来年以降、政権を揺さぶる火種になりうる…マイナカード大混乱に続き岸田政権を待ち受ける"第2の爆弾" 新設「デジタル行財政改革担当相」は河野大臣が兼任

プレジデントオンラインに9月15日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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「デジタル行財政改革担当相」は河野大臣が兼任

岸田文雄首相は9月13日に内閣を改造した。焦点のひとつだった河野太郎デジタル相は留任、改造内閣の看板になるかと思われた「デジタル行財政改革担当相」は新設されたものの、河野大臣の兼任となった。

当初は、マイナンバーカードへの健康保険証など情報の紐付けを巡る大混乱の責任を取らせてデジタル相を交代するのではないかと見られていた。結局、火中の栗を拾えるだけのデジタル化への知見を持った政治家が限られることから、今後さらなる炎上を抑えるためにも河野氏以外では難しいと判断したようだ。

さらに国民的な人気も高く、岸田氏にとっては潜在的に地位を脅かす存在である河野氏を、閣内で引き続き難題を抱えさせることで、抑え込もうという政治的な狙いもあるという解説も永田町では聞かれる。岸田首相は情報の紐付けミスの「総点検」を11月末までに行うよう指示しており、河野大臣に大きな重荷を背負わせている格好だ。

マイナンバーカードへの健康保険証の一体化については、野党のみならず与党内からも見直しを求める声が出ている。紐付けミスが相次いで発覚した6月以降、内閣支持率が大きく低下。NHK世論調査では5月に46%だったものが、8月には発足以来最低に並ぶ33%にまで低下するなど、岸田内閣の足元が大きく揺らいだ背景にはマイナンバー問題があった。

父は「日本医師会のドン」という厚生労働相

首相周辺は、マイナカードと保険証を来年秋から一体化する方針を先送りする方向で動いたが、結局、8月4日の会見では一体化及び保険証の廃止の方針は堅持した。河野大臣と加藤勝信厚生労働相(当時)の2人が先送りに強く反対したことが背景にあったとされる。今回の内閣改造で、日本医師会の推薦を受ける武見敬三氏が厚労相に就いたことで、この厚労省の姿勢がどう変わるのかが注目される。

武見氏はかつて日本医師会のドンと呼ばれた武見太郎氏の子息。今回の人事には「医師会が大臣になったようなもの」「あまりにも露骨」といった声が噴出しているが、保険証の廃止に慎重姿勢を取る医師会の声が今後の行政にどう反映していくことになるのか。武見大臣が医師会の説得に回って保険証廃止に突き進むのか、河野大臣との間でバトルを繰り広げることになるのか、大いに注目される。

11月末までに行われる総点検で、問題が解決するかどうかは首を傾げる。マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせたいわゆる「マイナ保険証」に他人の医療情報が紐付けされたミスの発覚件数は8月になっても増え続けている。8月8日段階で新たに1069件のミスが明らかになり、実際に他人の情報が閲覧されていた事例も5件確認された。累計の誤登録件数は8441件にのぼる。しかも、今後も誤登録の発見は増え続ける可能性があると報じられている。

インボイス制度開始」という新たな難題

内閣改造が終わり、秋の臨時国会が始まれば、再び、マイナンバー問題の野党による追及が再開する。NHK世論調査では9月の内閣支持率は36%と3ポイント改善、とりあえず一服状態だが、これがどう動くか。来年秋の自民党総裁選で再選を狙う岸田首相にとってマイナンバー問題はアキレスけんであり続ける。

そこにもうひとつ難題が加わる。消費税のインボイス制度が10月1日から開始されるのだ。「適格請求書発行事業者」として登録し、その番号や消費税額を明記した請求書を発行する仕組みで、モノやサービスを購入するために代金を支払った側はこの適格請求書(インボイス)が無ければ、その消費税分を税額控除することが原則できなくなる。飲食店なども登録番号などを明記した領収書(適格簡易請求書)を発行することになり、それをベースに税額控除を受ける。つまり、売り上げに伴って受け取った消費税(仮受消費税)から経費として支払った際の消費税(仮払消費税)を差し引いた金額を納税することになる。

