岸田政権が自慢する最低賃金1002円でも「実質は1%引き上げ」に過ぎない現実 厚労省審議会の「紛糾」が茶番だ

現代ビジネスに7月30日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/114031

1000円の大台乗せだが

最低賃金引き上げの目安を決める厚生労働省の審議会が7月27日に開かれ、9時間の議論を経ても意見がまとまらずに28日に持ち越された。今年の焦点は全国加重平均の最低賃金が初めて時給1000円の大台に乗るかどうかだと繰り返しメディアは報じた。実際は、岸田文雄内閣は早々に時給1000円の実現を掲げており、この達成は政治的には既定路線。28日も長時間を議論に費やし、1002円と1000円乗せを決めた。

早速、「初の1000円乗せ」「過去最大の引き上げ」と大々的に報じられている。岸田内閣のリーダーシップの成果だと言いたいのだろうが、今回の引き上げは決して威張れた数字ではない。

全国加重平均の最低賃金は現在961円。1002円になることで41円、率にして4.3%の引き上げということになる。表面上の上げ幅は過去最大だが、物価上昇を勘案した実質的な引き上げ率で考えれば、見え方が大きく変わってくる。

2023年度の消費者物価(生鮮食品を除く総合指数)の上昇率は3.0%に達する。つまり、4.3%引き上げたとしても、物価上昇が3.0%なので、実質的には1.3%しか上がっていないことになる。岸田首相が「過去最大の引き上げ」だと胸を張った昨年も実質は1.03%程度の引き上げにとどまっており、かつて安倍晋三内閣が掲げてきた「3%の賃上げ」には大きく及ばない。

実際、物価を勘案した実質の最低賃金の引き上げ率は、2016年は3.43%(物価上昇率はマイナス0.3%)、2017年は2.54%(同0.5%)、2018年は2.17%(同0.9%)、2019年は2.49%(同0.6%)に達していた。岸田内閣になってから2年続けて1%にとどまっているのは、決して誇れた話ではないのだ。

実質はそれほどでも

さらに足元の物価は上昇している。4月の物価上昇率は3.4%、5月は3.2%、6月は3.3%となっている。昨年度の上昇率3.0%を上回り続けているのだ。しかも、ここにはマジックが潜んでいる。

政府は電力料金やガス、ガソリン、小麦粉などに補助金を出して価格を抑制している。これがはっきりと物価に表れているのだ。「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」という統計数字を見ると、4月の上昇率は4.1%、5月は4.3%、6月は4.2%に達する。

6月に関しては電気代が前年同月比で12.4%も下落、全体の物価上昇率の数字を低く抑えた。逆に、「生鮮食品を除く食料」は9.2%も上昇、「家具・家事用品」も8.6%上がっている。さらに細かく見れば、「乳卵類」が17.4%、「油脂・調味料」が10.7%、「菓子類」10.8%、「生鮮魚介」9.8%、「外食」6.0%と、値上げラッシュが家計を直撃している。消費者の皮膚感覚では、物価上昇率は3%どころの話ではないのだ。

そんな中で、最低賃金を4%引き上げたとしても焼け石に水といったところだろう。最低賃金で暮らしている人たちにとって、生活必需品の値上がりは深刻だ。つまり、岸田内閣が目指す1000円はまったく以って「高い水準」ではないわけだ。

岸田首相は物価上昇を上回る賃金の引き上げを行うことで、消費が拡大し、それが企業業績にもプラスになると繰り返してきた。いわゆる経済の好循環が賃上げという「分配」から始まるとしたわけだ。ところが現実には、物価上昇に賃上げはまったく追いついていない。すでに見たように安倍内閣時代の実質引き上げ率にも追いついていないのだ。賃上げを主導するなら、1000円実現などという「低い目標」ではなく、一気に15%増の1100円くらいを掲げるべきでなかったのか。

「激論の末に」という形

6月に閣議決定した「骨太の方針」でも、最低賃金については「今年は全国加重平均1000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論を行う」と腰の引けた表現にとどまった。

それでも「激論の末」に1000円を達成したという形が必要だったのだろう。抵抗が強い中でギリギリまで頑張ったという格好にすれば最低賃金引き上げに抵抗する中小企業団体などに顔向けできる。まさに「茶番」だ。

米国発祥の会員制倉庫型店舗「コストコ」が全国各地で時給1500円でアルバイトやパートを募集して話題になっている。円安もあって、日本の最低賃金はドル建てで見れば先進国中最低水準だ。国際的な企業からすれば、日本人は「安い労働力」になっている。

熊本に工場を建設中の台湾の半導体大手TSMC。地元では高給が話題になっている。新卒の大卒で月給28万円とされ、圏内の平均を大幅に上回る。「特に深刻なのが、工場や農業の現場で働く高卒の優秀な人材がほとんどTSMCに採られてしまいかねないことだ」と熊本の中小企業経営者は危機感を強める。

最低賃金の引き上げに抵抗している間に、人材の多くが外資系企業に奪われて行くことになりかねない。「異次元」の金融緩和ならぬ、「異次元の最賃引き上げ」が必要だろう。