「ビッグモーター」の自動車保険不正、動き出した「金融庁」と「国交省」の“狙い”は何か…?

現代ビジネスに7月27日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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「わが目を疑う」

中古車販売会社の「ビッグモーター」(本社東京都港区、兼重宏行社長)が、故意に車を傷つけるなどして修理代を水増しし、自動車保険の保険金を不正に請求していたことが明らかになり、世の中の批判を浴びている。

◆特別調査委員会報告による不適切請求件数と金額

問題発覚自体は1年以上前に遡るが、メディアの追及にも頬被りを続けてきた。ようやく今年1月に会社自身が弁護士らからなる「特別調査委員会」を設置。7月5日にその報告書がまとまったが、受領した会社側はホームページに掲示しただけで記者会見を行っていない。社長ら幹部の報酬の「自主返上」を発表しただけで問題に蓋をしようとしている姿に、批判が噴出する格好になった。

当初、ビッグモーターは「工場と見積作成部署との連携不足や、作業員のミスなどによるもの」「意図的なものでないことを確認している」として、会社ぐるみの不正であることを否定してきた。その後、調査報告書や報道などによって、組織ぐるみの不正である疑いが強まっている。

7月21日には十倉雅和経団連会長が記者会見で、保険金の不正請求について触れ、「あってはならない話で、詐欺だ」と強く批判した。また、鈴木俊一金融担当大臣も記者会見で、「本当にこんなことがあるのかとわが目を疑う」と痛烈な言葉を浴びせていた。

金融担当大臣がコメントしたのは、ビッグモーターが自動車保険の保険代理店になっているから。保険業法上の契約者保護に反した疑いがあるとして金融庁が調査に乗り出し、契約者に重大な損害を与えたことが明らかになった場合は、保険代理店業の登録を抹消することも検討すると見られる。

何が起きていたのか

金融庁が動くとなると俄然注目されるのがビッグモーターと損害保険会社の関係。ビッグモーターの修理では損害保険ジャパン東京海上日動火災保険三井住友海上火災保険などが保険金を支払っていた。

2022年11月からビッグモーターが実施した自主調査では、8427件の保険金申請のうち15.1%に当たる1275件で不正行為が見つかったとしている。水増し金額の総額は4995万円で、1台当たり3万9000円の計算。ただし、金融庁が今後、追加での調査を求めた場合、さらに不正が発見される可能性もある。、

修理代の水増し不正によって、自動車の所有者(保険契約者)が保険を使わなければ、所有者自身が割り増しされた修理代を負担していることになり、保険会社は関係ないが、所有者に詐欺を働いた形になる。

一方、修理代に保険を使用場合は、水増し分を負担するのは保険会社だが、翌年から所有者の等級が下がり、保険料がアップすることになる。この場合、保険会社の収入が増えることにもなり、所有者に過大に負担を求める「共犯」になってしまう。

損保各社は調査で明らかになった過大請求分の返還をビッグモーターに求めると共に、本来は不要な保険料の増額になったケースがあれば、それを救済する措置を講じる必要に迫られる。

金融庁の「視点」

ビッグモーターも自動車保険の代理店として、中古車を購入した顧客に保険契約を進める立場にあり、ビッグモーターは損保会社との間に癒着関係がなかったかなど、金融庁が今後調べることになる模様だ。保険代理業務を行う上での指導を行う名目で、損保大手から職員がビッグモーターに出向していたとも報じられている。

金融庁はこのような関係についても調べる方針だ。

金融庁は、保険会社が算定する工事単価などが適正かどうかも調査するとみられる。かつては修理費用を抑制するために、標準単価を保険会社側が示していたこともあるが、現在は独禁法に抵触する可能性もあるため、一律の単価は示していない。

今後、ビッグモーター問題は、監督権限を持つ金融庁などの官庁による調査にステージが移る。

国交省も事情聴取に乗り出しており、同省が所管する道路運送車両法が定めている架空の点検や整備での料金請求など法令違反がないか調べる。違反の疑いがあれば立ち入り検査することになり、違反が認定されれば、民間車検場としての指定取り消しなどの行政処分が行われる可能性もある。