「ロシア経済制裁」で株価乱高下…先行きは「インフレと通貨価値」がカギ 侵攻前から海外勢は売り越していたが

現代ビジネスに3月12日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/93308

ジオポリティカル・リスク

ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以降、米国株は乱高下し、それにつられるように日経平均株価も激しく上下動を繰り返している。西側諸国によるロシアへの強力な経済制裁もあり、世界経済全体への打撃も予想されるが、にもかかわらず株価は一方向の下落にはなっていない。いったいなぜなのか。今後の日経平均株価の行方はどうなるのか。

ロシアが侵攻を始めた2月24日の日経平均終値は2万5970円。前営業日の22日終値と比べて、取引時間中は670円あまり下げる場面もあったが、終値は478円安にとどまった。翌25日から逆に買われる展開となり、3月1日には2万6844円まで戻した。その後、西側諸国の経済政策や企業の事業撤退が表面化すると再び株価は売られ、3月9日には一時2万4681円の取引時間中の安値を付けた。

日本取引所グループが公表している投資部門別売買状況(週次)を見ると、2月21日から25日、28日から3月4日のいずれの週でも「海外投資家」が売り越し、「個人」が買い越す展開になっている。

実は、海外投資家の売り越しはウクライナ侵攻の前から続いてきた。月次の売買状況を見ると、岸田文雄政権が誕生した翌月の2021年11月から今年2月まで4カ月連続で、海外投資家の売り越しが続いている。4ヵ月間の売り越し額は1兆7200億円に達する。

岸田首相が打ち出した「新しい資本主義」が海外投資家に不評で、日本株離れが起きている。新しい資本主義の中身はいまだに見えないが、分配重視を掲げる一方で、金融所得課税の強化などに繰り返し言及されていることから、「反市場主義」の政策が出てくるのではないかとの危惧が海外投資家の間に広がっている。

そうした海外投資家の売りの「受け皿」になっているのが個人投資家だ。個人投資家は長年にわたって日本株を売り越してきたが、2021年の年間で10年ぶりに買い越した。バブル形成と崩壊を知らない若年層が「つみたてNISA」などで株式投資に興味を持ち、株式投資に新規参入していると見られる。株価が大きく下落したタイミングを「絶好の買い場」と捉えて買っている層も多く、日経平均株価が一方向の下げになっていない大きな要因と見られる。

原油価格と弱い円の相乗

今後の世界経済、そして日本経済に大きな打撃を与えるのは間違いなく「インフレ」だろう。ロシア産原油・ガスの輸入禁止を米国が早々に発動したこともあり、原油価格の大幅な上昇が続いている。2008年に付けた1バレル=140ドルを超すのは必至な情勢で、今後、エネルギー価格の上昇が世界経済を直撃することになりそう。

欧州ではすでに電気やガスの料金が急騰している。日本の場合、制度上タイムラグがあるが、今後、大幅に上昇していく事は間違いない。原油だけでなく、小麦などの国際市況も急騰している。

米国の消費者物価上昇率は2021年12月に前年比7.0%を記録。1990年の湾岸危機や2008年の原油高騰時を上回り、第2次石油危機以来およそ40年ぶりの歴史的な上昇となった。ウクライナ侵攻でさらに米国のインフレが加速することになりそうだ。

日本でも、2月の「企業物価」は9.3%上昇と、1980年以来の高い伸びになった。今後、企業は上昇した原材料価格の製品価格への転科を進めていくことになりそうで、日本でも消費者物価が大きく上昇することになるだろう。

さらに、日本経済にとって深刻なのは「弱い円」によってさらに輸入物価が上昇していく懸念が大きいことだ。実質実効為替レートが50年ぶりの弱さになっており、エネルギーや食料だけでなく、すべての輸入品の価格上昇に結びついていく可能性が高い。いわゆるスタグフレーション(景気後退時の物価高)が起きることになりそうだ。

日本は米国に比べて新型コロナの打撃からの回復が遅れており、今後の経済回復が望まれていたが、世界的なインフレが景気回復の足を引っ張ることになりそうだ。まさに「泣きっ面に蜂」の状況だ。

四半世紀インフレと無縁だった日本人は

そうした景気後退の中で、日経平均株価は下落を続けていくのだろうか。

焦点は「世界的なインフレ」と「通貨安」が株価にどう影響してくるか、だ。インフレを予測する投資家は、貴金属や不動産といった実物経済に資金をシフトし、「インフレヘッジ(インフレリスクの回避)」に動く。

2月23日に1オンス=1904ドルだった金価格は、3月8日に1オンス=2000ドルを突破、年初から2カ月あまりで12.5%も上昇している。これもインフレヘッジへの動きと見られる。

そんな中で、株式もインフレヘッジの対象とみなす投資家もいる。企業が保有する実物資産の価値が上がれば、その企業の全体の価値も上がり、株価が上昇するという考えからだ。もちろん、原油や穀物などに関係する企業の株が買われている面もある。

日本人は過去四半世紀にわたってインフレとは無縁の生活をしてきた。今後、日本を襲うであろう「インフレ」をどう読み、自らの資産を保全していくのか。海外投資家の日本株離れが今後も進むと見られる中で、インフレを知らない日本の個人投資家が今後、どう行動するかが日経平均株価の行方を決めることになりそうだ。