「ガバナンス・コード制定で日本の経営者が変わる!」 門多丈・実践コーポレートガバナンス研究会代表理事インタビュー

世界が注目する日本企業のガバナンス改革。いったいどんな「ベストプラクティス」を示せるのでしょう。あまり低いハードルを示したら、世界から笑いものになるのは必定です。三菱商事OBで実践コーポレートガバナンス研究会を主宰する門多さんにお聞きしました。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40398


安倍晋三内閣が6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」に盛り込まれた「コーポレートガバナンス・コード」の策定作業が始まった。金融庁東京証券取引所が共同で事務局を務める有識者会議で、具体的なコードのあり方が議論されている。

日本企業の経営体制のあるべき姿、いわゆる「ベスト・プラクティス」を示すことで、企業の収益力を高めさせようというのが政権の狙いだけに、どんなコードが出来上がるのかに注目が集まっている。この問題に詳しい門多丈・実践コーポレートガバナンス研究会代表理事に聞いた。

従来の仕組みに慣れた経営者にはたいへんな試練となる
 問 成長戦略にコーポレートガバナンス・コードの制定が盛り込まれました。

 門多 成長戦略で企業のガバナンス強化がうたわれ、コードの制定が打ち出されたのは画期的な事だ。

昨年の成長戦略には、機関投資家の行動指針である「日本版スチュワードシップ・コード」の制定が盛り込まれたが、すでに実現し機関投資家の多くも受け入れ表明している。

スチュワードシップ・コードコーポレートガバナンス・コードは裏表の関係にある車の両輪のようなもので、日本企業の経営のあり方に大きな影響を与える。

この制定を決めたことは海外の機関投資家からも大いに評価されている。

 問 ガバナンス・コードの制定をどう評価しますか。

 門多 今回、制定されるガバナンス・コードの意義は、取締役会自身が自社のガバナンス体制について自分たちで考え、自社に合った制度を導入する点にある。いわゆるコンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か説明か)のルールが本格的に導入され、コードに従うか、さもなくば、従わない理由を説明することが求められる。

つまり、できないことは、はっきり「できない」と言う事が取締役会に求められるのだ。これまでは、会社法などのルールで決まったことは守るのが当然だったが、ガバナンスコードはまったく違う。

そうしたルールの仕組みに慣れた日本の経営者にとって、たいへんな試練になるのではないか。これまでの日本の経営が大きく変わるきっかけになるかもしれない。

報酬が経営者のモチベーションを高める
 問 ガバナンス・コードの具体的な項目として、何が必要だと思いますか。

 門多 英国のガバナンス・コードでは、リーダーシップ、取締役会の有効性、説明責任、報酬、株主との関係という項目がある。こうした項目についてベストプラクティスを示し、取締役会が自ら議論して、あるべき体制を決めることが大事だろう。

具体的には、ここ数年、日本でも社外取締役の導入促進が言われているが、欧米では社外取締役過半数を占めるようになっている。コードでは、独立社外取締役を複数置くというぐらいの規定を設けることが不可欠だろう。

そうした厳しいコードを示したうえで、それぞれの会社の取締役会が、取締役と執行役の機能分離についてきちんと議論し、独立社外取締役の役割や機能がどうあるべきかをきちんと考えることが重要だ。

 問 経団連など経済界は社外取締役の義務付けに反対してきました。

 門多 経団連社外取締役を一律に義務付けることに反対すると言ってきた。企業の事情が違うのだから、企業自身が考えて結論を出すべきだ、というわけだ。今回決定するガバナンス・コードは一律に義務付けるのではなく、遵守か説明かを求めているのだから、経団連の考え方に合致している。さすがに経団連は反対できないだろう。

 問 ほかに重要だと考える具体的な項目はありますか。

 門多 指名委員会と報酬委員会の設置だろう。日本でも指名委員会、報酬委員会、監査委員会の3つを置く委員会等設置会社が会社法で認められているが、なかなか採用する企業が増えないのが現実だ。だが、指名委員会は、内輪の論理だけで社長を選ぶのではなく、きちんと説明責任を果たすうえでも大きな意味を持つ。コードで、こうした委員会の設置をベスト・プラクティスとすれば、置かない理由を経営者が説明しなければならなくなる。

 問 経営者の報酬決定にも説明責任が必要だということですね。

 門多 ええ。昔に比べて大企業の一部では取締役の報酬が高くなったが、欧米に比べればまだまだ。経営者が転職するような人材マーケットがないため、低く抑えられている。報酬が経営者のモチベーションを高めることにつながっていない。企業の成長や利益に見合った報酬を支払うことが重要だ。能力のある経営者には高い報酬を支払うというのは世界では当たり前のことだ。

 問 報酬委員会で変わりますか。

 門多 日本企業の場合、経営者報酬に対する基本方針、つまりロジックが見えない。香港にある金融機関などは世界中から経営人材を集めているが、中国人やインド人、オーストラリア人などがいるにもかかわらず、日本人はいない。

日本にも経営人材のマーケットができれば、グローバルに通用する経営者が当然出て来ると思う。そのためには、日本企業が論理的に報酬を決め、世界から人材を取ってくるようにならなければならない。経営者の移動が始まると、誰がどんな経営判断をしたかが重要になる。

