どうなる規制改革の司令塔、規制改革推進組織の行方  常設化が検討されるも抵抗強く

6月13日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65186

 

延々と看板は付け替えられてきたが

政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大学教授)が6月6日、具体的な規制緩和策について答申をまとめ、安倍晋三首相に提出した。経済財政諮問会議がまとめた経済財政運営の指針(いわゆる「骨太の方針」)や、未来投資会議で決める「成長戦略」と共に、6月末にも閣議決定され、実行に移される。

今回は働き方改革に重点が置かれ、副業や兼業を推進する観点から、複数の企業で働いた場合の労働時間の管理ルールの見直しなどを提言した。勤務地や職務内容を限定する「ジョブ型正社員」の権利を守るために、労働条件の書面化を義務付けることも求めた。

骨太の方針や成長戦略が「マクロ」「総論」的な方針を示すのに対して、規制改革の答申は「ミクロ」「具体論」を盛り込むため、既得権を握る業界団体などの抵抗が強い。

2016年9月に設置され、当初は全国農業協同組合連合会(全農)改革などに取り組んだが、後半は小粒のものが目立った。漁業や医療、雇用、投資といった分野での「岩盤打破」を目指してきたが、抜本的な規制緩和には抵抗が強かった。

規制改革会議の存続期間は3年で、今回の答申をもって、現体制は終了することになる。

規制改革推進会議の前身は、「規制改革会議」。1995年の行政改革委員会規制緩和小委員会(座長、宮内義彦氏)からの流れをくむ。

森喜朗内閣で「総合規制改革会議」、小泉純一郎内閣で「規制改革・民間開放推進会議」と名前を変え、議長も宮内氏から草刈隆郎氏へと変わったが、2010年3月に任期満了と共にいったん廃止された。

第2次安倍内閣の2013年に「規制改革会議」(岡素之氏)として復活させたもので、2016年7月に任期満了、解散となった後を受けて「規制改革推進会議」として設立されていた。

安倍首相はかねてから、「アベノミクスの1丁目1番地は規制改革だ」と繰り返し述べてきた。そのうえで、医療、農業、雇用分野を「岩盤規制」だと名指しして、その改革を強調してきた。当初は「国家戦略特区」を使って岩盤に穴を空ける試みが繰り返されていたが、森友学園獣医学部新設を巡って「特区」が批判にさらされたことで、一気に改革姿勢が薄れている。

特区が開店休業状態になったことで、規制改革推進会議に期待が集まったが、3年間の時限組織であることや、一般の審議会と同じで法的な権限が弱いこともあり、十二分の成果が上げられなかった。政府の主要会議体の中で規制改革会議だけが、首相が議長を務めていないのも、政治のリーダーシップを発揮しにくいという事情があった。

焦点は、7月で設立期限を迎える現状の「規制改革推進会議」が、今後どうなるか。安倍内閣自体の改革姿勢が弱まっているという見方もあり、後継組織がどんな位置づけになるかが注目されている。

常設化には抵抗勢力が多い

そんな中で、自民党行政改革推進本部(本部長・塩崎恭久衆議院議員)が6月11日に、「規制改革の新新体制について」と題する提言をまとめ、菅義偉官房長官に手交した。

提言では、「規制改革推進機関の法定化・常設化」と「担当大臣の一元化、規制改革関係閣僚会議の設置」、「改革人材のプールと人事評価への反映」が盛り込まれた。

規制改革推進会議の後継組織を、内閣府設置法18条が定める「重要政策会議」として位置づけ、常設化すべきだ、とした。重要政策会議は経済財政諮問会議などがそうで、そこで決めた方針(骨太の方針)を実行に移す責務を負う。

一方、これまでの審議会と同等の位置づけでは、答申を実行に移す義務感が官僚組織の中では薄い。霞が関は、民間人などがメンバーの規制改革推進機関で決まったことによって政策の手足を縛られるのを嫌うため、法定化には抵抗している模様だ。

常設化については、最終的に閣議決定される「骨太の方針」には盛り込まれる方向だが、法定化は自民党と政府の間で水面下の折衝が続いている。

2番目の担当大臣の一元化と規制改革関係閣僚会議の設置は、これまで規制改革の担当が分散していたものを一本化するとともに、規制を握る各省庁の大臣と「政治折衝」して規制を改革する道筋を付けようというもの。政治主導での規制改革を実現するためには不可欠の仕組みだ。

