これでは「日大問題」はどこの大学でも起きる…文科省が改革から後退のワケ さすがに改革派が反旗あげる

現代ビジネスに1月29日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/91891

日大問題の闇の深さ

日本大学は田中前理事長と永久に決別し、影響力を排除する」。そう記者会見で述べていた日大の加藤直人学長兼理事長が、その田中英寿前理事長から、学長就任時に125万円の英國屋のスーツを贈られ、受け取っていたことが発覚した。文春オンラインが報じた。

驚いたことに理事会の席で校友会の会長が次のような発言をしたと同じ記事の中で明かされている。

「加藤学長は学長就任祝いとして高価な背広を田中先生に作って貰ったが、みなさんも学部長になったり、理事になった時、同じように貰っているでしょう」

「あなた方のなかには田中先生にお願い事をした人もいるでしょう。加藤学長だけを責めるべきではない」

この発言がどういう文脈で語られたのかは明らかではなく、加藤学長を擁護しているのか、皆同罪だと糾弾しているのかは分からない。だが、日大の幹部の多くが田中前理事長から便宜をはかってもらっている様子が浮かび上がる。

田中前理事長は背任容疑での立件はされず、所得税法違反でのみ起訴された。逮捕前に「俺が逮捕されれば裏金のことも全部ぶちまける」と豪語していたと報じられた。それが背任での立件に影響したかどうかは分からないが、最終的には「逃げ切った」と見ることもできる。

もちろん、日大の工事などを受注している業者などから受け取っていた現金を「所得」として認めたわけで、それが背任に当たるかどうかはともかく、理事長としての「役得」だったことは明らかだろう。

その収入がある人物から高額スーツなどを受け取っていたわけだから、大学の発注資金が回り回って学長らの利益になっていたと見えなくもない。日大の改革に当たるには不適当な人物であることは明らかだ。多くの幹部も同様に金品を受け取っていたとすれば、同罪と言えるだろう。

そんな日大の腐敗文化を一掃できる人物をどうやって選ぶのか。日大が設置した「再生会議」が3月末をメドに出すという最終答申書の中味に注目したい。

改革から逃げる学校法人側

財団法人や社会福祉法人などいわゆる公益法人の理事は、監督機関である評議員会が選ぶ仕組みになっている。また、決算や予算、重要な財産処分なども評議員会の承認が必要だ。つまり経営執行を担う理事会を、評議員会が監視する仕組みが定着している。理事長が問題を起こせば評議員会は理事長をクビにする権限も持つ。

ところが大学など学校法人の評議員会は理事会の諮問会議という位置づけで、しかも、理事が評議員を兼務できる。さらに学校法人の従業員である職員も評議員になれる仕組みだ。つまり、理事長に逆らえない人たちが評議員になるわけだから、理事長が暴走しても誰も止められないことになる。

政府は2021年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021」の中で、学校法人にも他の公益法人並みのガバナンス体制を導入する法改正を行うことを明記した。それを受けて「学校法人ガバナンス改革会議」が文科大臣の下に設置され、2021年末に報告書が出たが、ガバナンス強化を嫌う学校法人関係者の反対で、宙に浮いている。

あろうことか文科省は「大学設置・学校法人審議会」の下の学校法人分科会の下に、「学校法人制度改革特別委員会」という会議体をもう一度立ち上げ、学校法人関係者で固めた上で、再度審議を始めた。

世界から隔絶した日本の大学

これにはガバナンスの専門家が集まっていたガバナンス改革会議のメンバーが強く反発。「学校法人のガバナンス改革を考える会」を立ち上げた。発起人には改革会議に名を連ねた専門家のほか、大学改革で評価が高い坂東眞理子・昭和女児大学理事長・総長なども加わっている。

発起人代表の久保利英明弁護士は、「司法改革もコーポレートガバナンス改革も、立法府と行政府が、守旧派の抵抗を排除して実現してきました。日弁連や経済団体などにも危機感を共有する改革派がいて、自浄作用を求めたのです。私学界、教育界には、不祥事が相次ぐ現状を憂い、日本の大学のガバナンスが、世界から隔絶した水準にあるとの認識が欠けているのではないでしょうか」と語る。このままでは、日大のような問題が他の大学でも起きかねない、というのだ。

ガバナンスの強化が経営力を高め、社会の評価を引き上げることにつながることは、企業のコーポレートガバナンス改革で示されている。世界の中での評価がどんどん落ちている日本の私立大学に、今こそ強い経営が必要なことは言うまでもない。現状に安住したままでいたい大学経営者は、結局は自らの足下を突き崩していくことになるのではないか。