「政治とカネ」に憤慨!ついに公認会計士たちが立ち上がった おカネのプロが、やるしかない

現代ビジネスに1月11日にアップされた原稿です。

オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50691

チェックが雑になる理由

政務活動費の不正使用が地方議会で次々に明らかになっている。

昨年秋には定数40の富山市議会で不正使用を認めた12人が辞職する異常事態となり、補欠選挙が行われた。11月には宮城県議会議長が政務活動費の過大請求を認めて辞任したほか、高崎市議会でも議長、副議長が辞任に追い込まれた。

相次いで明らかになった不正使用は、政務活動とは関係のない飲食費や備品費、講演料などを支出し、中には領収書の改竄が疑われるものもあった。政治家の資金管理の甘さが改めて表面化した格好だ。

「政治とカネ」は繰り返し問題になっている。安倍晋三内閣でも小渕優子衆議院議員が自らの政治団体の政治資金でベビー用品など多額の不透明な支出を計上、経済産業大臣を辞任に追い込まれた。

なぜ、こうしたカネを巡る問題が繰り返し起きるのだろうか。

ひとつは政治家の「資金管理」に対する認識の甘さである。企業ならば当然、伝票や領収書を保管し、決算書を作る。さらに大企業には外部の公認会計士による会計監査を受けることが義務付けられている。

一応、政治家が持つ「資金管理団体」も政治資金規正法に基づく政治資金収支報告書の作成が義務付けられており、外部の専門家のチェックが義務付けられている。

だが、そのチェックは「監査」と呼べるような代物ではない、というのが公認会計士の共通した意見だ。

2014年に経産相を辞任した小渕議員の場合、関連政治団体小渕優子後援会」が政治資金収支報告書を作成、そこにも「政治資金監査報告書」が添付されていた。署名捺印しているのは「登録政治資金監査人」である。
 
ただ、この登録政治資金監査人は公認会計士である必要はなく、税理士や弁護士も登録することができる。

小渕後援会では当時、税理士が署名捺印していたが、この税理士は、税理士で作る小渕優子氏の後援会の幹事長だった。第三者ではなく、支援者がチェックしていたわけだ。

政治団体の場合、領収書と帳簿が符号しているかを調べる程度で、企業の監査のように実際に資金の移動があったかどうかなどを見るわけではない。監査のようで監査じゃないんです」

日本公認会計士協会の役員も務めたベテラン会計士はそう語る。

会計士業界はなぜ、「監査」という自らの職業基盤の信頼を損ないかねないような、“まがいもの”の監査を許すのか。

自らも許認可を受けて営業している公認会計士は政治家を相手に事を構えることはできない、ということだろうか。

「ごくごく当たり前のこと」をやる

そんな中、「政治資金の管理及び報告についての提言」という文書が近畿地方の政治家宛てに出された。昨年12月22日のことだ。提言をまとめたのは、日本公認会計士協会近畿会が設けた「政治資金問題特別委員会」。
 
もともと、全国組織である日本公認会計士協会の本部(東京・千代田区)に委員会を設立すべきだという声が会員会計士から上がっていたが、協会が消極姿勢を取り続けたため、近畿地方の組織である近畿会で独自に委員会を設けたものだという。

このため、提言の宛先は国会議員及び地方議員となっているものの、国会議員は近畿地方選出の議員だけに限られている。 

提言には「政治家が自らを守るための政治資金の管理方法」という副題がついている。

「国民目線で、真面目な政治家がこのような(政治資金スキャンダルの)問題に巻き込まれないよう、安心して政治活動に専念するためにとるべき方策について議論を進め」たとし、「法律や条例の改正などに頼らず、まずは政治家たちが自らを守るために最低限構築すべき自主規制を確立し、透明性を確保することが本筋である」としている。

まじめな政治家はきちんと資金管理をしているはずだという前提で、そのための手法を示すというのである。

そのうえで、以下の提言を行った。

提言1 政治資金の使途及びその開示に関する内部規則の作成と公表。政治家は、自主規制方針として内部規則を設け、市民に公表する

提言2 複式簿記の採用。簡便かつ正確に出納管理を行うため、複式簿記で記帳し、勘定の残高を管理する

民間からすればごくごく当たり前の事だが、公私の区別など使途についての許容範囲を明瞭化し、政務活動費等に関わる報告書がいつでも閲覧・入手できるなど透明性 についても内規を設けるべきだ、としたのだ。

そのうえで、「個々の支出の源泉が(地方の政務活動費のような)税金であろうと、寄付金等であろうと区別せず、その管理や開示に、しかるべき自主規制を設けることが、市民に信頼される政治家への道だと私たちは考えます」と結んでいる。

本腰、とはいえないものの……

この提言を読んだ地方議員は、「素晴らしい提言だとは思うが、地方議員は秘書を雇うのも大変で、資金管理の仕組みや書類を作る能力が欠けている人が圧倒的だ」と語る。そうした声もあってか、提言では「参考」として、こんな一文を付けている。

「資金管理については政治家が個人単位で行うのではなく、政党・会派の事務局または共同事務センターのようなものを設けて、複数の政治家の資金管理をまとめて出納・記帳することとし、牽制が働く体制を構築することが望ましい」
共同で資金管理を行えば、自ずから透明性も高まるというわけだ。

ただし、この提言。政治家の自主規制を呼び掛けているだけで、すでに制度としてある「政治資金監査」については触れていない。

関係者によると、「そこまで踏み込むと会計士協会の本部の抵抗にあう懸念があったため」だという。「監査のようで監査でない」と言われる制度を放置している責任を問う格好になりかねないからだ。

政治家にはなかなか強いことが言えなかった会計士にとって、精一杯の「提言」ということなのか。それともこれを機に、会計士が本腰を入れて政治資金問題に取り組むことになるのか。

政治資金を巡る問題が注目されている今こそ、会計士の奮起を期待したい。