巨大IT企業の市場独占が止まらないワケ 経産省や総務省はむしろ推進役に

5月24日のプレジデントオンラインにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/28774

巨大IT企業への規制強化の動きが日本でも浮上

プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT(情報技術)企業に対する規制が大きな焦点になっている。グーグル、アマゾン・ドット・コムフェイスブック、アップルの頭文字を取って「GAFA(ガーファ)」と呼ばれるプラットフォーマー企業は、無料サービスとの引き換えに個人データを集積し、それを武器に旧来型の産業を駆逐しながら巨大化を続けている。EU欧州連合)では独占禁止や課税逃れ、個人情報保護の観点から規制強化を叫ぶ声が強まり、米国では分割論も浮上している。

そんな中、日本でも、こうしたプラットフォーマーへの規制強化の動きが浮上している。

自民党の競争政策調査会伊藤達也会長)が4月18日、プラットフォーマーに対して、契約条件の明示などを義務付ける「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法(仮称)」の制定などを政府に求める提言をまとめた。

ネット通販などのIT大手と取引する中小企業などが、一方的に契約内容の変更を迫られたり、著しく不利な条件で契約させられたりするケースがあるとして、適切な情報開示や取引条件の変更の事前通知を義務付ける内容だ。

また、公正取引委員会に対し、独占禁止法の「優越的地位の乱用」を適用できるように、夏までに運用指針(ガイドライン)を見直すよう促した。さらに、新しい技術を開発したベンチャー企業を圧倒的な資金力を持つプラットフォーマー企業が買収するケースも相次いでおり、企業のM&A(合併・買収)の審査基準の見直しなども要望している。

自民党の議員を動かした商店会からの「悲鳴」

自民党の議員が動き出したのには理由がある。

「アマゾン」や「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」といったオンラインモールや、アプリストアなどによって、既存の小売店の存立基盤が大きく揺らいでいる。地方の商店会などは言うまでもなく自民党の支持基盤だけに、こうした商店会からの「悲鳴」を無視できなくなったのだ。

また、実際にオンラインモールを利用する小売店などの事業者も大きな不満を抱いていることが明らかになっている。

前日の4月17日に公正取引委員会中間報告として公表したアンケート結果にも、それがはっきりと表れている。

オンラインモールを利用した事業者に規約の変更について聞いたアンケートでは、運営事業者から「一方的に変更された」という回答がアマゾンで72.8%、楽天市場で93.2%、ヤフーで49.9%に達し、その規制変更の中に「不利益な内容があった」とした回答はアマゾンで69.3%、楽天市場で93.5%、ヤフーで37.7%に及んだ。

また、運営事業者が出店や出品を不承認とした際に、その理由について「説明はなかった」とした回答が、アマゾンで64.0%、楽天市場で70.0%、ヤフーで85.7%に達し、その理由に「納得できなかった」とする回答もアマゾン66.7%、楽天市場69.2%、ヤフー16.7%と総じて高かった。

さらに、運営事業者に支払う利用料は「一方的に決定された」という回答が7割から9割を占めた。

対象企業への規制権限が複数の省庁に分かれている

また、アップルやグーグルの「アプリストア」についても同様のアンケートが採られ、「一方的に変更された」という回答が前者では81.4%、後者では73.8%に達していた。

この中間報告で公取委は、今後の調査・検討の「視点」として、独禁法上、「利用事業者の事業活動を不当に拘束していないか,といった点が論点になり得る」とした。また、競争政策上の観点からも、「オンラインモール運営事業者と利用事業者の間における取引条件の透明性が十分に確保されていることが望ましい」としたうえで、「オンラインモール運営事業者による運用や検索アルゴリズムの不透明さなどといった点についても論点になり得る」と指摘していた。

「論点になり得る」ということは規制に乗り出すということか、というと、どうもそうではない。

プラットフォーマー企業に対する規制権限は、日本の場合、いくつかの省庁に分かれている。通信事業者などを監督する総務省や、産業育成などで一般企業を担当する経済産業省、そして競争政策を受け持つ公正取引委員会が主な規制官庁だ。欧米は伝統的に競争政策を担う独占禁止当局の力が強く、今回のGAFA規制でも独禁当局が主導権を握っている。

公取委の力は、経産省総務省より弱い

ところが日本の場合、霞が関内での公正取引員会の力が弱く、経済産業省総務省など業界とつながった各省庁に政策的な主導権が移りがちになっている。

5月21日に、経産省総務省公正取引委員会が発表した「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備に関するオプション」は、そうした力関係が鮮明に表れた。