 問 確かに、日本企業の場合、経営判断が見えにくいですね。

 門多 事業報告のあり方が中途半端だ。これを株主に対するコミントメント、いわば公約の場にすることだろう。経営者がどんな方針でリスクマネジメントに取り組んだか、将来につながる事業投資を決断したか。それが見える形を考えるべきだ。例えば、指名委員会で社長候補者に今後の事業戦略をプレゼンさせるなど、経営方針を指名委員会が判断するという形も必要だ。

社外取締役の重要性
 問 独立社外取締役の役割は何でしょう。

 門多 M&A(合併買収)などの際に、きちんと株主や、社員などのステークホルダーの利益と合致しているかを判断するのは社外取締役に期待される機能だろう。事業を推進したい社内出身取締役では判断が甘くなる。もう1つが社長の指名と取締役の報酬決定だ。そして、会計不正や粉飾決算に目を光らせるのも社外取締役に期待される。

 問 英国のガバナンスには取締役会の有効性という項目があると仰いましたが、取締役自身の適確性もあるのではないでしょうか。

 門多 これは重要です。会社として取締役の研修プログラムを持つなど教育がポイントだ。欧米には取締役の教育方針を取引所に提出させているところもある。さらに、取締役会の有効性を第三者に評価させることも重要だ。

海外ではヘッドハンターの企業などが行っているケースがあるようだが、例えば、取締役会にM&Aの専門知識を持った人材がいない、といった指摘が出されれば、そうした人材を会社は獲得しなければならないわけだ。

 問 実践コーポレートガバナンス研究会はどんなメンバーが加わっているのでしょうか。

 門多 現在正規のメンバーは70人ほどだが、毎月行っている勉強会に来たことのある人は400人近くいる。企業の中堅幹部だった人が多く、リタイアした後、他社の社外取締役監査役を務めている人も多い。研究会としては社外取締役のあっせんや、取締役の研修受託などを拡大していきたいと考えている。

ラスベガスMGMリゾーツCEOに聞く 「日本型『カジノリゾート』に最大100億ドルの投資を考えています」

カジノなどのギャンブルを米国では「ゲーミング」と呼んでいますが、その市場規模では日本はすでに世界3位だそうです。競輪や競馬にパチンコを加えたもので、カジノのメッカであるマカオ、ラスベガスに次ぐ規模といいます。その日本の市場を世界のカジノ運営企業が虎視眈々と狙っているのは当然といえば当然でしょう。カジノ法案が通過すれば、さらに参入競争は激しさを増しそうです。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40246


今年秋の臨時国会では、いわゆる「カジノ法案」が本格的に審議され、成立する可能性が高まっている。

大型ホテルやショッピング・モール、劇場などのエンターテイメント施設、国際会議場などを併設する「統合型リゾート(IR=Integrated Resort )」の日本での建設を後押しするための法律で、IRの中核になるカジノの解禁が柱になる。

IR事業には日本企業ばかりでなく、海外企業も参入に意欲を示している。そんな1社である米IR大手のMGMリゾーツ・インターナショナル(本社、米ラスベガス)で会長兼CEO(最高経営責任者)を務めるジェームス・ムーレン氏に日本進出に向けた意欲を聞いた。


ラスベガスには年間4000万人
 問 日本でのIR事業参入を検討しているそうですね。

 ジェームス・ムーレン(以下J.M) 日本は世界の中でもIR事業の潜在的な可能性がある有数の場所だ。法案の行方や具体的な内容を見ながら、事業計画の初期段階から参入していきたい。ラスベガスには年間4000万人の観光客がやってくるが、そのうち20%は海外からの人たちで、今、こうした国際観光客の誘致拡大に力を入れている。日本政府も2020年までに訪日外国人2000万人、2030年に3000万人という目標を掲げており、IRがこれを実現する原動力になると思う。

 問 どんな形のリゾートを日本で考えているのか。

 J.M MGMリゾーツはラスベガスで最大のIR企業だが、マカオなど海外での事業展開に乗り出しており、非常に多様性に富んだ企業カルチャーを持つ。従業員の53%が女性で、人種などのマイノリティーの雇用にも力を入れている。環境にやさしいエコ重視の事業展開にも力を入れている。こうした経験を生かし、環境にやさしい「スマートシティ」型のリゾート開発などができるだろう。

日本のパートナーとの議論を始めている

 J.M IRはラスベガスのほか、マカオシンガポール、オーストラリアなどでの開発が行われているが、日本のIRがそれと同じである必要はまったくない。

日本の文化や特色を生かした特有のリゾートが多くの外国人観光客を引き付けるだろう。私は日本では統合型リゾートではなく日本型リゾートと呼べるものを作りたい。

私自身、日本を頻繁に訪れ、様々な地域の様々なリゾートを見ている。

先日、京都の「星のや」へ行ったが、とても素晴らしかった。また、瀬戸内海の直島にあるベネッセハウスも、現代美術の美術館など魅力的だ。日本ならではのリゾートはいろいろ考えられる。

