから、原稿がないので、当然だろうと思われるかもしれないが、逆のことが起きた。質問を答える時に、手元の資料を見て話すことが多かったのだ。不思議だ。質問の答えを書いた紙が手元にあるのか。

内閣記者会の所属記者に聞いてみた。もしかして、質疑はすべて用意されているのか。質問者として指名される記者は始めから決まっているのか。

記者によると、質問を事前検閲したり、質問者を限ったりされているわけではない、という。だが、内閣広報官が一生懸命各社の記者を訪ね、質問事項を聞き出しているという。内閣広報官は山田真貴子さんという女性で、旧郵政省に入り総務審議官で退官後、女性初の内閣広報官として登用された人物だ。

質問はまず記者クラブの幹事社が行うのが慣例だから、冒頭2人の記者の質問は事前に把握しているということだろう。首相が手元の資料を見て答えるのは、そこに模範解答が書いてあるからに違いない。

その後も指名するのも山田氏だから、だいたい質問は想定されているのだろう。まあ、ヤラセとは言わないが、想定問答通りの質疑になっているということだ。

菅会見は最後が面白い

だからかどうかは分からないが、菅首相の会見は、最後の質問が面白い。

緊急事態宣言に7府県を追加した1月13日の記者会見では、ビデオニュース・ドットコムの神保哲生さんが質問に立った。人口当たりの病床数が世界一多い日本で、感染者数が米国の100分の1くらいなのに、それで医療がひっ迫していて、緊急事態を迎えている状況について、

 

「総理の説明が、単に医療の体制が違うんですというので果たしていいのでしょうか。つまり、体制を作っているのは政治なのではないかと。政治が法制度を変えれば、それは変えられるではないですか」と切り出した。その上で、感染症法と医療法を改正するつもりがあるのか、と聞いたのだ。

結果的に感染症法と医療法の改正案はその後、閣議決定され、通常国会に法案として提出された。それが十分な改正かどうかについてはここでは論評しないことにする。

ちなみに首相官邸のホームページには「記者会見」の動画が多数載っているが、ほとんどは、首相が官邸に出入りする際に立ち止まって1-2分話すものがほとんどだ。かつては「ぶら下がり」と言って、記者が取り囲んで無秩序に質問することが多かったが、安倍内閣から、立ち止まってほぼ一方的に話すスタイルに変わった。いわゆる質疑応答を本格的に行う本物の「記者会見」ではない。

この数分の発言も菅内閣になってからホームページに載るようになった。官邸に出入りできない人たちには情報が増えた格好だが、あたかも「記者会見」がたくさん開かれているような印象を与えている。おそらく、「菅首相は記者会見を開かない」と批判されたからだろう。

ズバリ、国民が聞きたい質問に

会見の最後の質問が面白いと言ったが、緊急事態宣言を3月7日まで延長した2月2日の会見もそうだった。

質問に立ったのはジャナーリストの高橋浩祐氏。「イギリスの軍事週刊誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーの東京特派員」と名乗った。ワクチンについてこう聞いた。

「総理、2月中旬から接種を開始したいとの意向を示されましたが、世界では既に60ヵ国近くがワクチン接種を開始しております。日本は何でこんなに時間がかかるのでしょうか。G7の中でワクチンの接種を開始していないのは日本だけです。

 

OECD経済協力開発機構)加盟国37か国中、ワクチンをまだ未接種なのは日本やコロンビアなど僅か5か国。そもそもワクチンは、国家安全保障や危機管理ですごく重要な、日本でやるべき生産、開発だと思うのです。なぜこんなに日本はできないのか」

「なおかつ、総理はいつも、日本は科学技術立国と名乗っていますよね。その立国を名乗るならば、なぜメード・イン・ジャパンのワクチンを生産できないのか。こういう状況で、ワクチンも駄目、あと検査も日本は人口比当たり138位です、世界で。

検査不足、ワクチン未接種、この中でオリンピックを強行していいのでしょうか。危機管理でもっとコロナに専念してというのは国民の願いではないでしょうか」

まあ、国民が聞きたいことをズバリ聞いたという質問だろう。

これに対して菅首相はこう答えた。

「ただ、このワクチンの確保は、日本は早かったと思います。全量を確保することについては早かったと思います。ただ、接種までの時間が海外に遅れていることは事実であります。それは日本の手続という問題も一つあると思います。

慎重に慎重に、いろいろな治験なりを行った上で日本が踏み切るわけでありますから、そういう意味で、遅れていることは現実であるというふうに思います。ただ、こうしてようやくこのワクチン接種の体制ができて、これから始めるようにしたいと思っていまして、始まったら世界と比較をして、日本の組織力で、多くの方に接種できるような形にしていきたい、このように思っております」

この回答の際は、目線は記者を向いているように見えた。ただ、なぜか、発言の途中で手元の資料を1回めくっていた。手元の資料がプロンプターに映る仕組みなのか。

いずれにせよ、菅首相の国民に対するメッセージ力が高まっていくことを願うばかりだ。