今後のルール整備に向けての「基本的な視点」から、当初の規制議論の色彩が一気にトーンダウンしている。こんな具合だ。

「デジタル・プラットフォームは、これを利用する事業者・消費者に効率性や安全性等の多大な便益をもたらすものであり、今や事業者・消費者の社会経済生活において不可欠な存在となっている」
「こうしたデジタル・プラットフォーム経済が更なる発展を健全に遂げていくためには、消費者との関係はもちろん、事業者との関係も含め、利用者層それぞれとの間で公正な取引慣行を構築することで、社会的信頼を勝ち取っていくことが重要である」

もはやプラットフォーマー企業は必要不可欠な存在だとしたうえで、規制についてもこう述べている。

「過剰な規制によって未知の新たなイノベーションに対する抑止となることのないようにしなければならない」

独禁法の事業規制では意味がない」のか

さらに、独占的な事業者に対する規制と同様の規制を行うべきだという指摘に対して、「伝統的な『不可欠施設』の運営者に対する規制のような厳しい規制を新たに導入することは、以下の理由より適切であるとはいえない」とまで言っている。ちなみに「不可欠施設」とは電力ガスや鉄道などの公共性の高いサービスを提供する独占事業者のことだ。

そのうえで、2つの理由を記している。

「デジタル・プラットフォーマーの多くは自由競争とイノベーションによって成長を遂げた民間事業者であり、基本的には政府の保護・監督の下で発展した伝統的な独占的な事業者とはその性格が異なる」
「デジタル・プラットフォーマーに対しては、参入規制を設けその中で監督を強めるよりは、むしろ競争環境を整備して、デジタル・プラットフォーム間の競争によるイノベーションを促した方が、その効用を最大限に発揮できると考えられる」

プラットフォームの運営事業者が、利用事業者に不利な契約変更を求めていることなどに対しては、「独占禁止法の不公正な取引方法(優越的地位の濫用等)や私的独占の規制を当てはめる余地がある」としているものの、続けてこう指摘している。

独禁法違反として排除措置命令などを出すことは、厳格な事後規制なので、審査に相当程度の時間を要する。さらにプラットフォーマーが相手の場合、審査が困難で一層の時間を要する。しかも、対応が遅れた場合の被害も大きなものとなりかねないというのだ。つまり、独禁法の事業規制では意味がないと言っているのである。

プラットフォーマーだけを規制できない事情

そのうえで、ガイドラインの制定や事業者団体の組成などを検討すべきだとしている。自民党の調査会が求めた、ガイドラインの制定でお茶を濁そうとしているようにみえる。

欧米のような「契約社会」と違い、日本は中小企業など「下請け」企業や業務請負の労働者の権利はなかなか守られない。強いものがその立場を利用して取引条件を決めるケースが少なくないが、公取委が「優越的地位の乱用」で強者を処罰することはほとんどない。

自動車メーカーの下請けに対する締め付けは有名だが、下請け企業が青息吐息でも巨大メーカーは巨額の利益を上げてきた。そんな下請けとの取引関係についても本格的にメスが入ったことはない。そんな中で、GAFAなどプラットフォーマーだけを「優越的地位の乱用」で規制するわけにはいかないのだろう。

巨大な企業がどんどん肥大化し、富を独占していく今の資本主義に、欧米諸国は危機感を持っている。そんな中で、日本はいつまで大企業優先の政策を続けていくのか。公取委の奮起を期待したい。

進化続ける”おつな”高級ギフトの正体

Wedge5月号(4月20日発売)に掲載された、拙稿です。是非本誌にて購読ください。

 

 

 ツナ缶といえば手軽で美味しい食材の代表格で、1缶150円前後というのが相場だろう。その10倍の価格で売り出したツナが人気を集めている。

 その名も「おつな」。ツナを缶ではなく瓶詰めにし、おしゃれな紙箱に収めた。「大切な(たいせツナ)方と繋がる(ツナがる)乙な(おツナ)もの」という語呂合わせで、冠婚葬祭の引き出物やお中元お歳暮用をターゲットにした戦略が当たった。

 「おつな」を売り出したのは関根仁さん。東京・世田谷区池尻で10年間小料理屋「仁」を営んできた。ある日、酒の肴のマグロが残ったので、何気なしにオイル漬けのツナを自分で作ってみた。なかなかイケる。それがツナに深入りするきっかけになった。

 もともとツナ缶は大好物だったが、缶の臭いが気になり、脂ぎった感じも抵抗感があった。もっとおいしいツナができるはずだ。小料理店経営のかたわら、構想5年。「これだ」と思う完璧なレシピが出来上がった。