インボイス制度は「増税策」であることは間違いない

すでに課税業者の多くは適格請求書発行事業者として登録を始めており、6月末時点でおよそ300万ある課税事業者のうち8割を超える事業者が登録を済ませたという。個人事業主の課税事業者も7割以上が登録している。

問題は、インボイスを発行できるのは、消費税の申告をする課税事業者に限られること。国内の事業者は個人法人合わせて823万あるとされ、その6割が「免税事業者」とされる。とくに個人事業主過半数が免税事業者だ。こうした事業者の発行する請求書や領収書では税額控除を受けられなくなるため、免税事業者との取引を縮小するのではないか、という見方が広がっている。経費処理するのに簡単な課税事業者の店を利用しよう、ということになるのではないかというわけだ。

インボイス制度を導入する財務省の狙いは、結局のところ、免税事業者を減らし、課税事業者に変えていくことにある。免税事業者も売り上げが減っては困るので、自ら課税事業者になって適格請求書(領収書)を発行できるようになろうという動きが出ている。そうなれば当然ながら、国に入る消費税の額は増えるわけで、増税策であることは間違いない。

来年以降、政権を揺さぶる火種になる

消費税「率」を引き上げれば、国民の注目が集まり大きな反発を生む。ところが課税業者を増やす今回のインボイス制度では、なかなか反発が起きにくい。実際にどれぐらい税負担が増えるのかが見えにくいからだ。だが実際に増税負担を被ることになるのはこれまで免税されてきた個人や零細事業者ということになるだろう。もちろん、様々な経過措置や特例措置も設けられているが、事業者の負担が増えることは間違いない。

例えば非課税事業者が課税事業者に転換しても、実際に消費税を納税することになるのはまだしばらく先だ。その負担増を実感し始めるのは来年以降になる。まだ、その全体的なインパクトを予想するのは難しいが、政権を揺さぶる火種になることは間違いない。しかも不満が爆発するのが来年となると、総裁選前に爆弾が破裂することになりかねない。

インボイス制度や請求書や領収書の電子保存など、デジタル化の進展で、徴税漏れは大きく減っていくことになる。加えて、課税業者が増えていけば間違いなく消費税収は増える。国にとってはデジタル化の恩恵は大きい。

「何のためにデジタル化を進めるのか」国民の怒りが蓄積

一方で、国民側からすれば、何のために国のデジタル化を進めるのか、という憤懣ふんまんが蓄積しつつある。マイナンバーカードも「便利になる」と言って普及させる一方で、結局は個人の資産捕捉などに繋げて税収を増やすことが狙いだろう、ということになる。

そんな不満を解消するために、今回の内閣改造では当初、「デジタル行財政改革担当大臣」を新設し、デジタル化が行政コストの削減につながることをアピールするはずだった。総理直轄のデジタル行財政改革本部を設置することで、国が進めるデジタル化は行政改革のための手段なのだということを示す狙いだったのだ。菅義偉前首相がデジタル庁を創設した時に狙いとして示していたのは「縦割りの打破」。デジタル化が進めば行政コストが下がるというのがデジタル庁創設の謳い文句だったのだが、その理念を再度国民に訴えようとしたのだろう。

ところが蓋を開けてみれば、河野デジタル相が新設のデジタル行財政改革担当大臣を兼任することで終わり、斬新さはすっかり消えてしまった。

今後、マイナンバーのミス続発が止まらないまま、国民に不便さを押し付けることになる保険証の廃止に固執し続ければ、岸田内閣の支持率が再び低下を始めることになるかもしれない。さらに、それにインボイス制度への国民の憤懣が重なれば、岸田政権の足元を突き崩す「第2の爆弾」になるに違いない。