IRはカジノのほか、ホテルやレストラン、ショッピング、ショーやエンターテイメント、ゴルフなど様々な“感動する”事業を一体化して展開する点に特長がある。そのノウハウを持っているのがМGMリゾーツの強みだ。

 問 場所はどこになるのでしょう。

 J.M 具体的な場所は日本政府が決めることだ。今、言われている東京・お台場や大阪・夢洲(ゆめしま)、沖縄、横浜など、それぞれに気候風土、食事などに特長があり、魅力がある。それぞれの地域に合ったIRを検討したい。いずれにせよ、日本の実情や慣行などを熟知した日本のパートナーが不可欠だと思っている。すでに複数の企業との間で、協力できないか議論を始めている。

 問 どれくらいの投資規模になるのでしょうか。

 J.M IRを作るとなれば数十億ドル(数千億円)規模になる。MGMリゾーツは強固な財務基盤を持っており、最低でも50億ドル(約5000億円)から100億ドル(1兆円)規模の投資になるだろう。

ラスベガスでは「非カジノ収入」が7割
 問 日本ではカジノ解禁に反対する声もあります。IRというとカジノにばかり目が行きます。

 J.M ラスベガスのIRでも1980年ごろまでは収入の6割がカジノ関連だったが、現在は3割に低下、7割が非カジノ事業の収入になっている。

MGMリゾーツはラスベガスで合計300万平方メートルにおよぶ見本市・国際会議施設を保有している。いわゆるMICEビジネスが大きく拡大している。

日本は国際的なMICEの拠点として大きな可能性があるが、まだまだ施設も乏しく、国際会議などの誘致には不十分だ。こうした非カジノ事業のウェートが大きいというのが現在のIRの特長だ。

大阪夢洲でのIRの概念図を描いてもらうために建築家と話していて、IR全体の床面積のうちカジノ部分は1〜2%に過ぎないという説明をしたら、非常に驚いていた。IRというと日本ではカジノにばかり焦点が当たるが、カジノはひとつの要素に過ぎない。

 問 そうは言ってもカジノ抜きのIRというのは成り立たないのですか。

 J.M その通りだ。国際観光客を呼び込もうと考えるのならばカジノは不可欠だ。カジノを目当てに来る観光客ばかりではない。国際会議などでは同伴者のエクスカーションなどの多様性が求められており、カジノもそのひとつだ。ただ、カジノはIRのひとつの要素として考えているのであり、われわれは、日本でカジノが解禁されたからと言って、パチンコ・ホールやスロットマシン・パーラーをやるつもりはない。

カジノについては法律や規制が今後どうなっていくかに注目している。法律や税制などがきちんと整備され、国としてのマネーロンダリング防止体制などが整わなければMGMリゾーツとしては進出できない。今後の法案審議を見守っていきたい。

ウォン・チョンハク韓国KIPFフェローが語る 「次のチャンスは南北統一、 韓国経済のグローバル化政策は止まらない」

 グローバル化に反対する人たちがしばしば例に挙げるのが韓国です。グローバル化政策によって格差が拡大し、社会が壊れたというのです。では、韓国の政策専門家はどう考えているのでしょうか。日本の一橋大学で博士号を取った知日派でもあるウォン・チョンハク(元鍾鶴)韓国財政研究院フェローにお聞きしました。
オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40175


安倍晋三首相は、日本を世界で最もビジネスがしやすい場所に変えると宣言し、アベノミクスによってグローバル化を進める方針を示している。

かつて経済危機に直面した韓国は、日本よりも早くグローバル化にカジを切り、経済を建て直したが、一方で、様々な歪みが生じているとも言われる。経済のグローバル化を中心に韓国経済の方向性を、韓国KIPF(韓国財政研究院)のフェローを務めるウォン・チョンハク(元鍾鶴)氏に聞いた。

17年前、韓国は別の国に変わった
 問 日本では安倍晋三内閣がアベノミクスを掲げて、日本のグローバル化を進めようとしています。韓国は1997年の金融危機以降、グローバル化に大きくカジを切りましたが、その功罪が様々に指摘されています。

 ウォン 1992年にキム・ヨンサム(金泳三)氏が初めての文民政権として大統領になり、経済成長に力を注ぎました。OECD経済協力開発機構)の加盟を目指して頑張り、96年には加盟を果たしますが、その無理が大きな歪みとなって表面化し、97年のIMF金融危機となりました。

この危機を境に韓国はまったく別の国に変わったと思います。それまでの慣行や観念といったものがすべてひっくり返ったのです。

日本ほどではありませんが、それまでは会社といえば家族のようなもので、個人の人生を支えてくれる存在だと漠然と信じていたのですが、多くの会社がバタバタと倒産し、それまでの価値観が崩壊しました。当時、社会人だった人なら、知人の誰かが自殺したという経験を持っています。

 問 国際通貨基金IMF)からの支援を受け、グローバル化に一気に舵を切ったのですね。

 ウォン 危機直後に大統領に選ばれたキム・デジュン(金大中)氏によって、グローバル化が進められ、成果主義や効率性を重視する競争社会を目指したわけです。グローバル化というよりもアメリカ化といった方がよいくらい、思い切ってそれまでの価値観を転換したわけです。

