金品約3億円受領でも居座る関西電力トップをモノ言う株主は許さない  機関投資家、地公体、社外役員の包囲網

現代ビジネスに10月3日に掲載されました。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67584

金の延べ棒、小判も

「預かってただけやて。返したら問題なしでは、警察いらんやろ」

大阪では怒りの声が聞かれた。関西電力の役員らが、同社の原発がある福井県高浜町の元助役(今年3月に死去)から多額の金品を受領していた問題である。

報道を受けて関電は記者会見し、八木誠会長や岩根茂樹社長ら20人が2011~18年に計3億2000万円相当の金品を受領していたことを明らかにした。

会見した岩根社長は謝罪したものの、自身の辞任は否定した。八木会長と岩根社長らを報酬減とするなど社内処分をしたとしているが、これまで問題発覚まで公表していなかった。外部には公表せずに幕引きを図ろうとしていたことが伺える。

金の延べ棒や小判などを1億円以上受け取っていた役員もいるという。関電は改めて10月2日に記者会見し、詳細を公表。驚きの実態が明らかになった。

菅原一秀経済産業相は問題発覚後、「事実なら言語道断」とし、関電に社内調査の徹底を指示、「第三者機関による報告後、企業人として当然、関電が判断すると思う」と経営責任を明確にするよう求めた。

スチュワードシップ・コードの意味

許認可権を持つ経産大臣にここまで追い詰められては、岩根社長らの辞任は時間の問題だろう。だが、仮に居座りを決め込んだとしても、次の株主総会は乗り切れないに違いない。

というのも、関電の大株主となっている生命保険会社や年金基金など「機関投資家」が再任の議案に反対することが確実だからだ。

日本に2014年に導入された「責任ある機関投資家の諸原則」いわゆる「スチュワードシップ・コード」以降、日本の機関投資家の行動は大きく変わっている。

株主総会に会社側が提出している議案にも反対するケースが増えているのだ。スチュワードシップコードでは、保険会社ならば保険契約者、年金基金なら年金受給者の利益を最大化するよう行動することが求められている。

役員選任議案でいえば、配当を増やし株価を上げる経営者には賛成票を投じても、スキャンダルを引き起こしたり、長年業績低迷を続けた場合、反対票を投じる。

最近では、日産自動車の大株主である日本生命保険が、2019年6月の株主総会で、西川廣人社長(当時)の再任議案に反対していたことが分かっている。

議決権行使の内容については、個別に開示することがここ数年広がっており、機関投資家側も甘い投票行動ができない仕組みになりつつある。

かつて日本の機関投資家は、会社側議案には一切反対せず、経営者に「白紙委任状」を出すモノ言わぬ株主とされてきたが、ここへ来て、がぜん「モノ言う株主」へと変身しているのである。

電力会社の場合、反原発の考え方を持つ人も多く株主になっている。関西電力の今年6月の株主総会では八木会長への賛成票は84.1%、岩根社長への賛成票は85.4%で、大量の反対票が投じられた。多くの一般事業会社の場合、95%以上の賛成票を得るのが普通なので、10%ポイントは低いといえる。

この段階では、多くの国内機関投資家は再任議案に賛成していたが、金品授受が発覚した役員については、次の総会で賛成票を投じることは難しいだろう。

公共団体も、社外役員も

関西電力筆頭株主大阪市で、2019年3月末現在で議決権の7.64%を持つ。また、大阪の地下鉄などを運営する大阪市高速電気軌道も1.73%を持つ9位株主である。

松井一郎市長は、問題発覚を受けて、「バックマージンと疑われるようなプレゼントを受けた方々で会社の信頼を回復できるとは思えない」と怒りをあらわにしていた。さらに、「納得できるようなものでなければ、臨時株主総会を求めて役員を一新してもらうことも考えている」としていた。

さらに、神戸市も3.06%を持つ大株主で、自治体として問題経営者の交代を求めるのは必至だ。

機関投資家である日本生命は3.65%を持つ4位株主で、前述の通り、スチュワートシップ遵守の立場から、賛成票は投じることは難しい。

これらの大株主を合わせると16%になり、それが賛成から反対に代わった場合のインパクトは大きい。個人株主などを含め反対票を投じる動きが広がれば、八木会長、岩根社長が過半数の50%を獲得できるかどうか微妙になってくるのだ。

関西電力社外取締役たちも今後、社長交代を求めることになるだろう。日産自動車で西川社長を事実上更迭したのも社外取締役の主導だった。

関西電力の場合、井上礼之・ダイキン工業会長、沖原隆宗・三菱UFJフィナンシャルグループ元会長、小林哲也近鉄グループホールディングス会長、槇村久子・京都女子大学元教授の重鎮4人が社外取締役に名を連ねている。彼らが動かなければ、次の株主総会で彼ら自身に反対票が集まることになる。

実際、今年6月の株主総会の議決でも、井上氏への賛成票は82.1%と取締役候補の中で最も低かった。沖原氏も82.5%、小林氏も84.8%しか賛成を得られていない。いずれも岩根社長以下の賛成率だった。社外取締役として十分に機能していないとみる株主がかなりの数にのぼっていたわけだ。

不祥事が起きるのは、個人の問題ということもあるが、「社風」の問題が大きい。これを一掃していくのはなかなか大変だ。まずは、当事者をクビにして一切会社から遠ざけることが不可欠だ。

いずれにせよ、関電会長と社長の同時辞任への包囲網は出来上がっている。