「日経平均は見た目以上に下落している」円安もインフレも放置し続ける"岸田政権の大失策" これが本当の日本株の姿…金建てにすると「実質26%」も下がっている

プレジデントオンラインに4月29日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/57104

止まらない円安、迫るインフレの影

猛烈な円安が進んでいる。東京外国為替市場では4月20日に一時、20年ぶりに129円台を付けた。急激なインフレが進行している米国のFRB(連邦準備理事会)が量的緩和の縮小を決め、金利を引き上げる姿勢を鮮明にしている一方、日本銀行は「円安は日本経済にプラス」だとして大規模な金融緩和策の継続を表明。これによる日米金利差の拡大から為替が円安ドル高へと進んでいる。

2月24日にロシアがウクライナに侵攻して戦争が始まったことで、エネルギー価格も大幅に上昇。ロシア産天然ガスに依存しているドイツなど欧州諸国ではガスや電気料金が急上昇しており、インフレに拍車をかけつつある。日本はロシア産エネルギーへの依存度はそれほど高くないものの、全LNG液化天然ガス)輸入の8%程度をロシアに頼っている。石油やガスのほとんどを輸入に依存している日本にとって、エネルギー価格の上昇はインフレへと結びつく。しかも円安で輸入品価格はさらに上昇、日本でもインフレの影がひしひしと迫っている。

巨額の日本国債を抱え込んでいるから、金利を引き上げられない

大規模緩和を続けるという日銀の姿勢は、このインフレ懸念を放置するということにほかならない。黒田東彦総裁が就任以来言い続けてきた2%の物価上昇率が統計数字に表れていないことから、日本でインフレは起きていないというわけだ。3月の消費者物価指数は7カ月連続で上昇した。前年同月比0.8%の上昇に止まっているが、庶民感覚としては輸入品を中心に値上げが続き、すでに物価上昇が始まっている。

実際、3月の国内企業物価指数は前年同月比9.5%も上昇、指数は1982年12月以来39年3カ月ぶりの高水準になっている。企業が本格的に最終価格への転嫁を始めれば、日本の消費者物価も大きく上昇することが予想される。

それでも日銀がインフレ抑制策、つまり金利の引き上げに動かないのは、9年におよぶ大胆な金融緩和の中で、日銀が巨額の日本国債を引き受けて抱え込んでいることが主因だとの見方も出ている。金利上昇は債券価格の下落を意味するので、債券価格が大幅に低下すれば日銀は債務超過に陥るため、金利引き上げができないという指摘だ。この結果、円安を放置する結果になっている。

日経平均は「見た目以上に」下落している

周知の通り、日本はGDP比率で見ると先進国の中で最悪の財政状況だ。いわゆる国の借金(国債及び借入金並びに政府保証債務)の残高は2021年12月末で1218兆円。年間のGDPの2倍である。しかも新型コロナ対策で大幅に財政支出を増やしたため、財政を立て直すメドはまったく見えていない。そうした、日本の財政状態への不信感も円安が進む一因だ。急速に進む円安は日本の国力が大きく落ちていることを如実に示している。

「いやいや、日本売りという割には日本株の下落は大きくない」という声もある。確かに129円まで円が売り込まれた4月20日日経平均株価終値は2万7217円。年初1月4日の終値は2万9301円だったから7%の下落だ。この間、新型コロナの再拡大や、ウクライナ戦争の勃発など日本経済を大きく揺さぶる問題が起きた割には下げは小さいとも言える。

だが、ここで注意が必要なのは、日経平均株価は「円建て」だということだ。日に日に弱くなっている通貨で表示されている。これまで国内物価が変わらないので、円の使用価値が目減りしていると感じないが、世界の投資家からすれば、円安が進んでいる分、日本の株価は安くなっている。つまり、日本人が気がつかない間に、日経平均は「見た目以上に」大きく下落しているのだ。

「金建て」で日経平均を見ると大幅に下落している

ドル建ての日経平均株価で見てみるのもひとつの方法だが、ドルも通貨である以上、それ自体が弱くなったり強くなったりする。そこで、人類の歴史と共に価値保存に使われてきた「金(ゴールド)」建てで日経平均株価を見てみたらどうなるか。