3番目の人材のプールは、現状の規制改革推進組織には各省庁から出向で官僚が集まっているが、規制改革を進めれば親元の省庁の利益を削ぐことになりかねない。その官僚の人事考課も現状では出身官庁が行っており、改革派の官僚は出身官庁に戻った場合、人事で不利益を被っているケースが多いとされる。規制改革を推進する官僚をプールしたうえで、人事評価を各省庁から切り離すべきだ、というのが提言になっている。

自民党行政改革推進本部がこうした提言をまとめた背景には、「旧来のアナログ時代の規制を新時代に適合させることは急務」だという問題意識があり、「その成否は日本経済の国際競争力に直結する」としている。

新たな規制改革推進組織がどんな形になるのか。安倍内閣の規制改革に向けた本気度を知ることができるだろう。

JAL勤務時代、通勤時間の「趣味の読書」が自分を助けてくれた

 5月2日のNewsPicks「ミリオンズ ~100万人に1人の人材への挑戦~」に掲載された記事です。オリジナルページ→

https://newspicks.com/news/3843634/body/

 
「#06 松山 真之助(熊本県人吉市産業支援センター長)」
読書人生の始まり
日本航空JAL)に入社して15年目、サラリーマンとしては順調に出世して課長補佐になっていた松山真之助さんは、自ら生活スタイルを一変させた。1993年、39歳の時である。
千葉県の八千代市に自宅を購入、東京品川にある天王洲アイルの本社に通い始めたのだが、ラッシュ時間帯になると通勤に2時間近くかかっていた。
すし詰め状態の満員電車を避けるため、松山さんは4時58分の始発で通勤を始めたのだ。これならば会社まで座って通えるうえ、電車が遅れることもないから6時半には会社に着ける。
もちろん「時差出勤」という言葉などない時代の話である。余裕ができた松山さんは電車内で読書を始めた。それが3000冊に及ぶ読書人生の始まりだった。
 
 
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制度を止めたい総務省が強権発動 「ふるさと納税」はどう変わる?

エルネオスの6月号(6月1日発売)「硬派経済ジャーナリスト 磯山友幸の《生きてる経済解読》」の原稿です。是非お読みください。


 六月一日から「ふるさと納税」制度が大きく変った。実質負担二千円程度で気に入った自治体に寄付し、代わりに魅力的な「返礼品」を入手できることから、大人気を博してきたが、法改正で総務大臣が認定した自治体しか、制度が適用されなくなった。除外された自治体に寄付しても制度上の「特例寄付」として扱われず、控除されないことになる。
 見直しでは、四つの自治体が制度から「除外」されたほか、四十三市町村が今年九月までの期間を区切った認定になった。総務省はかねてから、寄付に対する返礼品の調達金額の割合を三割以下に抑えることや、地場産品に限ることを「指導」してきた。法改正で、それを盛り込み、従わない自治体を除外するという強権発動に出たのである。
 除外を発表されたのは、大阪府泉佐野市、和歌山県高野町佐賀県みやき町静岡県小山町の四市町。三割を超える返礼率の商品をそろえたネットショップ張りの専用サイトを展開したり、地場産品でないアマゾンギフト券や商品券などを返礼品に加えたことが総務省の怒りを買った。泉佐野市は新制度で総務省が認める三割以下の地場産品に、アマゾンギフト券を上乗せし、制度が変わるまでの五月三十一日までの限定として「300億円限定キャンペーン~規制後のふるさと納税を体感して、ギフト券最大30%をゲット!~」を行った。ホームページには「これでいいのか?ふるさと納税」という言葉まで付し、総務省の感情を逆なでしていた。

