「空港施設」社長人事介入問題で明らかになった霞が関の組織的天下り 「抜け穴」までもが「政官業」癒着とは

現代ビジネスに4月3日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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国土交通省の「失地回復」狙い

久しぶりに大手メディアが霞が関天下り問題に斬り込んだ。東証プライム市場に上場する「空港施設」の幹部に対して、国土交通省の元事務次官が、国交省OBの同社副社長を6月の株主総会で社長にするよう求めていたと、朝日新聞が3月30日に報じた。報道を受けて取材に応じた空港施設の乗田俊明社長や元次官の本田勝氏も事実関係を認めた。

空港施設は羽田空港など各地の空港でターミナルビルの運営などを手がける民間企業だが、1970年の設立以来、長年にわたって国交省系のOBが社長に就いてきた。空港での事業は国交省が多くの許認可権を握っており、そうした権限を背景にした天下りが続いていた。一方、空港民営化の流れや、上場企業としてのガバナンス問題を背景に2021年6月には同率筆頭株主日本航空ANAホールディングスから乗田社長と稲田健也会長を出していた。本田元次官はその「失地回復」を狙っていたと見られる。

朝日新聞の報道によると、本田氏は2022年12月13日に空港施設を訪ね、乗田社長と稲田会長に面会。元国交省東京航空局長で同社の副社長になっている山口勝弘氏を社長にするよう求めた、という。その際、本田氏は先輩の元次官の実名を挙げて有力OBの名代だと自身の立場を説明、「方針が固まった」「国交省の出身者を社長に」と発言。山口氏を社長にすれば「国交省としてあらゆる形でサポートする」とも語ったという。民間企業の人事に、規制権限を握る国交省が介入しようとしたとの疑惑が生じている。

氷山の一角

国家公務員法では各省庁の現役官僚による天下りの斡旋を禁止、政府の「官民人材交流センター」が一元的に再就職を斡旋することになっている。一方で、官僚OBが斡旋に動くことは法律で禁止されておらず、事実上、抜け穴になっている。多くの中央官庁で元次官など有力OBが天下り先ポストを割り振るなど、斡旋を行っていることは公然の秘密だ。もっとも世の中の関心が薄れたためか、大手メディアもこうした天下り斡旋問題にはかつてほどエネルギーを割いて報道しなくなっている。

当然ながら役所は「国交省は関与していない。退職した者の言動についてコメントする立場にない」と、組織的な斡旋を否定している。本田氏は国交省で航空局長、官房長、事務次官などを歴任して2015年に退官したOBという建前だが、その後、損保会社の顧問を経て2019年6月から東京メトロ代表取締役会長を務めている。

東京メトロは全株式を国と都が保有する事実上、国の子会社で、その会長に就いたのも国交省のOB配置人事の一環と見ることもできる。いわば現役官僚と変わらない公務員に準じる立場の元次官が上場企業に圧力をかけたわけだ。東京メトロは空港施設とは何ら資本関係はなく、本田氏が東京メトロ会長として空港施設を訪ねる理由はない。あくまでも国交省の元次官という「組織的な立場」で民間に要求したわけだ。構造的な天下りの氷山の一角が露わになった格好だ。

ちなみに、公務員は、離職後2年間、離職前5年間に在職していた機関と密接な関係にあった営利企業への再就職の禁止が法律で決められている。つまり、航空局長が退職後すぐに航空会社に天下ることはできないわけだ。それを回避するための抜け道も別途用意されている。出身省庁と関係のない会社の顧問などに就くことだ。本田氏も損保会社の顧問を務めていたが、これが典型的な「天下り待機」の手法だ。

もちろん、損保会社に官僚個人のコネがあったり、損保会社側がその人物を見込んで指名しているわけではない。上場企業はガバナンスが厳しくなっており、取締役の指名などの透明性確保が求められるようになっている。このため、顧問などになるケースが多い。顧問料の相場は月100万円と言われる。

なぜ保険会社なのか

なぜ、保険会社が官僚OBを顧問などに受け入れるのか。空港施設の問題が報じられる直前、3月27日の参議院予算委員会日本維新の会の東徹参議院議員が、損保会社に認められている租税特別措置の異常危険準備金について質問していた。損保会社は大手4社だけで6000億円の純利益を上げているのに、異常危険準備金として200億円も減税しているのは問題だ、というもの。一方で、「令和元年から3年の間に60人の官僚OBが(保険会社に)顧問などとして天下っている」と指摘。「減税という道具を使って天下りしているようにしか見えない」とした。

さらに自民党も損保会社から献金を受けており、「政官業癒着の『鉄のトライアングル』の典型例」だと批判していた。岸田文雄内閣が予定する増税を行う前に、こうした無駄な減税や補助金を見直すべきだというわけだが、その背景に天下り問題があると指摘したのだ。

第一次安倍晋三内閣は、公務員制度改革を政策の柱とし、天下りの廃止などに取り組んだ。2004年に新東京国際空港公団が民営化された「成田国際空港株式会社」の初代社長は元運輸事務次官だった黒野匡彦氏だったが、安倍内閣時の2007年に民間人の社長に切り替えられ、住友商事元副社長の森中小三郎氏が就任した。その後、2012年からはJR東日本元副社長の夏目誠氏が社長だったが、2019年には国交省出身で観光庁長官などを務めた田村明比古氏に交代。国交省からすれば「失地回復」を果たしている。

「政官業」の癒着を批判する声が薄れたためか、岸田内閣からは公務員制度や天下りを改革しようという姿勢は見えない。だが、現実には制度の穴をくぐった天下りは今も続いている。それどころか、着々と権限を拡大しようとしている官僚機構の悪弊が健在なことが、今回の空港施設問題で改めて明らかになった。