例えば、97年までは企業の都合で従業員を解雇するようなことは社会が受け入れなかったのですが、危機以降は、多くの国民が仕方がない事として受け入れるようになりました。競争をしながら力を付けていかないと韓国は復活できない、と多くの人が考えるようになったのです。

英語も多くの人が勉強し、話すようになりました。経済がグローバル化していく中で、否応なしに英語を使わざるを得なくなると考えたのです。

97年までは表音文字のハングルでは意味が分かりにくい場合、漢字で補うことが多かったのですが、97年を境に英語で補うように変わった。

方針を転換すると決めると、一斉に皆が変わるような小回りがきくところが韓国社会の特長でもあります。一気呵成にグローバル化が進みました。

グローバル化を進めたことで、サムソンとヒュンダイという2つのグローバル企業が大きく成長しました。いまや韓国経済の両輪となっています。

サムソンの入社試験を年間22万人が受験
 問 韓国経済は復活したわけですが、一方で、サムソンや現代の社員など豊かな人たちと、それ以外の格差が非常に大きくなりました。

 ウォン 私は98年以降2010年ぐらいまでは、韓国はよくやってきたと思います。しかし、15年にわたってグローバル化政策をとってきて、その制度疲労が出始めているのも事実だと思う。

今の韓国は「負け組」にとってはとても厳しい社会になっています。自殺率は世界一ですし、出生率も低い、自営業の割合も30%以上と先進国の中で極端に高い。そうした「負け組」をどう救っていくか。福祉の充実などが大きな課題であることは間違いありません。

 問 格差が開いたことで、グローバル化政策への批判が強まり、グローバル化の流れを逆流させようといった意見は出て来ないのでしょうか。

 ウォン グローバル化に対する批判は当然あります。人間味がないとか、こんな社会で良いのか、といった声です。しかし、だからと言って97年より前の社会に戻るべきだと考える人は少ないと思います。経済のグローバル化は韓国だけの問題ではなく世界で起きています。

グローバル化に背を向ければ、韓国経済全体が「負け組」になってしまいます。ですから、グローバル化を進めた結果生じる歪み、つまり個々人の「負け組」に対してどういう政策を取るかが重要だと思うのです。韓国が反グローバリズムに方向転換する可能性はありません。

 問 若い人たちの考え方も変わったのですか。

 ウォン 自分自身を磨いて、競争に勝てるスキルを身に着けなければいけないと考える人が増えました。韓国の大学生はいかに、就職に有利な資格を取り、経験を積むかに必死です。大学をすんなり4年で卒業するのではなく、海外の英語学校に行って、英語力を身に着けたりしています。

サムソンの入社試験を年間22万人が受験しているそうで、ほとんどの大学生が受けていることになりますが、もちろん大半はサムソンに入れない。仕事があればアジアの他の国で就職してもよいと考える人も増えています。サムソンやヒュンダイが入社試験の方法を変えるとなると、ちょっとした社会問題になります。

韓国版アベノミクス内需拡大路線
 問 パク・クネ(朴 槿惠)大統領の経済政策は何を目指しているのでしょうか。グローバル化政策をどうしようと考えているか。海外から見ているとなかなか分かりません。

 ウォン 韓国人にも良く分かりません。韓国は大統領制なので、大統領が変わると国のあり方や目指す方向が大きく変わります。前任のイ・ミョンバク(李明博)大統領は企業経営者出身だったので、儲けてなんぼとでも言いましょうか、グローバル化を進めて稼ぐ体制をどう築くかと言う姿勢で徹底していました。サムソンとヒュンダイが韓国経済を支える2本柱だということが鮮明でした。

パク政権発足後1年半はさまよっているような状態でしたが、7月に任命されたチェ・ギョンファン(崔ギョン煥)副総理兼企画財政部長官は、韓国版アベノミクスによって内需拡大に舵を切る姿勢を鮮明にしています。野党からは成長よりも分配を重視せよという声が強い。もちろん分配政策は無視できませんが、チェ長官は経済成長ありきの政策を進めると思います。

 問 産業構造の改革に手を付けるという意味ですか。

 ウォン 金利を引き下げることで住宅への投資に再び火を付けようとしています。韓国では家計が多額の住宅ローンを抱えており、金利が上昇した場合にそれに耐えられなくなるリスクがあります。家計負債問題は韓国経済の時限爆弾とも言われてきましたが、今後、住宅市場がどうなっていくか、注目したいと思います。

もちろん産業構造の転換も課題です。自動車と半導体に依存している体質が持続可能とは思えません。モノづくりは中国や他の東南アジア諸国が勃興しており、そろそろ限界です。今後は、サービス産業などの生産性を高め、どうやって内需中心で稼げる経済に転換していくかが不可欠です。

中・ロ・日の「ハブ」を目指す
 問 グローバル化政策は続くということですか。

 ウォン グローバル化の後戻りなどあり得ません。もっとも、経済を盛り上げる方法として、グローバル化というカードはすでに切ってしまっています。次のカードは何か。私は半島の統一だと思っています。南北統一が韓国経済を飛躍させるチャンスになると見ています。