 店で出すのではなく、一般に売り出すことを考えたが、大量生産されるツナ缶と勝負することなどできないのは明らか。プチ高級品として売り出す以外に方法はない。ならば缶ではダメ、クリアなイメージの瓶にしよう。

 福島県出身の関根さんは、上京すると都内の鮮魚店で働いた。築地には知り合いが多い。自分の小料理店を開いた後も築地に通った。20年にわたって魚をみてきた目利きには自信があった。

 そんな時、語呂合わせがひらめいた。人と人のつながりを生む乙な「おつな」。これだ、と思った。絶対にいける。

 

ツナに賭ける

 

 関根さんは2017年の年初に小料理屋を閉めることを決める。期日は5月末。ツナに賭けることにしたのだ。

 それから試行錯誤が始まる。プチ高級品にするには素材にこだわらなければいけない。選び抜いた本マグロの中トロで作ったツナなら美味いのではないか。どうせならフレーク状ではなく、かたまりのまま瓶詰めにできないか。オイルにもこだわって無添加の最高級品を使おう。

 だが、結果は大外れだった。脂の多いトロを使うと、ツナに仕上がった時に脂臭さが残るのだ。しかも材料費が跳ね上がる。かたまりにするためにマグロをカットするとどうしてもロスが多くなる。それでは販売価格がべらぼうに高くなってしまう。

 試行錯誤の末にたどり着いたのが、ビンチョウマグロを使い、フレーク状に加工すること。築地でツナにあったマグロを選び抜き、オイルにもこだわった。工場での大量生産ではなく、調理場での手続きだからこそできるこだわりだ。これでイケる。

 消費期限を設定するために、瓶に詰めて食品検査会社に持ち込んだ。贈答品にするのだから、常温で日持ちがしなければ困る。

 ところが、驚愕の検査結果が来た。「これは1日ももちません」。目の前が真っ暗になった。常連客にはすでに5月末で店を閉めることを伝えている。引くに引けない。

 だが、保存料は使いたくない。安全で安心なツナにしなければ、10倍もの金額を支払う客はいない。

 実は、瓶詰めに使う瓶でも問題が発生していた。最初に使おうとした瓶ではオイルが漏れるのだ。容器会社に聞いてみると、油を完全に封じ込めるというのは並大抵ではない、という。瓶の蓋をガッチリと締めれば漏れないが、それだと簡単には開けられない。

 結局、その道のプロに教えを請うしかないと割り切った。いくつもの会社を回って助けてもらい、最終的に油漏れは解決した。製造方法を見直すことで、賞味期限問題も解消した。常温保存で50日を消費期限にできた。

 小料理店をそのままツナ専門店の売店に変えた。引き戸を開けると、正面のカウンターの上にある刺身などを入れてきたショーケースの中に、「おつな」の瓶が並ぶ。味は10種類。「島唐辛子」「えごま大葉味噌」「ポルチーニ味」「ドライトマト&バジル」などなど、和洋のレシピが並ぶ。島唐辛子は酒の肴にもってこいだし、ドライトマトとバジルのツナは茹でたスパゲッティに軽くあえるだけでイタリアンのひと皿に早変わりする。

 店を訪れた客には、10種類のツナをお猪口に入れて味をみてもらうようにした。小料理屋の店先で利き酒ならぬ、利きツナだ。気に入った味を見つけて買って帰る。そんな気の利いた販売方法が取れるのも長年小料理屋を営んでいたからに他ならない。

 ところが、店を開けていられない事態に直面する。2018年の夏のことだ。婦人雑誌に贈答用の逸品として取り上げられたのである。一気に注文が舞い込んできた。商品作りが間に合わず、来店客をさばききれなくなったのだ。今は、週に数日だけ店を開いている。

 3瓶のセットで税金を入れて5000円に収まるという価格設定も贈答向けにぴったりだった。近隣の結婚式場で引き出物として人気商品になった。フル生産で月に3000個の瓶詰めを作っているが、料理屋だった店の調理場での手作りは限界にきている。

 

焼津で「おつな」ラボ

 

 静岡県焼津。国内第1号のツナ缶はこの町で生まれた。昭和初期、焼津水産学校(現在の静岡県立焼津水産高校)が作った。水産高校では今も、生徒らが実習でツナ缶を作り続けている。

 名実ともにツナの町である焼津に、「おつな」のラボを作ることにしたのだ。鮮魚店だった場所を借り、「おつな」の加工場を作る。「おつな」だけでなく他社の様々なツナ製品を集めて「専門店」を開くことも考えている。

