国民負担率48.4%、過去最高でも岸田首相「今後は下がります」のウソ! ホント?

現代ビジネスに2月21日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/124625

低下見込みはどうなった

「実質的な負担は生じない」——。子育て支援金を巡って、岸田文雄首相はこう繰り返しているが、何とも不思議な話である。実際に家計から出ていくお金が増えるのに、負担が増えないと言う。そんなマジックのようなことが可能なのか。

岸田首相は国会答弁の中で出てきたのが「国民負担率」というモノサシだ。国民負担率とは、税金と社会保険料を合わせた額が、国民所得の何%を占めるかを示すもの。要は国民の稼ぎの何割をお上が吸い上げるのか、という尺度である。つまり、国民所得を分母に、税金と社会保険料を分子として計算する。

岸田首相は、分子である社会保険料が増えたとしても、「賃上げ」によって分母の国民所得がもっと増えれば、負担率は下がると言っているのだ。

昨年10月23日の臨時国会での所信表明演説で、岸田首相は「30年ぶりの3.58%の賃上げ、過去最大規模の名目100兆円の設備投資、30年ぶりの株価水準、50兆円ものGDP国内総生産)ギャップの解消も進み、税収も増加しています」と胸を張った。続けて「その一方で、国民負担率は所得増により低下する見込みです」と述べていた。では、国民負担率は本当に下がったのか。

財務省が2月9日に公表したデータによると、2022年度の実績は48.4%、2023年度の実績見込みは46.1%、2024年度の見通しは45.1%になっている。この発表を受けて、マスコミ各社は以下のような見出しを立てた。

◇「24年度の国民負担率45% 国民所得拡大で2年連続縮小へ」(日本経済新聞
◇「国民負担率、45.1% 2年連続低下見込み 24年度」(時事通信
◇「2023年度の『国民負担率』46.1%、前年度を下回る見込み 財務省」(NHK

各社とも、一見、岸田首相の発言を裏付けるような「低下」という見出しを立てている。だが、実のところ、財務省がこの時期に出す「見通し」数字は当たったためしがない代物なのだ。本来ならば、確定した「実績」、つまり2022年度の48.4%という数字こそが信頼できるもので、それを報じるべきなのだが、毎年、メディアは財務省の予想発表を鵜呑みにして記事を書いてきた。

実は、実績の48.4%という国民負担率は、過去最高である。過去13年にわたって負担率は低下したことがないのだ。20年前、2002年度の国民負担率は35.0%。それが、2013年度には40%を超え、2020年度は45%を突破した。この間、税率5%だった消費税は8%、そして10%へと引き上げられた。国民所得に対する租税負担(国税地方税の合算)は2002年度の21.2%から2022年度には29.4%にまで上昇した。また、健康保険などの社会保険料率も大幅に引き上げられてきた。国民所得に対する社会保障負担は、13.9%から19.6%にまで上昇している。これが国民負担が激増してきた20年の「実績」である。

本当か? 3.3%ポイントも急低下

財務省が発表した見通しでは、2022年度実績で48.4%だった国民負担率は、2024年度には45.1%に、3.3%ポイントも急低下するとしている。現在の統計方法になった1994年度以降で大幅に低下したのは2008年度の39.2%から2009年の37.2%の2%ポイント下がったのが最大で、3.3%ポイントも下がるというのは前代未聞である。果たしてこんなことが実際に起きるのだろうか。

財務省の予想で大きいのが、分母である国民所得の推計だ。2024年度は443兆4000億円になるとしている。2022年度の実績409兆円から34.4兆円、率にして8.4%も増えることを前提にしている。もちろん、デフレが収束してインフレ経済になってきたことで、物価上昇分が国民所得を押し上げる効果はある。

財務省が出している社会保障費の負担率に国民所得をかけてみると、2024年度は81.6兆円と2022年度実績の77.7兆円に比べて3.9兆円も増える予想になっている。実際には3.9兆円もの大幅な社会保障費負担の増加を見込みながら、国民所得がさらに増えるので負担率は下がりますよ、と言っているわけだ。これはまさに岸田首相が言っていることである。

ところが、租税負担は2022年度に120兆円だったのが、2024年度には118.4兆円になるという。国民所得が増えて消費が増えれば、当然、消費税収も増えるので、租税負担額は増えそうだが、おそらく税収は低く見ているのだろう。また、防衛費の大幅増額に伴って増税を行うことになっているが、これまた試算には入れていないのだろう。

さすがに2024年度の数字は危ういと思ったのか、NHKは2023年度の「実績見込み」を見出しに立てている。残り2カ月弱の今年度の数字だから、はずれることはないと思ったのだろう。

だが、財務省が毎年発表する実績見込みもまったく当てにならない代物だ。1年前の発表で、2022年度の実績見込みを財務省は47.5%としていた。前の年度2021年度の実績が48.1%だったので、負担率は「低下」するとしていたのだ。それが今年の発表で明らかになった2022年度の実績は前述の通り48.4%。低下するどころか上昇して、過去最高を更新した。

毎年誤報の日本メディア

「低下します、低下します」と言って、蓋を開けたら上昇しているというのはここ10年以上繰り返されている財務省の常套手段なのだ。確定した「実績」を報じず、財務省の言う実績予想や見通しをそのまま報じている大手メディアは、結果的に毎年誤報を書かされていることになる。

残念ながら、2023年度の国民負担率が前年度の48.4%から46.1%に下がる保証はない。それが分かっているからか、1月30日に行われた岸田首相の施政方針演説では、言い回しが変化した。

「歳出改革を継続しながら、『賃上げ』の取組を通じて所得の増加を先行させ、デフレからの完全脱却を果たすことは、高齢化等による国民負担率の上昇の抑制につながり、財政健全化にも寄与します」

あれ、国民負担率は下がるのではなかったのか。「上昇の抑制」という言葉にトーンダウンさせて、予防線を張ったのだろう。もちろん、これは首相が考えてのことではなく、原稿を作る役人の「保身」に違いない。国民負担率は下がると大見えを切っておきながら、上昇した場合、ウソをついたことになる首相から官僚が叱責を受ける可能性がある。だからこそ曖昧な表現に変えたのだろう。

だが岸田首相の「実質負担は増えない」という発言が誤りだと批判される心配はない。2023年度の実績が発表されるのは1年後、来年の2月なので、その頃には誰も首相発言を覚えていない。またメディアも、どんな実績が出ようともそこを記事にすることはなく、財務省の「見通し」発表に従って、国民負担は低下するという記事を書くことになるのだろう。