岸田政権、ガソリン代補助金をさらに拡大。円安を呼び込む「愚策」をいつまで続けるのか 市場メカニズムに逆らっても

現代ビジネスに9月13日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/116095

15年ぶり最高値更新

夏休みシーズンが終わった9月に入ってもガソリン価格の最高値更新が続いている。9月4日時点のレギュラーガソリンの小売価格は全国平均で1リットル当たり186.5円と16週連続で値上がり。15年ぶりに最高値を更新した前週に続いて2週連続で最高値を更新した。政府はこれに対して石油元売会社に支給する補助金を拡大。ガソリン価格の抑制に乗り出した。

9月7日から拡大された補助金は1リットル当たり17.4円。前の週の9.7円から大幅に増やしたことで、政府は9月末には価格が1リットル180円、10月末には175円程度に下がるとしている。

政府が補助金を出して値上がりを抑える施策を国民の多くは歓迎している。メディアも売り上げが増えない中で燃料費が上がって大変だという運送業者や漁業者などの声を報道、野党からももっと補助金を出せという声が聞こえる。だが、市場で決まる価格を、政府がコントロールすることが、いつまでもできるのだろうか。

ガソリン価格を抑制するために石油元売会社に補助金を出す今の制度がスタートしたのは2022年1月。当初は3月末までの「激変緩和措置」だったが、1月に1バレル=85ドル程度だったWTI原油先物価格がその後、100ドルを大きく超え、1バレル=130ドルに乗せるなど状況が悪化、補助金も打ち切ることができずに延長を繰り返してきた。

国際的な原油価格が落ち着いた2023年1月には補助金の額を抑えたものの、制度自体を止める事はできず、これまでに注ぎ込まれた補助金は6兆円を超えている。本来は2023年9月で制度は廃止されるはずだったが、ガソリン価格の高騰を理由に廃止どころか拡大されているのだ。

この10カ月、WTI価格は1バレル=85ドル以下が続いてきた。にもかかわらず、国内のガソリン価格が下がらなかったのは、為替の円安が続いたからだ。円安のまま、国際的な原油価格が再び上昇を始めれば、国内のガソリン価格は最高値を大きく更新し続けることになりかねない。10月末に1リットル=175円に抑えるという政府の狙い通りに価格をコントロールしようと思えば、どれだけ財政資金を投入しなければならないか分からなくなる。

市場メカニズムへの挑戦

ガソリン価格は、国際的な原油相場と、輸入時の為替がベースで決まる。国際相場は需要と供給の見通しなどによって動く。ガソリン価格が上昇すれば、消費者はガソリンの使用量を減らそうとする。事業者は省エネに努めても補えない分は販売価格に転嫁するが、それが受け入れられなければ売り上げが減る。結果的にガソリンの需要が落ちるので、価格も下落していくと考えるのが市場メカニズムだ。

政府が補助金を出して価格をコントロールしようとする今回の施策は、市場メカニズムに真っ向勝負を挑むものだ。補助金で価格を低く抑えれば、ガソリンの使用量は落ちないので、市場原理が働かなくなる。経済学者の多くがこの施策は邪道だ、という理由だ。また、石油ショック時にエネルギー政策を知る官僚OBも、「この価格抑制政策は将来に禍根を残す」と語る。「石油ショックでエネルギー価格が上昇したから、それを乗り越えるために日本の省エネ技術が花開いた」というのだ。石油に補助金を出してまで利用を促進する政策は、脱炭素、脱化石燃料の国際的な流れからも逸脱する。

さらに、財政資金を投入しての価格統制には、いずれ大きなツケが回ってくる。財政が続かなくなって補助金給付を止めれば、市場価格が一気に上昇することになる。激変緩和のはずだった措置が、逆に激変をもたらすことになりかねない。その時の景気へのインパクトは大きい。価格の上昇が様々なモノやサービスに波及し、インフレが止まらなくなりかねない。そうなれば、消費が大きく失速することになるだろう。

ツケは財政に

また、政府が頑張って補助金を出し続ければ、そのツケは財政に回ってくる。すでに投じた6兆円という金額は、1年間の税収の1割に相当する。そうでなくても財政赤字が慢性化している日本国が大盤振る舞いを続けていて大丈夫なのか。

いやいや「政府の子会社」である日本銀行国債をどんどん買わせればいい、という声も政治家の一部にまだ残っている。だが、日本銀行の財務内容が悪化すれば、通貨の信任を左右する。円安に歯止めがかからなくなりかねないのだ。

価格を抑えようと財政支出していることが、円安にさらに拍車をかけることにつながっているとすれば、自ら足元を突き崩しているのと同じである。

岸田文雄首相は、就任以来、「いわゆる新自由主義的政策は取らない」と言い続け、「市場」を向こうに回す施策をいくつも打ち出してきた。ガソリン代の抑制にとどまらず、電力やガス、小麦粉といった価格を「統制」しようと試みている。そのための過度な財政のバラマキが結果的に円安をもたらしていると見るべきだろう。円安になれば輸入価格はさらに上がり、ますます多額の財政を投入しなければならなくなる。いつまでそんな市場との対決を続けるつもりなのだろう。

岸田内閣は9月13日に内閣改造を行う方針だ。その上で、大規模な経済対策を早急に実行していく、としている。果たして、どんな経済政策を打ち出すのか、国民のウケがいい、価格抑制を次々と打ち出していくつもりなのだろうか。経済政策を担う閣僚の布陣次第では円安に一気に拍車がかかるのではないか。