総務省の胸先三寸
適用除外は過去の懲罰

 泉佐野市は除外の発表を受けて、「新制度に適合した内容で参加申請を行っていたため、非常に驚いています。なぜ本市が参加できないのか、その理由・根拠を総務省に確認し、総務省のご判断が適切なのかどうか、本市としてしっかりと考えたいと思います」とのコメントを発表した。新制度では各自治体が申請して総務省が認定したところしか制度の対象にならない。同市は六月以降は総務省の方針に従うという姿勢を一応示していたものの、除外されるのは覚悟のうえだったようだ。
 泉佐野市は、通販サイト張りの専用サイトと高い返礼率が人気となり、二〇一七年度には百三十五億円ものふるさと納税(寄付)を受け入れた。制度が変わる前に、できるだけ多くの寄付を集めておこうという下心があったのは間違いない。除外されるのを想定して、キャンペーンを打っていたのだろう。
 というのも、今年三月二十二日には石田真敏総務相が記者会見で、泉佐野市など今回除外された四市町に対して、二〇一八年度の特別交付税の二回目の配分額を事実上ゼロにしたことを明らかにした。交付税は、国が自治体の財政状態に応じて配分している。東京都など財政的に余裕のある自治体には配られず、「不交付団体」と呼ばれるが、四自治体もこの「不交付団体」並みの扱いをされたのだ。
 会見で石田総務相は、「財源配分の均衡を図る観点で行ったもので、過度な返礼品を行う自治体へのペナルティーという趣旨ではない」と発言していたが、総務省の言うことを聞かない自治体への明らかな嫌がらせだった。
 今回除外になった静岡県小山町の場合、四月の町長選挙では返礼品が争点になっていた。前町長の決断で、アマゾンギフト券などを返礼品に加えた結果、二〇一七年度は二十七億円あまりを集め、二〇一八年度も大きく増やしていたもようだ。推進した前町長は四月の選挙で落選、見直しを訴えた新町長が当選したにもかかわらず、総務省は除外を決めた。過去の「懲罰」の色彩が強いのはこの一件を見ても分かる。
 こうした結果、九月までの「仮免許」状態になっている四十三の市町村は、今後、総務省の顔色を伺うことになるだろう。ご機嫌を損ねれば、泉佐野市や小山町のように、排除されかねない。総務官僚の胸先三寸なのだ。

どこまでが「地場産品」?
新制度でも知恵比べが続く

 しかし、「地場産品に限る」とした新制度には、不満を抱く自治体が少なくない。何を「地場産品」とするかの線引きが不明確だからだ。六月から除外される小山町の場合、五月末までの返礼品には「サーティーワンアイスクリームの商品券」が掲載され続けていた。町長のインタビューによると、町内に工場があることを理由に、町の担当者が総務省の担当者からOKをもらっていた、という。
 地域に特産の農水産物がある自治体は、簡単に寄付が集められる。北海道の根室市は特産の花咲ガニや北海島エビなどが人気で、二〇一八年度に五十億円の寄付を集めたとみられるが、総務省の認定ではこれはOKである。問題は、工場などで生産されたものをどこまで「地場産品」とみるかだ。
 例えば、宮城県名取市の返礼品には、一万円の寄付でヱビスビール三百五十㍉㍑缶十二本がある。市内にビール工場があるというのが理由だ。米国製のタブレット端末を返礼品にしていて総務省からダメ出しされた自治体もあったが、自治体の言い分は、地域の工場がタブレット向け部品を輸出している、というものだった。
 総務省は、金券もアウトだとしているが、自治体内にある温泉旅館などの宿泊券を返礼品にしているところも少なくない。鹿児島県霧島市に二十万円寄付をすると、霧島温泉の有名旅館「妙見石原荘」の本館ペア宿泊券がもらえる。また、栃木県那須町も温泉旅館の宿泊券を返礼品にしている。
 今回の見直しで、寄付する人たちにとっての「お得感」は若干薄れるかもしれない。だが、故郷やお気に入りの地方を応援しようという人はそう簡単に減らないに違いない。
 二〇一七年度は二年で二倍以上の伸びになったものの、ふるさと納税制度で寄付した人は一千七百三十万人、寄付額は三千六百五十三億円に過ぎない。地方税収全体では三十九兆円、個人の住民税収だけでも十二兆円を超える。仮にふるさと納税の最大可能額を個人住民税の二割とすると、二兆四千億円になる。それと比べれば、まだまだ少ない。
 さらに、総務省が分配権を握っている地方交付税交付金の総額は十五兆円にのぼる。納税者の意思で自治体から自治体に移す「ふるさと納税」はまだまだごく一部なのである。
「返礼率三割以下」「地場産品」という法律の条文をどう解釈するか、総務省の指導をパスして、どれだけ魅力的な返礼品を生み出すか。今後も自治体間の知恵比べは続きそうだ。

