このままでは「マイナンバーカード」が次々に失効していく…政府が"保険証廃止"を強引に進める本当の理由 大盤振る舞いで取得率が8割近くに達したのに

プレジデントオンラインに7月6日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/71410

原因は「ヒューマンエラー」とするデジタル大臣

コンビニで住民票が取れるというのが「便利さ」のウリだったマイナンバーカード。ところが請求したら別人の証明書が誤交付されるケースが出て大きなニュースになった。その後も、「公金受取口座」が他人のマイナンバーに紐付けられていたり、別人にマイナポイントが付与されたケースが相次いで明らかになった。本格運用が始まったマイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」でも本人以外の情報が紐付けられているケースが大量に発覚した。マイナンバーカードを巡る混乱はとどまるところを知らない。

河野太郎デジタル大臣は大半の原因は「ヒューマンエラー」にあるとしている。デジタル庁が作ったシステムの問題ではない、と言わんばかりだ。確かにマイナンバーカードに保険証など別のカードの情報を紐付けようとすると、役所の窓口で役人が関与するケースが増える。ログインしていたマイナポータルの画面からログアウトせずに次の人のデータを入力して別人の情報が紐付けられたケースなどヒューマンエラー、つまり人による誤りが起きているのは間違いない。

マイナ保険証にいたっては「悲惨」そのもの

また、例えば小さな子供の公金受取口座に親の銀行預金口座番号を紐付けるなど、結果的に「他人」を紐付けたものが多数見つかった。その数、6月7日に河野大臣が発表した時点でなんと約13万件。家族ではない他人の口座が誤登録されていたものも748件見つかった。子供でも本人名義の口座を登録しなければいけないという情報が徹底されていなかった「ヒューマンエラー」というわけだ。

マイナ保険証にいたっては「悲惨」そのものだ。6月13日時点で加藤勝信厚労大臣が明らかにした他人の情報が登録されていたケースは7372件。医療機関でマイナ保険証を使った際に「無効」などと表示され、患者が窓口で医療費の10割負担を求められるケースも相次いだ。加藤大臣は6月29日の会見で、カードで加入する保険を確認できなくても、8月診療分からは窓口では本来の3割負担などで支払い可能とする対応策を公表した。マイナ保険証を初めて使う場合には従来の保険証も持っていくように呼びかけるとしており、何ともトホホな対応を迫られている。

現場努力だけでは「ヒューマンエラー」を防げない

政府はマイナンバーカードの普及に躍起になっており、最大2万円分のポイントの付与などで作成を呼びかけた。その結果、7月2日現在では累計9737万枚と人口の77.3%が取得するまでに広がっている。今年1月末に60.1%だったものがポイントの付与をきっかけに一気に高まったが、これが逆に窓口の業務を爆発的に増やし、ヒューマンエラーを助長した面もある。

それでもIT(情報技術)の専門家からすれば、数百件のシステムエラーがあったとしても、1億枚近くある母数を考えれば、わずかな比率だということになるのだろう。7月2日のNHK日曜討論には河野大臣が出演、「マイナカード問題 どう対応?」というタイトルで放送されたが、討論というよりも問題沈静化を図るための国民への説明という感じだった。

出演者が個人認証制に肯定的な専門家だったということもある。さすがに、「役所もミスをするという認識を国民が持つ必要がある」というシンクタンク研究員の発言には、現場でシステム作りを担っている埼玉県戸田市役所の大山水帆デジタル戦略室長が「役所では絶対間違いが起きないような仕組みにしなければいけない」と嗜めていた。もっとも、各自治体でデジタル化に取り組める人材が圧倒的に足りない実態なども強調。現場の努力だけではヒューマンエラーの再発が防げない危機感を示していた。

デジタル化しても「仕事の仕組み」が変わっていない

なぜ、こんなにデータの紐付けでトラブルが起きるのか。それは単なる「ヒューマンエラー」なのかというとそうではない。DXというのはデジタルトランスフォーメーションの略で、デジタル化と共に、それまでの仕事の仕組みを変えていくことを示している。デジタル化すれば仕事が変わる、というのではなく、仕事のやり方や流れをデジタル化できるように変えていくということが重要になる。この「X」(トランスフォーメーション)ができていないことが日本のDX化が進まない最大の原因なのだ。

例えば、マイナンバーカードに別人の公金受取口座が紐付けられてしまった最大の理由は、銀行口座の「氏名」が「カタカナ」になっていることだ。一方、マイナンバーに登録されている氏名は「漢字」のみ。カタカナの読みが入っていないので、システムで自動的に名寄せをすることができない。データの大本になる戸籍にはそもそも読み仮名がないのだ。住民基本台帳にはカタカナの読みを入れている市町村もあるが、検索する便宜上のもので、その読みが本当に正しいかどうかを示したものではない。つまり、銀行口座のカタカナ氏名と住民基本台帳の読みが一致するとも限らないのだ。

 

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