 長年ツナ缶を作っていた焼津の加工場の多くが、様々なブランドで高級缶詰などひと工夫凝らしたツナ製品を製造している。昔ながらのなまり節や佃煮ではなく、より高い付加価値を付けた商品を開発し、全国に発信していきたい。そんな思いが溢れる焼津の町おこしに貢献することもできるのではないか。関根さんの夢は広がる。インバウンドの顧客が増える中で、焼津のまぐろは競争力の高いコンテンツになる。

 「5万円のよこツナ(横綱)をいつか出したいと思っています」と関根さん。横長の瓶に大トロの切り身をオイルと共に入れ、相撲の横綱が締める綱のような形にする。味もさることながら縁起の良い引き出物、贈り物として使われるのは間違いない、と確信している。

 焼津のラボでも基本は手作りだ。工場で大量に安く作るのが当たり前だと思われてきたものに、あえてこだわりの手作りで挑戦する。薄利多売ではなく、いかに付加価値を付けるか、それに見合った価格で売るには、どの客層にどんな仕掛けで売っていくのか。おつなの乙な挑戦は止まらない。

GDP2.1%増でもやっぱり高まる「消費増税延期の可能性」

5月23日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64797

 

成長率UPでも景気悪化

5月21日の夜、自民党の最大派閥である「清和政策研究会」(細田博之会長)の政治資金パーティーが開催された。安倍晋三首相を送り出している派閥ということもあり、メイン会場はすし詰め状態、画像でつないだ第二会場も満員という大盛況ぶりだった。

駆けつけて挨拶に立った安倍首相は、雇用の増加など経済運営の成果を強調した上で、こう語った。

「1−3月期のGDPは2.1%増という成長となりました」

前日の5月20日発表された1-3月の国内総生産GDP)の数字を挙げたのである。確かに、表面的に見れば、実質0.5%増、年率換算で2.1%増というのは「良い結果」に違いない。前の期である2018年10−12月期は年率換算で1.6%増だったので、それを上回る結果だったことになる。

だが、大方のエコノミストはこのGDPをみて、景気の悪化を指摘している。どういうことか。

0.5%増という高い伸びになったのは、「純輸出」が大きく改善したため。しかし中味を見ると、2.4%減の輸出に対して、輸入が4.6%減と大きく減ったことから、差し引きで貿易が好転しているように見えていることが主因なのだ。輸入は実際の数字である名目では8.0%も減っており、国内景気の急速な悪化を示しているのだ。

もちろんプラスになったものもある。公共投資が実質1.5%増、住宅投資が1.1%増といった具合だが、公共投資は国土強靭化対策などで公共事業を政府が積極的に積み増しているため。住宅投資は消費増税を控えた駆け込みが背景にあるが、駆け込みというには増加率は小さい。

ただ、注目されていた個人消費は0.1%のマイナスと再びマイナスに転落した。足元の消費はかなり弱いのだ。

5月21日に発表された日本百貨店協会の4月の全国百貨店売上高は、前年同月比マイナス1.1%だった。消費増税まであと半年となり、本来ならば駆け込み需要が膨らむタイミングなのだが、売り上げは膨らんでいない。

駆け込み需要が期待される「美術・宝飾・貴金属」の売上高の伸びも8.8%増にとどまっている。一見、大きく伸びているように見えるが、前回の消費増税した2014年4月の半年前である2013年10月の同部門の伸び率は19.7%増だった。

一気に解散風が

もちろん、安倍首相がGDPの中身の分析について説明されていないはずはないし、足元の消費が悪いことも重々承知しているはずだ。それでも「好調だ」という見方を示したのは、明らかに「意図」がある。

清和会のパーティーには、7月の参議院議員選挙の候補者が勢ぞろいした。選挙戦を戦う候補者からすれば、消費増税延期への期待が高い。仮に、首相がそうした候補者の前で「景気悪化」を口にすれば、そうした期待がさらに膨らむことは明らかだ。

パーティーにはテレビカメラも入っており、大半の記者の関心事は消費税の行方にある。下手なことを言えば、消費増税延期と掻き立てられかねない。そこで「2.1%増」をプラス評価して見せたのだろう。

消費増税を巡っては、4月に、安倍首相の側近である萩生田光一幹事長代行がインターネット番組で、景気動向次第では見送りがあり得るという趣旨の発言をし、その場合は、首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切る可能性に言及した。

「6月の日銀短観の数字をよく見て『この先危ないぞ』と見えてきたら、崖に向かい皆を連れて行くわけにいかない。違う展開はある」と語り、さらに「増税をやめるなら国民の信を問うことになる」と述べたのである。