 

 

「最低賃金1000円時代」は経済にプラスかマイナスか 労働分配率低下には歯止め

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https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65010

もっと上げるべきなのか

いよいよ最低時給が1000円の時代がやってくる。

政府は5月31日に経済財政諮問会議を開き、6月下旬に閣議決定する今年の「経済財政運営と改革の基本方針」いわゆる「骨太の方針」の骨子案を示した。その中で最も注目されるのが、最低賃金の引き上げだ。

低迷が続く個人消費を底上げするために、大幅な引き上げを求める声が上がっている一方、中小企業団体などからは反発する声も上がっている。果たして、最低賃金の引き上げは経済にプラスなのか、マイナスなのか。

最低賃金は過去3年間、全国平均で3%程度引き上げられてきた。現在、最低賃金(時給)の全国平均は874円。東京都は最低時給985円、神奈川県は983円となっており、昨年並みの引き上げ(東京都は2.8%増)が今年も決まれば、10月から東京や神奈川では1000円を上回るのが確実な情勢になっている。

一方、大阪府は現在936円などと、地方によって格差が大きい。地方の最低賃金を大幅に引き上げることで、全国平均で5%程度引き上げるべきだと、諮問会議の民間議員を務める新浪剛史サントリー社長らが強く主張している。

新浪氏はこれまでの会議の席上でも、最低賃金の上昇が消費増に大きな効果があることがデータで示されているとして、「引き続き最低賃金を力強く上昇させていくことが、内需をしっかりと支えていくために必要」と発言。「できるだけ早期に全国加重平均1000円を目指すべきではないか」と強調している。さらに「従来の3%の引上げペースに止まらず、むしろ、もっとインパクトを持たせるためにも5%程度を目指す必要がある」とまで言っているわけだ。

これに歩調を合わせる形で、自民党の賃金問題に関するプロジェクトチーム(PT)は5月30日、最低賃金を「2020年代のできるだけ早期に全国加重平均1000円を実現する」と提言した。こうした流れを受けて政府も骨太の方針に早期の「平均最低時給1000円」実現を盛り込む見通しだ。

自民党のPTでは、都道府県別になっている最低賃金を、全国一律にすべきだという意見が出ており、各界に波紋を投げかけていた。政府は働き方改革の一環として「同一労働同一賃金」を掲げており、同じ労働に対して県境を越えただけで最低賃金が変わるのはおかしい、という主張が出ていた。

足を引っ張ると見るべきか

5月の大型連休ぐらいまでは、自民党が夏の参議院選挙に向けた「政策集」に全国一律化を検討する方針を明記する方向で調整していたが、ここへきて急速いトーンダウンしている。というのも中小事業者の間から猛烈に反発する声が上がっているからだ。

日本商工会議所は5月28日、全国商工会連合会全国中小企業団体中央会と連名で、最低賃金の引き上げを推し進める政府や自民党の方針に反対する「要望書」を提出した。

その中で、「大幅な引上げは、経営基盤が脆弱で引上げの影響を受けやすい中小企業・小規模事業者の経営を直撃し、雇用や事業の存続自体をも危うくすることから、地域経済の衰退に拍車をかけることが懸念される」と訴えている。最低賃金の引き上げは経済にマイナスだとしているのだ。

そのうえで、以下の要望をしている。

①足元の景況感や経済情勢、中小企業・小規模事業者の経営実態を考慮することなく、政府が3%を更に上回る引上げ目標を新たに設定することには強く反対する。

最低賃金の審議では、名目GDP成長率をはじめとした各種指標はもとより、中小企業・小規模事業者の賃上げ率(2018 年:1.4%)など中小企業・小規模事業者の経営実態を考慮することにより、納得感のある水準を決定すべきであり、3%といった数字ありきの引上げには反対である。

③余力がある企業は賃上げに前向きに取り組むべきことは言うまでもないが、政府は賃金水準の引上げに際して、強制力のある最低賃金の引上げを政策的に用いるべきではなく、生産性向上や取引適正化への支援等により中小企業・小規模事業者が自発的に賃上げできる環境を整備すべきである。