韓国は周囲を中国、ロシア、日本という大国に囲まれています。力を蓄えなければ埋没してしまいます。大国の間で韓国経済が存在感を示すには、東アジア地域の「ハブ」になることだと思います。サービスや物流の拠点として、中・ロ・日の間をつなぐ。そのためにも南北統一が必要でしょう。

もちろん、現状で南北の格差は大きすぎるため、一気に統合すると韓国の財政への負担が大きすぎる。時間をかけて統合していく方法を考えておく必要があります。

「18歳から選挙権を!」 安倍首相夫人と「ACT18」共同発起人を務める高校生の思い

日本では選挙権が得られるのは20歳ですが、実は世界的にみて20歳というのはごく少数です。ほとんどの国が18歳以下で、欧州などでは16歳に引き下げる動きも広がっています。そんな中、日本でも選挙権年齢を18歳に引き下げようという動きが出てきました。中でも20歳以下の高校生、大学生からも引き下げを求める声が出始めています。ACT18という選挙権年齢引き下げ運動に携わる高校生にインタビューしました。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39918


今年3月末、年度末としては始めて国債などの「国の借金」が1000兆円の大台に乗せた。次世代へのツケ回しである。

「私たちは生まれながらにして借金という義務を負っている。なのになぜ選挙権という権利はないのでしょうか」「自分たちの未来は自分たちで作りたい」。そう中嶋めぐ実さん(17)は語る。

選挙権年齢の18歳への引き下げに向けて活動する「ACT18」で、首相夫人の安倍昭恵さんらと共に共同発起人を務める高校生だ。政治に無関心な人が多いと言われる中で、なぜ若者の政治参加を求めるのか。中嶋さんに聞いた。

都知事選では高校生に「街頭模擬投票」を呼びかけ
 問 なぜ若者の政治参加問題に関心を持ったのですか。

 中嶋 高校1年生の時に「日本の次世代リーダー養成塾」に参加しました。非日常の2週間だったのですが、その時にプログラムで「模擬国会」というのがありました。自分たちで政策を考え、それを訴えて首相を選ぶのです。

その模擬投票で、私が投票した候補者が1票差で当選したんです。1票の重要さを痛感したのですが、その頃から政治に関心を持ちました。

それまで幼稚園から同じ学園で学び、限られたコミュニティの中にしかいなかったのですが、同じ高校生でも意識の高い人たちがたくさんいるのだということを知りました。カッコイイと感じて憧れました。そして、だんだん、自分の意見を持つようになってきたと思います。

中高と続けてきた音楽部では最後は部長でした。2年生で引退した後、「Teen’s Rights Movement(TRM)」という選挙権年齢の引き下げなどを求める高校生の集まりに加わりました。今は共同代表を務めています。

今年初めの東京都知事選挙では街頭模擬投票というのを行い、渋谷で高校生に声をかけて、実際の候補者の政策などを簡単に説明し、模擬投票してもらいました。

もちろん投票結果は実際の開票後まで公表しませんでしたが、高校生にとっても政治や選挙は他人事ではないのだ、と訴えることができたと思っています。

「2年以内に18歳から選挙権」を目指して
 問 18歳への選挙権引き下げを目指すACT18という運動で共同発起人を務めています。

 中嶋 はい。いくつかの団体が共同で設立し、シンポジウムの開催などを行っています。「8党合意」で選挙権年齢の18歳への引き下げ方針が確認されているので、何とか早期に実現するよう私たちも働きかけていきたいと思います。

 問 憲法改正のための国民投票法の改正で、4年後から国民投票の選挙権は18歳になりました。それに合わせて通常の選挙権を2年後をメドに18歳に引き下げることを目指すと与野党が合意したものですね。中嶋さんはなぜ18歳にすべきだと考えているのですか。

 中嶋 同級生などからも、何で投票に行きたいの、と聞かれます。自分たちの未来は自分たちで作りたい。そのためには自分たちが選んだ人を政治の場に送り出すことが大事だと思います。

中には、18歳に引き下げたって、どうせ投票に行かないだろう、という人もいます。18歳ではまだまだ未熟だという指摘もあります。でもそれはおかしいのではないでしょうか。

20歳になっても、30代でも40代でも、この人大丈夫? という人はいますよね。18歳で社会人として働いている人たちも大勢います。年齢で一律にダメだというのはおかしい。そもそも世界では20歳なんていう国はほとんどないんですから。

 問 8党合意を巡っては各党の対応はまちまちで、2年以内に法改正できるかどうか慎重な声もあります。

 中嶋 2年後の7月に参議院議員選挙がありますが、私は8月生まれなので、その時19歳なのです。それまでに法律が改正されて18歳に行き下げられていれば、私は投票に行けますが、今のままでは20歳なので、選挙権はありません。私個人にとっても、この2年以内という時間は重要な意味があります。

 問 世界をみると、選挙権年齢の引き下げが進んで、先進国では16歳というところも増えてきました。

 中嶋 私も本当は16歳ぐらいに引き下げるべきだと思っています。ただ、高校生どうしで議論していても、16歳は幼いという意見もあります。クラブ活動などで部長などを務める高学年になってはじめて責任感が出てくる、という声もある。