永田町に解散風が一気に吹いたのは言うまでもない。

5月13日に内閣府が発表した3月の景気動向指数(CI)の速報値では、景気の「現状」を示す「一致指数」が99.6と、前月よりも0.9ポイントも低下した。指数は2015年を100としたもので、その変動から機械的に「基調判断」を導き出す。その「基調判断」が2013年1月以来、6年2カ月ぶりに「悪化」となったのである。

第2次安倍内閣が発足したのが2012年の年末だから、政権発足以来の「悪化」ということになる。アベノミクスの「息切れ」が鮮明になったわけだ。

そんな中で、菅義偉官房長官が5月17日の記者会見で、野党が内閣不信任決議案を提出した場合、衆議院を解散する「大義」になるかという記者の質問に対して、「それは当然なるんじゃないでしょうか」と述べたのだ。

「首相の専管事項」とされる解散について官房長官が言及するのは極めて異例で、一気に衆議院の解散・総選挙が永田町のムードになったのである。

禁じ手、消費税率引き上げ延期は?

安倍首相は2015年10月と2017年4月に、予定されていた消費税増税を先送りし、その後の国政選挙で勝利してきた。総選挙となれば、切り札として「消費増税延期」が再度使われることは明らかだろう。

では、消費増税はまたしても延期されるのか。

増税による反動減対策として、すでに政策発動するための予算を計上しており、実際にはもはや引き返せないというのが霞が関の見方だ。だが、足元の消費が弱い中で、増税を強行して景気が一気に腰折れすることになれば、政権への批判が一気に噴出することになりかねない。

萩生田氏が言うように7月上旬に発表される「日銀短観」までは、増税見送りの可能性を慎重に探っていくことになるのだろう。

景気「悪化」なのに「消費増税」は本当に必要か

新潮社フォーサイトに5月17日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/45348

5月20日のHUFFPOSTにも掲載されました。

景気の曲がり角にもかかわらず、安倍内閣は予定通り2019年10月から消費税率を8%から10%に引き上げるのだろうか。

ついに「景気悪化」をはっきりと示す調査結果が現われた。内閣府が5月13日に発表した、3月の景気動向指数(CI)の速報値である。

2015年を100として景気の現状を示す「一致指数」が99.6と、前月より0.9ポイントも下がり、指数の推移から機械的に決まる基調判断が「悪化」となったのである。基調判断が「悪化」となったのは、2013年1月以来6年2カ月ぶりのことだ。

アベノミクスの終焉」が顕著に

6年2カ月前の2013年1月というのは、第2次安倍晋三内閣が前年12月末に発足した直後。その頃から安倍首相は大胆な金融緩和を含む「アベノミクス」を打ち出し、為替の円安が進んだことで企業収益が大きく改善した。

景気動向指数は2016年10月から2018年8月まで23カ月連続で「改善」が続いた後、2018年9月から12月は「足踏み」となり、2019年1月と2月は「下方への局面変化」となっていた。景気動向指数でみる限り、「アベノミクスの終焉」が顕著になったと言ってもよいだろう。

5月20日には1-3月期の国内総生産GDP)の速報値が発表されるが、マイナス成長に転落するのか、プラスを維持するのかが注目される。企業収益を中心に景気は底堅いという見方がある一方で、中国向け機械輸出が激減しているなど「輸出」に陰りがみえていることや、個人消費も力強さが欠けていることから、エコノミストの間でも判断が分かれている。

5月中に出される政府の月例経済報告は、これまで景気の現状を「回復」としてきただけに、その表現がどう修正されるかも焦点になる。

実は、アベノミクスの成果として注目されてきた「6年2カ月前」から好調を続けている別の統計がある。総務省が毎月発表している「労働力調査」だ。4月26日にひと足早く3月分が公表されたが、こちらは、就業者数、雇用者数共に「75カ月連続の増加」となった。75カ月連続というのは2013年1月以降、対前年同月比でプラスが続いていることを示している。

職に就いている人の総数である「就業者数」は6687万人。1997年6月の6679万人を昨年5月に更新、10月には6725万人を記録したあと、高水準を保っている。企業に雇われている人の数である「雇用者数」も2018年10月に5996万人と過去最多を更新、3月も5948万人と高水準が続いている。アベノミクスの効果で500万人の雇用を生んだと安倍首相らが強調するのは、この数字である。

だが、この雇用の伸びもいつまで続くか分からない。2017年4月から同年12月までは「正規職員・従業員」の伸び率が、「非正規職員・従業員」を上回っていたが、このところ再び「非正規」の伸びが大きくなり、2018年9月以降7カ月連続で非正規の伸びが高い月が続いている。

