今さらの「資産運用特区」で懸念される「資産逃避」「円安」の悲しいシナリオ

新潮社フォーサイトに10月4日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/50111

 政策というのは打つべきタイミングがある。一見正しそうな政策に見えても、タイミングがズレると逆効果をもたらす。そんな典型が、岸田文雄首相が打ち出した「資産運用特区」構想だ。

 岸田首相は9月21日にニューヨーク経済クラブで講演した。「我が国で我々が行っていることを評価していただき、我が国経済の底力と将来の計画をよく見ていただき、日本に投資いただくことを強く求めたい」と米国の投資家や経済人に呼び掛けたが、その「目玉」が「資産運用特区の創設」だった。

「海外からの参入を促進するため、資産運用特区を創設し、英語のみで行政対応が完結するよう規制改革し、ビジネス環境や生活環境の整備を重点的に進める。世界の投資家のニーズに沿った改革を進めるため、皆さんも参加いただいて、日米を基軸に、資産運用フォーラムを立ち上げたい」

アベノミクスの「焼き直し」

「特区」と言えば、安倍晋三元首相が推めたアベノミクスで「国家戦略特区」を規制改革を行う武器としたことで知られる。「岩盤」として名指しした農業、医療、労働市場の改革が注目されたが、海外からの投資を受け入れるための規制緩和は大きな課題であり続けた。「金融特区」を設け、様々な申請書類を英語で認めることや、金融機関などで働く外国人が仕事や生活するうえでの環境整備を進めることは、当初から掲げられていた。岸田首相が言及した具体策は、ほとんどすべて10年前のアベノミクスの「焼き直し」と言っていい。

 海外へ行って日本への投資を呼びかけるのも安倍流である。2013年9月にニューヨーク証券取引所を訪れた安倍首相(当時)はスピーチを行い、「バイ・マイ・アベノミクス(私のアベノミクスを買え)」と呼び掛けた。当時、アベノミクスとして「3本の矢」を掲げ、量的緩和財政支出の拡大と共に「民間投資を喚起する成長戦略」を打ち出した。大胆に規制改革を行うことで日本経済を変えていくという方針に、海外投資家が反応。日本株投資に一気に資金が流入した。安倍首相は折に触れて、ロンドンやニューヨークなどで投資家や経済人に「日本買い」を訴えた。

 岸田首相も就任以来、その安倍流を踏襲している。2022年5月にはロンドンの金融街ティーで講演し、「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」と呼び掛けた。「バイ・マイ・アベノミクス」の効果の再現を狙ったのは間違いない。

 そして、今回の演説では、この1年の日本経済のパフォーマンスの良さに胸を張ってみせた。いわく「名目GDP国内総生産)成長率は年率11.4%で主要先進国で最高の伸び」「国内投資も100兆円を超え史上最高」「物価高を上回る3.5%超の賃上げ」「最低賃金は4.5%引き上げ」と目覚ましい成果を上げ、その結果、「株価は33年振りの水準まで上昇している」とした。だから日本に投資すべきだ、というわけだ。

800兆円の大半は「外モノ」へ

 では岸田首相が打ち出した「資産運用特区」にこれまでと違う点はないのか。……

 

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