ただ、高校3年は大学受験がありますから、他のことに目を向ける余裕がなくなるということもあるのではないでしょうか。高校に入った1年生から投票権があるというのが自然のような気もします。

安倍首相夫人も考え方を変えて「18歳から」に賛同
 問 投票したくても投票したい候補者がいない、としばしば言われます。立候補できる被選挙権年齢は現在25歳(参議院議員と首長は30歳)ですが、被選挙権年齢についてはどう考えますか。

 中嶋 被選挙権は年齢で縛る必要はないのではないでしょうか。仮に中学生が立候補しても選挙権を持つ人たちが「幼い」と思えば当選はできません。

 問 ACT18ではどんな活動をしていくのですか。

 中嶋 6月19日に高校生と大学生100人近く集まって国会議員会館でシンポジウムを開きました。国会議員の方にもたくさん来ていただきました。

 問 共同発起人の安倍昭恵さんは挨拶に立って「選挙権18歳引き下げには反対だった。だが、若い皆さんと色々な活動をする中で、考えが変わった」と言っていましたね。

 中嶋 選挙権の問題が議論されているんだという事を少しでも多くの高校生や、一般の人たち、国会議員に訴えていきたいと思います。

 問 シンポジウムでは安倍晋三首相からのビデオメッセージも流されました。その中に、権利には義務も伴うという言葉がありましたが、どう感じました。

 中嶋 私たちは膨大な国の借金を背負わされています。この借金を返す義務を負わされているわけでしょう。それだったら権利も下さい、という感じですね。

シニアビジネスの第一人者 村田裕之氏(村田アソシエイツ代表)が語る 「高齢化社会をビジネスチャンスにする発想」

シニアビジネスの第一人者である村田裕之さんとは、スイスで行われた高齢化問題を巡るシンポジウムで知り合いました。日経新聞のシンポなどにもご協力いただいてきた方で、私の新聞時代の先輩とのパイプもあります。村田さんが新著を日経新聞から出されたのを機に、久しぶりにお目にかかり、インタビューさせていただきました。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39866

ついに、国民の4分の1が高齢者という超高齢化社会に突入した。総務省が発表した2013年10月時点の人口推計によると、65歳以上の高齢者(老年人口)の割合は数値を公表し始めた1950年以降、初めて25%を超えた。

指摘されるように「稼いで支える人」が減り、「支えられる高齢者」が増えるのは事実だが、一方で日本の高齢者層が多くの資産を持ち、購買力を維持し続けている現実もある。

シニア層を経済の中にどう位置づけるべきか。「企業にとって高齢化はむしろチャンスだ」と語るシニアビジネスの第一人者、村田裕之・村田アソシエイツ代表に聞いた。

60歳以上の金融資産は482兆円
 日本社会の高齢化がいよいよ本番を迎えています。

 村田 高齢化は問題点が常に指摘されます。医療や年金の制度がもたないという危機感が語られます。

それはもちろん事実なのですが、一方で、60歳以上のシニア層が日本の金融資産の大半を持っているというのも現実です。個人金融資産は1500兆円あるとしばしば指摘されますが、事業性資金が含まれているなどかならずしも実態を示していません。私の試算では60歳以上が持つ正味金融資産は482兆円です。それでも大きな金額です。

その482兆円の3割に相当する146兆円が消費に回ったらどうでしょう。国家予算はざっと100兆円ですから、それを上回るお金が市場に出て来るわけです。1割でも48兆円ですから、下手な公共事業よりもはるかに大きい。経済へのインパクトは大きいのです。

そうした可能性を持つシニア向けの商品やサービスを企業がいかに開発していくか。そうした企業の開発を行政がどうサポートしていくか。これが重要になってきます。

厳しいシニアの客が若い従業員を育てる
 シニアビジネスが重要だということですね。

 村田 私はシニアビジネスはシニアのためだけではない、と言っています。預金として眠っているストックが経済活動に回ることで、そこで雇用が生まれ、給与が増えていく。その恩恵を受けるのは若い世代です。ですからシニアがおカネを使うようになれば、健全な形で所得移転が進むわけです。

シニアがおカネを使わずに資産を持ち続けても良い事はありません。財産を残して相続ということになれば、相続する子どもの間でケンカが始まるのが常です。あるいは子どもがおらずに相続権者がいなければ、国庫に行ってしまうだけです。

高齢者が高額のおカネを貯めていれば、オレオレ詐欺などのターゲットになる。騙されるくらいならば、ちょっと贅沢な良いモノを買うのも悪くない、そんな風潮が広がって欲しいものです。

 シニアビジネスが若い人のためになる、というのは面白い視点です。

 村田 金銭面だけではありません。最近の若い世代は、なかなか企業の中で鍛えられる機会が減りました。ひと昔前の年功序列が当たり前の時代には、社内で先輩にこき使われながら成長した。それが最近ではパワハラに厳しくなり、それに耐えられる若手も減っています。