3月の数値でいえば、正規の伸びが0.6%増なのに対して、非正規は3.1%増といった具合だ。役員を除いた雇用者に占める非正規の割合は38.8%と過去最高を記録した。安倍首相は「同一労働同一賃金」の導入などによって、非正規を無くすと訴え、「働き方改革」に旗を振って来たが、数字で見る限り、逆の結果になっているわけだ。

消費は盛り上がっているのか

正規雇用が増えているのも仕方ない面がある。というのも就業者や雇用者が増えたと言っても、その多くが「高齢者」や「女性」だからである。65歳以上の「高齢者」の就業者数は2018年9月に886万人の最多を記録、3月も884万人だった。

一方で、15歳から64歳以下の就業者は1997年6月の6171万人をピークに減少し、3月では5803万人になっている。もっとも、同年代の男性就業者は3187万人で、ピークだった1997年6月の3632万人から12.3%、445万人も減った。この間、働く女性が大きく増え、就業率も昨年11月に70.5%の最高を記録したが、減少数を穴埋めできていないのだ。

高齢者や女性の非正規雇用者の割合が大きく高まっていることで、もう1つ大きな問題がある。非正規の場合、一般に所得が低いため、就業者の増加がなかなか消費の増加に結びつかないのだ。

総務省の3月の家計調査では、勤労世帯の消費支出(2人以上の世帯)が1世帯当たり30万9274円と、前年同月に比べて名目で2.7%、実質で2.1%増加したという。一方で、実収入も名目で2.0%、実質で1.4%増えたとしている。

もっとも、消費で増えているのは、相変わらず「通信費」や「交通費」で、「被服」や「保健医療」は減少している。調査結果を見る限り、本当に消費が盛り上がっているのかは、なかなか判断が付かない。

加えて、「米中貿易戦争」の余波で、比較的好調だった企業収益に急ブレーキがかかっている。半導体製造装置などの中国向け輸出が激減。中国経済が大きく変調していることを如実に示している。こうした輸出企業の業績悪化もあって決算発表がピークを迎えた2019年3月期の企業収益は、3期ぶりに減益になったもようだ。日本経済新聞の途中集計によると、連結純利益は2%減となっている。焦点の2020年3月期がどうなるか、さらに減益が続くようだと、ボーナスなどへの影響は必至で、可処分所得が増えず、消費がさらに減退する可能性が出て来る。

税収は増えるのか

そんな景気の曲がり角にもかかわらず、安倍内閣は予定通り2019年10月から消費税率を8%から10%に引き上げるのだろうか。

前回の消費増税(5%から8%への引き上げ)時には、国の消費税収は2013年度の10.8兆円から2014年度は16兆円へと5.2兆円増えたが、税率から単純に逆算した消費総額は16兆円も減少した。2015年度には増税前の水準には戻ったものの、それ以降、消費は伸び悩んでいる。

今回、このまま税率を引き上げれば、10兆円前後の消費減退が起きる可能性はある。その分、増税後の景気対策に予算を投じているので、前回のような消費減退は起こらないというのが政府の期待だろう。

だが、2013年はアベノミクスの効果もあって、企業収益が大幅に改善、株価が上昇するなど、先行きへの期待もあった。足元の消費も好調で、増税半年前から増税直前までに駆け込み需要が盛り上がった。

増税まで半年になる中で、今ひとつ駆け込み需要が盛り上がらないのはなぜか。政府の対策で慌てて購入する必要がないと思っているのか、足下の景気が悪く消費に回るおカネがそもそも少なくなっているのか。はたまた、安倍首相のことだから、またしても増税を延期すると「期待」している国民が多いのか。

もちろん、高齢化で増え続ける国の歳出を賄うことは重要だ。2019年3月末で年度末としては初めて「国の借金(国債及び借入金並びに政府保証債務残高)」は1100兆円を突破した。財政再建が待ったなしであるのは間違いない。

だが、税率を引き上げれば税収が増えるのかというとそうではない。

リーマンショック直後の2009年に国の税収は38.7兆円というバブル後最低を記録した。それが2018年度には59.1兆円になる見込みだ。過去の税収のピークであるバブル最盛期の1990年の60.1兆円を超えることはできなかったが、所得税法人税の伸びで税収は大きく増えた。

財務省は、2019年度は消費増税をテコに、62.5兆円というバブル期超えの税収を見込む。果たして思惑通りに税収が増えるのか。税率を上げて消費が大きく減退し、税収も思ったほど増えなくなるのか。景気の先行きに暗雲が漂う中での消費増税に、懸念が深まっている。

