「人口崩落」が止まらない日本が直面する事態、もはや社会を維持できなる寸前 岸田首相の「異次元対策」に期待感なし

現代ビジネスに2024年1月1日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/122276

減少拡大

2023年の出生数が80万人を割った2022年の77万人をさらに下回り72万6000人程度になると見られることが分かった。減少率は22年の5.0%を上回る5.8%程度に達する見通しで、まさに「人口崩落」が止まるどころか拡大している。

岸田文雄首相は2022年1月の通常国会冒頭、施政方針演説を行ったが、その中で、出生数80万人割れの状況について、「わが国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と強い言葉で危機感をあらわにした。地方での人口減少は深刻で、まさに、社会システムを維持できなくなる寸前にまで来ている市町村もある。

最近では、医療や介護、運輸などの現場で人手不足が深刻化し、地方の病院や老人ホームの運営が危機的な状態に陥ったり、タクシーやバス運転手の不足で、交通インフラも維持できなくなりつつある。しかもこうした産業では70歳以上の高齢者が人手不足を補っているが、人口がまだ多い70歳以上が年々労働市場から退出していくことによって、こうした産業の人手不足はさらに深刻になると見られている。

2022年10月時点の各歳別人口推計をそのまま使うと、23年10月時点で75歳の男女は199万人で、74歳は203万人いる。ところがこれ以降、急速に減少。73歳は187万人、72歳は176万人、71歳は167万人、70歳は159万人と落ち込んでいくのだ。もちろん、これは死亡者がゼロとした最大人口だから、さらに減る可能性が高い。つまり、この15年、アベノミクスの「人生100年時代」の掛け声によって労働市場に参入してきた高齢の労働力が、今後、急速に減っていくのである。

地域も、産業も、消えていく

一方で、出生数の激減が続いていることによって、様々な産業が縮小を余儀なくされている。例えば、小学生向けの学習塾は対象年齢が今後急速に減っていくことから、存亡の危機が訪れることは明かだ。2年前に100万人いた6歳の人口は今93万人。2025年には87万人以下、2028年には79万人以下になることがはっきりしている。

対象年齢人口が2割も減るのだ。すでに幼稚園などで経営危機に陥るところが出始めているが、これはまだまだ予兆に過ぎない。

1歳あたり100万人いた人口が80万人以下になる「人口減少の崖」は、間違いなく日本の産業構造を破壊しながら年々進行していく。11年後には大学入学年代が100万人を割り、「崖」を下り始める。当然、その前に大学の合従連衡が本格化するだろう。高校卒業の働き手に依存している製造業などの人でも壊滅的に足らなくなる。さらに、15年後に企業は大卒の新卒社員採用がままならなくなる。

それ以前にも人手不足は深刻さを増していく。現在60歳の定年相当の人口は156万人、逆に新卒の22歳は124万人しかいないからだ。その差32万人をどう穴埋めするかに企業はすでに腐心している。それが、15年後の22歳は100万人なのに対して、定年の60歳に達する人口は199万人。その差約100万人である。人手不足倒産などという生やさしい話ではない。産業が丸ごと姿を消す衝撃度だ。しかし、それも「崖」を下る前の話なのだ。

20年後、社会に出る人口が80万人を切っている頃、現在200万人いる団塊ジュニアは75歳の後期高齢者になる。今の社会保険システムを維持しようとすれば、現役世代は負担増に押し潰されることになるだろう。どう考えても社会システムは壊れる。

可処分所得先細りの中で

岸田首相は「異次元の少子化対策」によって人口減少に歯止めをかけると訴えた。その後、2023年6月には具体的な対策が打ち出されたが、それによって子どもを産もうという機運が生じたとは言い難い。残念ながら期待感は高まらず、今のところ少子化はさらに深刻化している。前年比の減少率は5.8%と大きくなり、2019年と並んで過去最大になった。まったくといっていいほど歯止めがかかっていないのだ。

少子化の原因について、経済的な問題が大きいという見方が現状では多い。子どもが希望の人数を持てない理由として経済的理由を上げるアンケート調査結果なども存在する。若年層の給与が増えていない一方で、社会保険料負担や消費税の負担が増えて、子育て世代の可処分所得がむしろ減少傾向にあることが、結婚できずに子どもも持てない理由だというのだ。だとすると、今後の少子化でさらに高齢者の割合が増えれば、現役世代への経済的負担は増すことになり、ますます子どもが生まれない悪循環を断ち切ることができないのではないか。

岸田首相は企業に対して賃上げを働きかけている。だが、それも物価上昇率に追い付くことが目標で、子育てできる十分な賃金水準を維持することが目標になっているわけではない。しかも、賃上げ率は物価上昇率に追いつかず、実質賃金は下がり続けている。厚労省の毎月勤労統計調査では、2023年10月まで19カ月連続で実質賃金はマイナスが続いている。

若年層の負担増が経済的困窮度を増し、結婚や出産を諦めざるを得なくなる。それによって、生まれてきた子どもたちの経済的な負担が増える。そんな悪循環を断ち切らない限り、出生数は増加に転じないだろう。