つまり、賃上げは企業が儲かったら自発的に行うもので、政府に数字を示されて行うものではない、と言っているのだ。

企業の貯め込みすぎは事実

確かに、正論のように聞こえる。だが、実際には、日本では企業の儲けに連動した賃上げは実現していない。賃上げを抑える一方で、企業は内部留保をせっせと溜め込んでいるのが実態だ。

財務省が2018年9月に発表した2017年度の法人企業統計では、企業(金融・保険業を除く全産業)の「利益剰余金」、いわゆる「内部留保」が446兆4844億円と前年度比9.9%増え、過去最高となった。増加は6年連続だが、9.9%増という伸び率はこの6年で最も高い。金融・保険業を加えたベースでは前年度比10.2%増の507兆4454億円と、初めて500兆円を突破した。

同じ法人企業統計で企業が支払った人件費の総額は206兆4805億円で、前年度に比べると2.3%増えた。

確かに、人件費は増えたのだが、企業が生み出した付加価値のうちどれぐらい人件費に回しているかを示す「労働分配率」は66.2%で、2011年度の72.6%からほぼ一貫して低下し続けている。やはり、企業収益は社員に十分に還元されていないのである。

利益を溜め込んでいるのは大企業で、中小企業は懐が苦しいのだ、という反論が聞こえてきそうだ。だが、残念ながら、利益を上げられていないのは中小企業の経営者の責任で、働き手の責任ではない。中小企業は総じて生産性が低く、そのしわ寄せが従業員に行っているのである。

中小企業は積極的に従業員の待遇改善を行い、それを製品価格に上乗せすべきだ。実際、優秀な人材を取るために、給与を引き上げている中小企業経営者も少なくない。最低賃金が1000円になったら経営が成り立たないというのは、すでに存在価値を失っているということかもしれない。

あるいは大企業の横暴な値下げ要求で、価格転嫁ができない、と言うかもしれない。それこそ、中小企業団体が一致団結して、製品価格の値上げを受け入れるよう大企業に求めるべきだろう。要望書の方向が間違っているのではないか。

今や空前の人手不足である。しかも、高校や大学を卒業して働く新卒学生は年々減少が続いている。安い給与で働かせようとしても、そうした企業には誰も振り向かない時代が来ているのだ。

消費が盛り上がらないのは、買いたいものがないわけでも、消費意欲が衰えたからでもない。働く世代の可処分所得が年々少なくなっているからだ。

最低賃金の引き上げや、最低賃金の全国一律化は、間違いなく給与の増加に結びつき、それが消費へと向かう。消費が増えれば、企業も改めて潤うわけだ。いわゆる経済の好循環を起こすには、最低賃金の大幅引き上げは効果が大きいとみるべきだろう。

「中国減速」でむしろ懸念される国内経済

隔月で発行される時計専門誌「クロノス」に連載中の「時計経済観測所」5月号(4月3日発売)に掲載の記事です。時計を通じてみえる「景気」の行方などを解説しています。オリジナルページ→

https://www.webchronos.net/features/30549/

 

クロノス日本版 2019年 05 月号 [雑誌]

クロノス日本版 2019年 05 月号 [雑誌]

 

  中国の経済成長の鈍化によって、日本経済に大きな影響が出始めている。最初にその「異変」が数字として大きく表れたのは、2018年12月の「貿易統計」だった。中国向けの輸出が11月の前年同月比0.3%増から一転して7.0%減へと急ブレーキがかかり、輸入も4.2%増から2.8%減へと方向が変わったのだ。

 日本から中国への輸出では、半導体製造装置が数量ベースで42.1%減、金額ベースで34.3%と大きく落ち込み、半導体などの電子部品が数量ベースで42.8%減、金額ベースでも10.7%落ち込んだ。自動車も台数ベースで17.6%減少、金額でも6.5%減っている。

 米中間の「貿易戦争」によって、中国国内の製造業が影響を受け始め、その余波が日本からの部品輸出などに及んでいるのではないか、という見方が広がったのである。

 その懸念がより鮮明になってきたのが、日本の「機械受注統計」である。受注のうち「外需」は10月9.5%増、11月17.6%増と好調に推移してきたものが、12月と1月はともに18.1%減と大きく失速した。国内製造業向けの受注も11月以降、マイナスに転落している。

 この傾向は直近も続いており、2月の統計が出ている「工作機械受注」は29.3%減となり、5カ月連続のマイナスになった。2018年秋を転換点として、景気のムードが一変しているのである。