ところが、シニアビジネスの現場では面白い事が起きています。若い社員が客に鍛えられるのです。何せ今の高齢者世代、とくに団塊の世代と呼ばれる層の人たちは、ビジネスに一過言も二過言もある。商品やサービスに対してものすごく厳しい層です。できの悪い商品や不満足なサービスに出会うと容赦なく文句を言います。

私が関わっているカーブスという中高年齢向け女性専門ジムでも、運動しに来ている客に、若いインストラクターがビシビシ厳しい事を言われて涙しています。それで何くそと思って頑張ると、「あなたのおかげで体重が減ったわ、体調も良いわ」などと感謝される。そこで再び涙しているのですが、要は客が若い従業員を育てるということが起きているのです。

高齢者には「使いやすい」おカネがある

『成功するシニアビジネスの教科書』 村田裕之著 (日本経済新聞出版)
 村田さんはこれまでもシニアビジネスに関する本を何冊もお書きになっていますが、最近、『成功するシニアビジネスの教科書』(日本経済新聞出版)を上梓されました。シニアを巡る「俗説」と「真実」を対比して説明している点など面白いですね。

 村田 大いなる勘違いがはびこっています。「シニア層は他の年齢層よりお金持ちである」というのは一見本当のようですが、真実は「シニア層は他の年齢層よりも資産は多いが、所得が少ない」ということです。

金融資産はあっても毎月入ってくるのは年金ぐらいだからです。

シニア層の日常消費は試算ではなく所得にほぼ比例するので、資産があるからと言って贅沢をするわけではないのです。

そんなシニア層がどんな時におカネを使うのかをきちんと分析して戦略を立てることが企業にとって重要なのです。

 アベノミクスによって高額品消費が増えていますが、高齢者もかなり高額品を買っているようです。

 村田 資産はあってもそれが直接消費に結びつくわけではないのですが、高齢者にとって「使いやすいおカネ」というのがあります。保有している株式が上昇して手にした売却益とか、投資の配当といったものです。

アベノミクスが始まった昨年前半は株価が急上昇しましたが、それと機を一にして老人ホームが結構売れました。これも典型的な高齢者の消費パターンでしょう。貯金をたくさん持っていても、その元本にまで手を出して、毎月切り崩していくといったおカネの使い方はシニア層は絶対にしません。

ななつ星」に乗る3割は普通の高齢者たち
 ほかにどんな時にシニア層はおカネを使うのでしょう。そこに向けて企業は新商品を提案していけばよいわけですが。

 村田 米国の心理学者コーエンが、45歳以降は4つの段階で心理的発達があると言っていますが、50歳代後半から70歳代前半に現れるとしているのが「解放段階」と呼ばれるものです。「今やるしかない」という心理です。私はこれを「解放型消費」と呼んでいます。

例えばJR九州で大ヒットしている高級列車を使ったクルーズトレイン「ななつ星」で、圧倒的に高齢者のお客が多いわけですが、その7割は富裕層でしょう。ところが残りの3割は決して富裕層とは言えない普通の人たちが楽しんでいます。

お客さんだった60代半ばの女性は介護関係の仕事をしていて、決してフローの収入は高くないのですが、元気で自由がきくうちに、やっておきたい事に奮発しておカネを使っているというのです。

こうした消費の形はシニア層特有で、これをターゲットにした商品開発に各社しのぎを削っています。高齢者の消費行動を知り、自社の強みを分かったうえで、どんな商品・サービスを生み出していくか。企業にとって高齢化社会はむしろチャンスだとも言えます。

『役人の掟』を書いた元経産官僚、原英史・政策工房社長が語る 「なぜ官僚は国民の利益より業界のシガラミを優先するのか」

改革仕掛け人として知られる原英史・元行政改革担当相補佐官が小学館の月刊誌「SAPIO」に連載しているコラムを本にまとめました。いわゆる「おバカ規制」のオンパレード。官僚の自己増殖機能に対する怒りがフツフツと沸いてきます。是非ご一読を。インタビューを現代ビジネスに掲載しました。オリジナルは→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39729


「仕事ができる」官僚は、新しい規制を次々に生み、どんどん権限を拡大して、予算も獲得していく。

決して悪意はないのだが、結果として官僚機構は肥大化し、国民の税金を貪り食っていくことになる――。

そんな霞が関の実態を具体的な「規制」に焦点を当てて暴いた『日本人を縛りつける 役人の掟』が小学館から上梓された。

著者で、規制改革担当大臣の補佐官などを務めた元官僚の原英史・政策工房社長に、霞が関の問題点や安倍内閣が取り組む公務員制度改革の行方について聞いた。


民主党の政治主導よりも官僚任せがまし?」
 問 官僚に対する国民の批判が高まり、「脱官僚依存」を掲げた民主党が政権を奪取したのは2009年でした。その後、国民の官僚批判はすっかり影をひそめましたが、霞が関は変わったのでしょうか。

 原 物事は何も変わっていないというのが私の認識です。官僚批判が影をひそめたのは民主党政権が失敗したからです。民主党は残念ながら、日本の官僚体制の問題点を理解せず、政治主導をはき違えました。本質を理解しない間違った政治主導で政権が機能不全に陥りました。

