国民負担率10年連続上昇し過去最高、所得減と税負担増で47.9%に 「来年度は低下」とシラを切る財務省

現代ビジネスに3月5日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/93047

財務省の見通し低設定疑惑

税金と社会保険料が国民の生活を圧迫している。国民の所得に占める税金や社会保険料などの負担の割合を示す「国民負担率」が大幅に上昇し続けていることが、財務省のデータから明らかになった。

同省の2月17日の発表によると、実績が確定した2020年度の国民負担率は47.9%と、2019年度の44.4%から急上昇、過去最高を大幅に更新した。

新型コロナウイルスの蔓延による経済不振から国民所得が減ったことが大きいが、消費税率の引き上げなどによって税金の負担額も増加。所得に占める負担割合が急増した。

国民負担率が上昇するのは2011年度から10年連続で、2011年の37.2%から10%ポイント以上も増加している。2度にわたる消費税率の引き上げや、所得税率の引き上げなどが国民生活を圧迫している様子が浮かび上がった。

財務省は2021年度の国民負担率の「実績見込み」について、48.0%と微増にとどまるとしているが、まったく当てにならない。

毎年、2月に発表する段階では、国の国民所得の見通しが過大だったり、財務省による税負担率の見込みが抑え目だったりして、翌年の発表時には毎回数字が跳ね上がっている。1年前の2021年2月26日に財務省が発表していた2020年度の「実績見込み」は46.1%だったが、今回発表された「実績」は47.9%と、それを大幅に上回った。

財務省が発表する「実績見込み」と「実績」の大幅なズレは過去10年以上にわたって続いており、「実績」が「実績見込み」通りだったことや、下回ったことは一度もない。

さらに酷いのが翌年度の「見通し」だ。今回発表した2022年度の「見通し」は46.5%となっており、国民負担率が低下するとしている。ほぼ毎回、発表時の「見通し」では低下すると発表しているが、10年以上にわたって一度も当たったことはない。財務省は国会答弁で、政府の経済見通しなどを機械的に当てはめているだけで、意図的に低い数字を公表しているわけではない、としている。

だが、消費税率の引き上げなどを目指している財務省にとって、国民の負担が急増しているというのは「不都合な真実」でもあり、意図的に負担率の「見通し」を低く設定しているのではないかという疑念は消えない。

鵜呑みメディアこそが問題

問題は、その財務省の「予想」をそのまま鵜呑みにして記事にしている大手メディアだ。過去の新聞記事を検索すれば、「国民負担率、◯年ぶりに低下へ」という記事が次々と出てくる。毎回、1年後には「誤報」になってきたわけだが、誰も1年前の記事を覚えていないので、懲りずにまた「低下へ」と財務省の見通しに乗った記事を書くことになる。

今年も2月18日付けの日本経済新聞は「国民負担率22年度46.5%、所得拡大で7年ぶり低下」という記事を掲載していた。過去最高の47.9%になったという実績よりも、財務省のいい加減な「見通し」を見出しに取ったわけだ。これは今に始まったことではないが、負担が増えた国民よりも、少しでも低く見せたい財務省の意向に沿った記事を、財務省詰めの記者は無意識に(あるいは意識的に忖度して)書いているわけだ。

さすがにNHKでは今回は「異変」が起きた。「予想」ではなく、「実績見込み」を使って記事にしたのだ。「今年度の『国民負担率』48%、前年度上回り過去最大の見込み」という見出しで報じた。

「これまでで最大となる見込み」と連続で最高になることを報じているが、「前の年度をわずかに上回って」48%であるとしている。前述の通り、48%という「実績見込み」は来年になると大きく外れている可能性が高いので、「わずかに上回って」という表現は「誤報」になってしまうことになりそうだ。

狙いは増税反対論封じか

政策のあり方については10年ほど前から、EBPM(Evidence based Policy Making=証拠に基づく政策決定)が重要だと政府会議でも言われ続けている。

ところが、政策決定の前提になるエビデンスが日本政府の場合、極めて根拠薄弱なケースが少なくない。統計不正も相次いで発覚している。霞が関の官僚たちは、進めたい政策に都合の良いデータを取り上げたり、時には「作ったり」する傾向がある。自分の役所に都合の良い統計数字をクローズアップし、政策誘導するわけだ。

国民負担率が10年連続で上昇し、大幅に過去最高になっていても、「来年度は下がる」と言い続けるのは、増税などへの反対論を封じる狙いがあるのは明らかだ。

48%という国民負担率は極めて高い水準だ。財務省記者クラブで世界各国の国民負担率を比較したグラフを配り、「他の国に比べれば日本はまだ低い」という説明を繰り返している。これも、増税に向けた戦略と言えるだろう。

だが、すでに日本の47.9%という国民負担率は、米国の32.4%(2019年)を大きく上回り、遂に英国(46.5%)も上回った。このペースでいけば、「高福祉高負担」の代表とも言えるスウェーデンの56.5%やドイツの54.9%も視野に入る。こうした欧州の国々は税金が高い一方で、老後保証などが充実し、将来の生活不安が低いことで知られる。日本は、とても「高福祉」とは言えない状況にもかかわらず、明らかに「高負担」へと突き進んでいる。

国民負担率が50%近くになっている中で、財務省は、さらに消費税率の引き上げが可能だと真顔で考えているのだろうか。岸田文雄首相は「分配」の見直しを強調するが、国民の生活が圧迫されているのは、税と社会保障負担、つまり「政府部門」への「分配」が過度になっているためではないのか。企業が3%賃上げしても、税負担が増えれば、国民の生活は一向に楽にならない。