 1月に発表された2018年年間の中国のGDP国内総生産)伸び率は6.6%で、天安門事件の翌年1990年以来、28年ぶりの低水準になった。減速といっても世界第2位の巨大な経済が6.6%も増えているので、世界経済の牽引役であることには変わりはない。中国国内の消費は鈍化したとしても伸びが続く。

 このコラムでも取り上げているスイス時計協会の2018年の年間統計がまとまったが、中国はスイス時計の輸出先としては香港、米国に次いで世界第3位で、金額は17億1720万スイスフラン(約1900億円)と前の年に比べて11.7%も増えている。減速してもより豊かになって富裕層が増えたことで、時計消費には追い風が吹き続けているのである。

 中国の減速は、中国の国内消費よりも、日本のように製造業向け部品などを輸出している国に打撃が大きい。中国の人件費コストなどが上昇し、「加工貿易」の拠点としての位置づけが薄れていることもある。中国自体が、輸出で外貨を稼ぐ貿易型の経済から、国内消費産業による内需型の経済へと大きくシフトしているのだ。

 そうした経済構造の変化に日本企業がなかなか付いていけないことが、むしろ問題なのである。日本から中国への消費資材の輸出にシフトしていくべきなのだが、そうなっていない。

 もっとも、日本企業の輸出が大きく伸び悩むと国内景気は一気に減速する。2019年3月期の企業収益は、昨年秋口まで、かろうじて増益を維持するとの見方が強かったが、2月以降の報道では、3期ぶりに減益になるとの見方が広がっている。どうやら、昨年秋以降の中国向けの落ち込みが、国内景気を一気に冷やしているのだ。

 中国の減速と、それによる国内景気の悪化は、今後の日本での時計販売に大きな影を落としそうだ。ひとつは中国からの訪日観光客が人数も頭打ちとなり、財布の紐が固くなっていることだ。

 百貨店で免税手続きをした売上高、いわゆる外国人売上高は、2019年1月に2年2カ月ぶりにマイナスを記録した。ところが、外国人への依存度は上がっている。純粋な国内の売上高がさらに大きく減っているからだ。

 百貨店での「美術・宝飾・貴金属」の売上高は1月に2.2%の減少を記録した。マイナスになったのは台風などの被害が大きかった2018年7月の1.3%減を除くと、1年10カ月ぶりだ。明らかに高額品消費でも変調が見られるわけだ。ここまで消費が弱い中で、10月の消費税率引き上げを迎える。日本経済が大きな試練に直面することだけは間違いない。

政府が決定「地銀の株式保有制限緩和」がもたらす重要な変化とは

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https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64924

 

地方創生に役立つか

政府が、地方銀行に対して、株式保有制限の規定を大幅に緩和する方針を固めた。国の経済政策の方向性を決める経済財政諮問会議が近くまとめる「骨太の方針」に盛り込み、6月にも閣議決定する。

これまで銀行は、銀行法の規定によって、企業の発行済株式の5%までしか株式を保有することができなかった。これを地銀に限って大幅に緩和するとしている。上限をどう定めるかは決まっていないが、政府の規制改革会議では、100%の保有も認めるべきとの意見も出ている。

地方創生の流れの中で、地域商社や地域でのベンチャー企業などを立ち上げる動きが広がっているが、こうした企業向けに限って、5%を超えて出資することを認める方向。また、事業承継や事業再生の過程で、一時的に銀行が100%株式を取得することも想定している。銀行法を改正するか、省令によって地銀のみの特例とする、という。

地方創生を掲げる国は、官民ファンドに資金拠出したうえで、地銀などを通じて個別の地域創生ファンドを作っている。もっとも、なかなか民間からの出資が集まらずに規模を大きくできないケースが目立っている。地域活性化地方銀行を活用したいというのが、政府の考えだ。

地域活性化のほかにも、狙いがある。ゼロ金利政策によって地方銀行の収益が細り、このままでは地方銀行の存在が危ぶまれる事態に直面している。また、地方では人口減少によって新たな資金の需要も少ないため、預金を集めて貸し出しする旧来型のモデルでは事業が成り立たなくなっている。そこで、「融資」ではなく、「出資」を新たな収益源にしたいという意向が、地方銀行の間には根強くあった。