 

「薬の副作用はコントロールできる」私はなぜ起業したのか

 4月29日のNewsPicks「ミリオンズ ~100万人に1人の人材への挑戦~」に掲載された記事です。オリジナルページ→

https://newspicks.com/news/3834767/body/

 
「#03 古川綾(マディア代表取締役)」
基礎は大塚製薬で学んだ
「今の基礎はすべて最初に就職した大塚製薬で学びました」――。薬の副作用情報のプラットフォーム作りなどを手掛けるコンサルティング会社「マディア」の代表取締役、古川綾さんはそう振り返る。
大塚製薬に16年半勤めた後、外資系のコンサルティングファームPwCに転職、その後2010年にマディアを立ち上げた。まさにホップ・ステップ・ジャンプのキャリアだが、そのすべての基礎は、最初の職場で学んだというのである。
 
・・・この先は、NewsPicksの有料ページで購読ください。・・・

ドンも機関投資家には勝てない時代に?

5月15日付のCFOフォーラム「COMPASS」に掲載された拙稿です。オリジナルページ→

http://forum.cfo.jp/?p=11961

 住宅設備大手のLIXILリクシル)グループは、4月18日、創業家出身で会長兼最高経営責任者(CEO)の潮田洋一郎氏が取締役を退任すると発表した。リクシルでは、昨年(2018年)秋に突然、瀬戸欣哉社長兼CEOが退任することが発表され、それまで取締役会議長だった潮田氏が11月から代表執行役会長とCEOを兼務していた。

 ところが、発表直後から指名委員会では、社内取締役として唯一委員を務めていた潮田氏が主導して、事実上、瀬戸氏を解任したことが表面化。瀬戸氏が辞意を表明したという説明が潮田氏からなされていたとされ、社外の弁護士らによる調査にまで発展していた。


・・・続きをご覧になりたい方は、読者登録が必要です。是非、登録ください。

「言う事を聞け!」ふるさと納税で4市町だけを除外した総務省の強権

5月16日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64660

泉佐野市の徹底抗戦

国民に人気を博している「ふるさと納税」だが、その対象から4つの自治体だけを除外するという強硬措置に総務省が打って出た。

5月14日の総務省の発表によると、6月からのふるさと納税の制度見直しに伴い、大阪府泉佐野市と佐賀県みやき町静岡県小山町和歌山県高野町の4市町を対象から外すことを決めたという。6月1日以降、これらの市町に寄付しても、ふるさと納税制度上の税優遇は受けられなくなる。

総務省が4市町をいわば「村八分」にしたのは、「返礼品を寄付額の3割以下の地場産品に限る」とした総務省の「指導」に従わなかったため。言う事を聞かなかった自治体への「懲罰」の色彩が濃い。

泉佐野市は「さのちょく」と名付けたふるさと納税特設サイトを設置、通販サイトを思わせる返礼品の品ぞろえや、返礼品が寄付額の3割を超す高い「還元率」が人気を集めてきた。2016年度に寄付受け入れ額が34億8400万円とベスト8に登場、翌2017年度には135億3300万円を集めてトップに躍り出た。2位だった宮崎県都農町の79億1500万円に大きな差を付け、ダントツの人気を誇った。

泉佐野市は関西国際空港の対岸にあり、タオル産業などがあるものの、人気を集めるような特産品に乏しい。他地域の製品や輸入品でも、地元の業者が取り扱っていることを理由に返礼品とし、一時は、「何でもそろう納税サイト」の色彩を強めていた。

こうした「過剰な返礼品競争」に待ったをかけたのが総務省。返礼品の調達価格を30%以下に抑えることや、地場産品に限ることを繰り返し通達。これに従わない場合には、制度適用から除外すると脅しをかけていた。これに泉佐野市は真っ向から反発してきたわけだ。

泉佐野市のサイトには千代松大耕市長のあいさつ文が掲載されている。総務省の制度見直しに対して新キャンペーンを展開するあいさつだが、それはまさに宣戦布告だ。

「新制度を詳しく見ていくと、総務省は国民には見えづらい形で、返礼品を実質的に排除する意思、そしてふるさと納税を大幅に縮小させる意図で新制度を設計しているとしか思えないルールとなっています」

そのうえで、制度が変わるまでの5月31日まで限定として、返礼品に加えてアマゾンギフト券を配る「300億円限定キャンペーン」を展開している。中には返礼率50%に加えて10%のアマゾンギフト券を上乗せし返礼率が実質60%になるものもあった。

