税収増で国はウハウハ「インフレ放置、財政大盤振る舞い」はいつまで可能か 国の税収、初の70兆円超え

現代ビジネスに7月16日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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物価上昇のおかげ

国の税収が初めて70兆円を突破した。財務省が7月3日に発表した国2022年度の一般会計決算によると、税収は71兆1374億円と前年度に比べて6.1%も増加、3年連続で過去最高を更新した。日本が低成長を脱出したわけでもなく、好景気が到来している実感にも乏しいのに、なぜ税収が最高になるのか。日本経済新聞なども「低成長で税収増の不思議」といった記事を書いているほどだが、いったいこれはどういうことなのか。

ひとつ大きいのは、物価が上昇していることだろう。同じ物を買っても物価が上がれば、納めなければならない消費税は自動的に増える。2022年度の消費者物価指数(生鮮食品などを含む)の伸び率は3.2%と40年ぶりの高い水準になった。円安で輸入品の物価が大幅に上昇したことから企業間の取引価格(企業物価)はさらに大きく上昇しており、企業が支払う消費税も増加した。消費税収は前年度に比べて5.4%も増加。23兆793億円と最大の税収源になった。

物価上昇で名目の消費額は増えているが、景気回復によって実質で消費が大幅に増えているわけではない。好景気の実感がないのに税収が増えている最大の理由だ。

企業収益が大幅に増えていることで法人税収が好調だったことも税収を押し上げた。法人税は14兆9398億円と9.5%増えた。円安によって海外の利益を日本に送金した場合の、円建ての利益が大きく膨らんだことや、輸入物価が上昇した分を販売価格に転嫁して、利益が増えた面もある。

また、新型コロナウイルスの蔓延による経済凍結から回復しつつあったとはいえ、2022年度はまだその途上で、企業活動に伴う経費の増加が抑えられていたこともある。リモートワークの定着で、出張に伴う交通費など経費が大幅に減少したことが背景だ。また、都心のオフィスを縮小するなど経費節減が進んだ面もある。

超低金利政策はまだ続く

所得税も22兆5217億円と5.3%増えた。給与が上昇傾向にあることも一因だが、これも景気好転で給料が大きく増えたというよりも、物価上昇への対応で賃上げが行われた面が強い。物価上昇を考えると実質賃金はマイナス傾向が続いている。つまり、物価上昇に追いつかない給与増で、税金だけは増えているという庶民にとっては何ともありがたくない状況になっているわけだ。

さらに、配当収入などが増えていることも所得税を押し上げた。株価が大きく上昇したことで、売買が活発になったが、これも円安によって円の価値が下落したことで、円建ての株価が上昇している面が大きい。売買益への課税が増えたのも国には大きなメリットになったわけだ。

結局、景気自体が大きく好転している感覚は生まれない中で、税金の元になる所得や売買価格が上昇しているために、大きく税収が増えているわけだ。通常、中央銀行はインフレを抑えることを最大の目的としていて、インフレの芽が生じれば、それを潰すために金利を引き上げる。米FRB連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)、英中銀のイングランド銀行などが急ピッチで金利を引き上げてきたのも、インフレを抑えるためだ。

しかし、わが日本銀行は、物価上昇がまだ安定的・持続的ではないという理由を付けて、超低金利政策を続けている。本来、日銀がコントロールする金利が上がれば、発行国債への利払いが増えるため、財政支出も増えることになる。つまり、インフレによる税収分は金利上昇による利払い費で相殺されるか、日本のように発行済の国債が膨大な場合、財政赤字が膨らむことになる。ところが、意図的に金利上昇を抑え込んでいるために、政府が税収増という恩恵を被っているわけだ。インフレ放置が国に利益をもたらしているということになる。

結局「家計」からの収奪

一方で、国財政がこれで改善するかというとどうもそうではない。今回の税収増によって決算剰余金が2兆6000億円生じる見込みだが、この半額を防衛費の増額に振り向けることになる。つまり、税収増で浮いた分を支出に回してしまうわけで、財政赤字が縮小する道筋は見えない。

また、物価上昇を抑えるためという理由で、ガソリン代や小麦、電力・ガスなどへの助成金を大きく増やした。一見物価が下げることになるが、財政の大盤振る舞いが続けば、財政赤字を嫌気した為替の円安が進行する。円安は、円建ての輸入物価をさらに上昇させることになり、タイムラグを生じながらもインフレを加速させる可能性が高い。

インフレが制御不能になれば、欧米のように一気に金利を引き上げる以外に方策がなくなる。そうなれば国債費が一気に増加することになるわけで、現状の「インフレ放置、財政大盤振る舞い」を永遠に続けれるわけではない。これも問題を先送りしているだけ、と見ることもできる。

一方で、給与増が物価上昇に追いつかない庶民からすれば、実態は貧しくなっているのに消費税負担だけが増えていくことになる。本来ならば、庶民の暮らしを守るために減税が行われるのが筋だが、税収の大幅増にもかかわらず、政府からは一向に減税の声は聞こえない。それどころか、先送りされているとはいえ防衛増税も予定される。景気回復なき税収増は、個人金融資産を溜め込んだ「家計」セクターからの収奪とも言える。