むしろこうした地方銀行の経営問題が、株式保有規制の緩和の「本音」とも言える。実際、経済財政諮問会議の民間議員を務める竹森俊平・慶應義塾大学教授は、4月19日の会議で「地方銀行の経営にとって重大な現実の危機がある今、5%ルールを緩和し、地銀が中小企業の事業継承を円滑化し、次の体制が作れるまでのブリッジの役目を担えるようにすることが重要だ」と提言している。

また、長引いたデフレによって貸付金の回収が進んでいない取引先企業もある。多くは地域で古くから営業する老舗企業が多く、業績が低迷していても強硬な資金回収ができないケースが少なくない。もっともこうした企業への追加出資は難しいことから、貸し出しを出資に切り替える「デッド・エクイティ・スワップ」などで支援を継続したいという声が地銀や地方経済界にも多くある。

リスクにも目を向けろ

今回のルール変更は、地方銀行や地方企業などを対象として想定しているものの、法令でどこまで対象を限ることができるかどうかは微妙。地方銀行だけでなく都市銀行に企業の株式保有を認めれば、大手の企業の株式保有に広がっていく可能性もある。

銀行の株式保有を5%以下に限ってきたのは、銀行の「貸し手」としての役割と株式を保有する「株主」としての立場が、利益相反になる可能性が高いため。株主として経営に口を出す一方で、他の株主に先駆けて融資の資金回収を優先するということになりかねない。実際、5%以下の株式保有に限っていても大企業の場合は筆頭株主などになるケースが少なくなく、経営危機に陥った際などは「株主」として情報を得る一方、資金回収を急ぎ、他の株主よりも優位になった事例が実際に起きてきた。

こうしたことから、米国では銀行による企業の株式保有が原則禁じられているほか、利益相反を恐れて、実際に株式を保有する銀行はほとんどない。欧州ではドイツの銀行が日本と同様に「株式持ち合い」の中核的な役割を長年果たしてきたが、2000年前後から急速に持ち合いの解消が進んだ。

銀行が上場企業の株式を大量に保有した場合、株価の下落によって多額の損失を被る可能性があり、そうしたリスクを回避するために、保有株の売却が進んだ。

日本も戦後、銀行を中心とする株式持ち合いが広がったが、バブル崩壊をきっかけに保有株に損失が発生するケースが急増、持ち合い解消が求められてきた。持ち合いによるいわゆる「安定株主」が、経営者が株主総会にかける「会社側提案」に無条件で賛成し、白紙委任する例が長年続いたことから、コーポレートガバナンス上も問題視されてきた。

最近では企業が銀行株を保有する場合なども、「保有目的」やその経済的効果を説明することが求められるようになり、株式持ち合いは急速に減少し始めていた。

そんな中で、銀行の株式保有制限を大幅に緩和することは、こうした流れに逆行することにほかならない。地域で力を持つ地方銀行が「投資家」と「融資者」の両方の立場を持った場合、より深刻な利益相反に直面する可能性がでてくることも懸念される。また、地銀が企業に対して、担保をとったうえでの融資ではなく、経営破綻すれば紙くずになる株式に「投資」することは、これまで以上にリスクを取ることになるだけに、地方銀行を救うどころか、深みに陥れる結果になりかねない。

仮に株式保有の拡大が地域の老舗企業にも及ぶことになれば、地方企業と地方銀行の「一蓮托生」の関係がさらに深まる。「規制緩和」と言えば聞こえはよいが、預金者から集めた「元本保証」の資金を、「ゼロになる」リスクにさらすことになる。

「言う事を聞かない」自治体を「村八分」にする総務官僚の「権力濫用」

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https://www.fsight.jp/articles/-/45405

 ふるさと納税制度を利用して人気の「返礼品サイト」を作り、多額の寄付を集めた大阪府泉佐野市などに対する総務省の「いじめ」が熾烈さを増している。6月からの「新制度」から、泉佐野市など4市町を除外することを5月14日に発表。これに反発した泉佐野市が総務大臣宛てに「恣意的な判断において決定された疑いがある」として質問状を出したが、これに対して総務省は5月24日、「貴市が(対象を定めた)告示の規定に該当しないことは明らか」だとする、そっけない返事を返した。

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