総務省に逆らい続けたわけだ。

反乱の芽を潰す

除外決定を受けて泉佐野市は以下のようなコメントを報道関係者向けに出した。

「本日、総務省の報道発表において、本市がふるさと納税の6月からの新制度に参加できないとの発表がありました。本市は、新制度に適合した内容で参加申請を行っていたため、非常に驚いています。なぜ本市が参加できないのか、その理由・根拠を総務省に確認し、総務省のご判断が適切なのかどうか、本市としてしっかりと考えたいと思います」

驚いていますとしているが、実際は除外を覚悟していた。

というのも、除外された4市町には、すでに総務省による「ペナルティー」が課されていたからだ。

石田真敏総務相が3月22日の閣議後記者会見で、今回除外された泉佐野市など4市町に対する2018年度の特別交付税の2回目の配分額を事実上ゼロにしたことを明らかにした。

ふるさと納税で多額の寄付金を集めたことで、財源に余裕があるとみなし、交付税を受け取らない「不交付団体」並みの扱いにしたのだ。

「財源配分の均衡を図る観点で行ったもので、過度な返礼品を行う自治体へのペナルティーという趣旨ではない」と石田総務相は述べていたが、言う事を聞かない自治体への嫌がらせであることは明らかだった。新制度からの4自治体の除外は、総務官僚の明らかな「意趣返し」とみていいだろう。

そんな「懲罰」まで食らっていたからこそ、制度改正で除外されることを予測した泉佐野市は、総務省にケンカを売るようなキャンペーンに乗り出したのだ。当然、このキャンペーンは人気を博しており、相当な金額のふるさと納税を駆け込みで集めることになりそうだ。

今回の総務省の措置に対して、泉佐野市がどんな対抗策に打って出るのかはまだ分からない。だが、総務省は第二の泉佐野市を生まないための手を、今回打っている。

多額のふるさと納税を集めている43の市町村に対して、新制度の適用を6月から9月までの4カ月としたのだ。言う事を聞かねば9月をもって除外するぞ、と言わんばかりの「恫喝」である。

「地場産品」かどうか疑わしい物を返礼品にしている自治体や、旅行券などの金券を返している自治体に、「イエローカード」を出しているわけだ。今後は総務官僚が返礼品をひとつひとつチェックして、これは地場産品かどうかチェックし、改善を求めていくという。

多額の寄付を集めている自治体は、さまざまな工夫を凝らしているところが多い。どうやってふるさと納税による寄付を集め、それをどう使うかは、まさに自治体が考えるべきことだろう。

納税者は住民税のうちの2割余りを、自らの意思で他の自治体にほとんど自己負担なしで寄付できるのがこの制度の面白いところだ。応援したい自治体に納税者の意思で税金を再分配できるからだ。

国家官僚のための地方自治

実は、このふるさと納税制度については、総務官僚は当初から導入に反対だった。というのも、国が集めた税金を地方交付税交付金として自治体に配分する権限を総務省が握っているからだ。その分配権は総務官僚の力の源泉になっており、自治体に部長などの幹部として出向したり天下ることを可能にしている。

ふるさと納税が拡大していけば、総務省による交付税交付金の分配権に穴があくことになりかねないわけだ。高額の返礼品で寄付の獲得競争をしていることを役所に常駐する記者クラブの記者を使って過度にアピールするなど、ふるさと納税批判を水面下で煽ってきた。

ふるさと納税は増えたと言っても2017年度で3653億円に過ぎない。地方税の税収総額は39兆円を超える。総務省が権限を握る地方交付税交付金も15兆3500億円にのぼるのだ。

ふるさと納税制度ができて、地方自治体の姿勢が変わった点がある。歳入を増やすために、自ら努力するようになったのだ。

これまでは国から来る交付金補助金をどれだけ多くもらうかが自治体にとっての「増収策」だったが、創意工夫で税収を劇的に増やすことがこの仕組みによって可能になったのだ。住民からの税収よりも、ふるさと納税による寄付収入の方が上回っている自治体もいくつも出始めている。

交付金分配権によって自治体の生殺与奪の力を握って来た総務省からすれば、たとえ少額でも、蟻の一穴となって、自治体が自立するようなことになっては困るわけだ。

泉佐野市のような派手なケースが出てくれたおかげで、総務省は言う事を聞かない自治体を「村八分」にする力を得た。泉佐野市の対応が正しいかどうかではなく、地方自治にも、民主主義にも悖るような権限を総務官僚が握っていることを問題視すべきではないか。地方自治とは何か、国民もメディアも考えるきっかけにすべきだろう。