現代ビジネスに12月26日にアップされた拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59171
2万円割り込む
とんだクリスマス・プレゼントとなった。12月25日の東京株式市場は、日経平均株価が急落、1010円安の1万9155円74銭となり、2万円台を大きく割り込んだ。前日のニューヨーク・ダウが653ドル安と大幅に下げた流れを引き継いだ。25日は年内に決裁される売買の最終日で、米国株安をきっかけに「損切り」売りを誘発した。
12月28日の大納会までに世界に広がる株安連鎖が落ち着きを取り戻すのかどうか、年末の終値がいくらになるのかが、大いに注目される。というのも、2018年の終値が前年の終値(2万2764円94銭)を下回ったとすると7年ぶりのこととなるからだ。四本足の年足チャートが7年ぶりの「陰線」になるわけだ。
第2次安倍晋三内閣が発足した2012年以降、年末の株価が6年間も上昇し続けてきたのだが、それが「変調」をきたすことになる。
7年連続の「陽線」になるか、7年ぶりに「陰線」になるかでは、相場のムードは大きく変わる。あと3日で2万2764円まで戻すのは現実的には難しいとみられ、「7年ぶりの陰線」がほぼ確実な情勢だ。7年ぶりの陰線となれば、これまでの上昇トレンドが終息する形になるわけで、2019年は株価にとって正念場の年になる。
株価あっての安倍政権
2008年秋のリーマンショックで6994円の大底を付けた日経平均株価はその後、戻し歩調だったが、円高とデフレの深刻化で再び軟調となり、第2次安倍政権発足前の2012年6月には8238円の安値を付けた。
それが安倍氏の自民党総裁選任と歩調を合わせるかのように上昇基調となり、政権発足直後の2012年12月末は1万395円を付けた。それ以降、株価はほぼ右肩上がりに推移してきたことになる。
第2次以降の安倍内閣は、歴代内閣の中でも株価の動向を非常に気にかけてきた政権だ。2012年12月の衆議院総選挙で安倍自民党が大勝して政権を奪還できたのも、「経済」を最優先事項として打ち出し、株価の上昇が追い風になった。
民主党政権下で円高、デフレが進展し、株価が低迷していたことへの国民の「失望」が大きかったことも、安倍内閣への期待を高めた。
2013年に本格的に着手したアベノミクスが株価を押し上げた。3本の矢の「1本目」である大胆な金融緩和によって、それまでの円高が大きく修正されたことが、株価にとっても大きくプラスになった。
東京市場の売買の過半はドル資産などを運用する外国人投資家によるもので、為替の円高はマイナス、円安はプラスに働く。日本取引所グループ(JPX)が発表している投資部門別売買状況によると、2013年は「海外投資家」が日本株を15兆円も買い越した。
海外投資家の間で最も関心を呼んだのがアベノミクス3本の矢の「3本目」である民間投資を喚起する成長戦略である。「変わらないと思っていた日本が自ら構造改革しようとしている」点に海外投資家の関心は向いた。
生産性が低く、資本利益率(ROE)が国際水準からみて低水準の日本企業が、規制緩和をきっかけに成長を始めれば、日本経済は大きく変わる。そんな期待感が強まったのだ。
ところが、海外投資家の期待ははげる。アベノミクスの3本目の矢がなかなか飛ばなかったのである。2015年に小幅に売り越した海外投資家は2016年には3兆7000億円近くを売り越した。
「働き方改革」を進めた2017年は日本の労働慣行などが変わるとの期待もあり、売り買いトントンだったが、2018年は再び大幅な売り越しになっている。12月14日段階で、5兆7000億円近く売り越されている。もちろん、アベノミクス開始以降、最大の売り越しである。
公的資金で支えてきたが…
実は、安倍内閣の幹部はしばしば米国のヘッジファンドなど機関投資家と面会してきた。官邸で正式に面会することは少ないが、夜の会食や朝食会などを開くこともある。
世界の投資家は安倍内閣が何をやろうとしているのか、日本は本当に変わるのか、虎視眈々と政治家の話を聞いてきた。
安倍内閣が海外投資家を大事にするのも、日本株を買い支えているのが海外投資家だからである。
もっとも、株価を意識してきた安倍政権には株価を支える他の術もあった。公的資金による日本株の取得である。当初はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の年金マネーを、債券運用から株式運用へと大きくシフトした。また、郵便貯金や政府系官民ファンドなども株式投資を拡大している。さらに、日本銀行によるETF(上場投資信託)の購入が本格化した。
その「片鱗」が投資部門別売買状況の「信託銀行」に表れている。GPIFなど政府機関が株式を購入する際に、信託銀行を通すことが多いためだ。
2014年に2兆7000億円、2015年に2兆円、2016年に3兆2000億円を買い超していた。GPIFは資産運用割合の見直しで株式を大きく増やしたが、枠いっぱいにまで株式の割合が増えたこともあり、新規の株式購入余力はそれほど大きくないとみられる。
参院選に大きな影響
2017年の信託銀行は900億円ほどの小幅な買い越し、今年は1兆2000億円程度の買い越しになっている。
実際にどれだけ内閣の「期待」にそって株を買い支えているかは判然としないものの、こうした「公的資金」が株価の支えになっていることは間違いなさそうだ。
そんな「株価重視」の安倍内閣だけに、日経平均株価が「7年ぶり陰線」になる影響は小さくない。比較的高い支持率を得続けてきた安倍内閣の足下も揺らぐことになりそうだ。
選挙前に株価が大きく下がると、自民党候補や支持者から、「株価を上げないと選挙に勝てない」という声がこれまでも繰り返し上がってきた。来年7月の選挙に向けて、株価が再び上昇トレンドになるかどうかが、勝敗に影響を与える。
だが、来年の株価の先行きは楽観視できそうにない。世界的な景気悪化が懸念されているからだ。これまで好調だった米国景気も秋口にピークを超えたと言う見方が広がっている。
英国のEU(欧州連合)からの離脱、いわゆる「ブレグジット」問題で欧州景気の悪化が懸念される。米中貿易戦争の余波もあり、世界経済全体の成長率は鈍化する見通しだ。
日本はといえば、足元の消費が芳しくない中で、さらに10月から消費増税を予定している。消費を支えてきた「インバウンド」にも変調の兆しが見えている。株式相場にはなかなかプラス材料が見当たらない。
景気の悪化がさらに鮮明になれば、日経平均株価の反転はそう簡単には望めないだろう。