2021年1月1日(前年の最終売買日の終値)の日経平均株価を100として指数化したもの(青線)と、日経平均株価をその日の金小売価格で割った指数(赤線)を比較してグラフにしてみた。当初はほぼ同じ波形を描いていたが、2021年10月ごろから金建て指数の下落が始まる。円安が進んだ分がこの指数に反映されているとみていいだろう。

4月25日現在、日経平均株価の指数は96.9と1年4カ月前に比べてわずかに下落した水準にすぎない。ところが、「金建て」で日経平均株価をみると76.6。大幅な下落を演じているというのが日本株の実態なのかもしれない。

分岐点の2021年10月に岸田内閣は発足している

ところで、分岐点となった2021年10月というのは何があったのか。岸田文雄内閣の発足である。「新しい資本主義」を打ち出し、これまでの路線とは違った経済運営を掲げてスタートした。総裁選に出馬した当初の段階では「新自由主義的政策は取らない」と従来の規制改革による成長戦略を否定。金融所得課税の強化など富裕層に負担を求めて庶民に分配する「分配重視」を打ち出した。

これは市場関係者から猛反発を食らう。財界人の一部からは「新しい資本主義は社会主義ではないか」と言って声まで上がった。岸田首相が金融課税強化に触れるたびに株価が大きく下がる「岸田ショック」が起きた。

結局、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の具体的な中味は半年たっても明らかになっていない。負担をどこに求めるかを明示しないままに、新型コロナ対策という名の「バラマキ」を続けている。岸田首相の側近は、「何よりも7月の参議院選挙に勝つことが第一」と明言しており、選挙にマイナスになるような政策は打ち出さないという姿勢だ。ちなみに7月の参院選を乗り切れば、衆議院を解散しなければ3年間は選挙がない。選挙に勝利してから具体的な政策を打ち出す、ということなのだろう。

財政支出をすればするほど、円安は進む

ところが経済の動きは待ってくれない。円安によって物価の上昇に拍車がかかりつつある。これに対して岸田内閣は「財政出動」で物価を抑えるという施策に打って出た。ガソリン価格の上昇を抑えるために、石油元売り会社に補助金を出し始めたのだ。当初は1リットル5円だった補助金の上限を3月から25円に引き上げたものの、原油価格の上昇に飲み込まれ、4月26日には1リットル35円に引き上げることを表明した。岸田内閣は「市場」に対して、まさに戦いを挑んでいるのだ。

だが、皮肉なことに、そうやって財政支出を膨らませれば、国家財政はさらに悪化し、結果として円安が一段と進むことになる。円安が進めば輸入原油に依存する円建てのガソリン価格はさらに上がる。自ら足元を掘り崩しているような政策をとっているわけだ。これも選挙に勝つまで、ということなのだろうか。

気づかないところで「日本株売り」が進んでいるかもしれない

4月26日の日本経済新聞の「一目均衡」というコラムに編集委員川崎健氏が「上滑りの『新しい資本主義』」というタイトルで記事を書いていた。その中で、「岸田氏に最も近い側近で、新しい資本主義の発案者と目される木原誠二官房副長官の発言」を取り上げている。これまで岸田首相が発言してきた「金融所得課税の早期引き上げ」「自社株買いの規制」「四半期開示義務の廃止」について明確に否定した、というのだ。もっともこの発言は、野村証券が主宰する機関投資家向けのテレビ会議でのことで、市場向けのリップサービスの可能性も十二分にある。木原氏は、市場をなだめておかないと選挙を戦えないと考えたのではないか。

それくらい岸田首相就任後の株価下落は深刻だ。前述の金建て日経平均株価の指数を、岸田首相が就任した2021年10月4日を100としてみると、我々が日頃見ている円建ての日経平均株価との差が歴然とする。4月25日現在、円建てでは6.5%の下落にすぎないが、金建てにすると26.1%の下落である。我々が気がつかないところで、深刻な「日本株売り」が進んでいるのかもしれない。