その結果、国民からの信頼を失ったということです。民主党の政治主導よりも官僚任せの方がましだと国民が思ってしまったのです。

 問 問題の本質とは何でしょうか。

 原 永田町と霞が関が日本国の経営陣として機能していないということが最大の問題です。今、コーポレートガバナンスの強化が叫ばれ、企業の経営体制が問題視されています。株主などの利益を背負った取締役が社長を監視し、社長をトップとする執行役が経営実務を担う。これが企業ガバナンスの1つの形です。

国も、国民の利益を背負った国会議員が「社長」である大臣を監視し、大臣をトップとする官僚機構が実務を担うのがあるべき姿です。

ところが、官僚は大臣を社長だとは思っておらず、事務次官が社長だと思ってきた。政治家にはできるだけ関与させずに自分たちだけが政策を策定・実行していく体制が出来上がっていたわけです。

 問 民主党はそれを否定しました。

 原 役人を政策決定から追い出し、自分たちの思い付きや信念で政策を決めて実行しようとしました。1つの典型例が沖縄・普天間基地の移転問題でした。つまり、民主党公務員制度改革の本質をまったく理解していなかったのです。

失敗に学び、官僚機構の掌握を目指す第2次安倍内閣
 問 2006年から2007年にかけての第1次安倍内閣は、公務員制度改革に重点を置きました。現在の第2次安倍内閣はだいぶトーンダウンしているようにも感じられます。

 原 第1次安倍内閣は本質をすごく分かっていた政権だったと思います。とくに安倍首相は十分に理解したうえで、リーダーシップを発揮されていました。これに対して霞が関は、人気取りのために役人バッシングをしている、というネガティブキャンペーンを展開しました。当時、あまりにも真正面から切り込んだために官僚機構が猛烈に反発したわけです。その結果、退陣に追い込まれたわけです。

現在の第2次安倍内閣も首相をはじめ多くの閣僚が問題の本質を理解していると思います。ただ、衣の下の鎧を見せないというか、水面下で実質的に官僚機構を掌握しようとしているように見えます。第1次内閣の失敗に学んだということでしょう。今回の内閣人事局の局長人事などを見ていてそう思います。

 問 このほど設置された内閣人事局の局長には、大方の見方では官僚出身の官房副長官が任命されるとみていたが、安倍首相は政治家である加藤勝信官房副長官を任命しました。

 原 聞くところによると、人事局長は各省庁の幹部ポストについて、どんな政策が重要になるか、という洗い出しをおこなっているそうです。つまり、適材適所の人材を幹部に据えようとしているのでしょう。

 問 これまでに無かった。

 原 はい。年次の順送りでしたから。官僚が人事異動した時の挨拶で多いのは、「この分野は初めてで素人なので何分よろしく」というのがあります。

1ヵ月もするといっぱしの専門家のような顔ができるほどキャッチアップしてしまうので、確かに優秀なのだなと思いますが、その能力を別のところで使ったもらいたいですよね。

官僚機構は国民の利益より、業界のシガラミが優先される
 問 公務員制度改革をやらなければならない官僚制度の限界というのは何ですか。

 原 いくつかありますが、まず第1に大改革ができないということでしょう。ボトムアップで政策を積み上げていく手法に慣れているので、トップダウンでの改革はできません。もう1つは縦割り構造になっていて、所管の事業者などの利益と結び付き、日本国全体の利益を考えて政策作りができなくなっていることでしょう。そうしたシガラミは官僚機構だけではなく民間にもあるでしょう。現場が様々なしがらみで動くことはよくあります。しかし、会社の場合、しがらみが会社の利益よりも優先されることはまずありません。会社全体の利益を考える中で、そうした問題は補正されるわけです。ところが官僚機構にはそれがありません。どんどん所管部署のシガラミが深くなり、国民全体の利益に反するようになっていても補正されないのです。

 問 それを補正する仕組みが必要だということですね。

 原 はい。政治が官僚のやるべき仕事の方向性を示し、それが実行できているかどうかを評価する人事制度が必要だと思います。

 問 しかし、政治家が官僚の人事を握ることには強い抵抗があります。なぜですか。

 原 政治家は馬鹿だと思っているからです。政治家に任せたら大変なことになる、と。もちろん一面の真理はあります。質の低い政治家もいますから。

しかしだからと言って官僚にすべて任せておけばよいのか、というとそうはならないでしょう。政治家ならば選挙で選び直すこともできます。

「おバカ規制」のネタは尽きない
 問 ご著書の『人の掟』では、どうみても間尺に合わない「おバカ規制」が紹介されています。なぜ、こんなことが起きるのでしょう。

 原 権限は官僚の力の源泉なので、放っておけば規制がどんどん増殖していくのが自然の流れです。こんな規制は無くてもよいのではないか、と規制緩和が議論になっても、官僚は自分がコントロールする権限を残そうとしがちです。

もう1つは、規制を無くした時に、もし何か問題が起きたら、官僚の責任が問われるのではないか、と恐れている面もあります。規制が増えるのは役人のせいばかりではなく、日本の文化、日本人の国民性という面もかなりありますね。

 問 ご著書の中にもありますが、国民自身がなかなか規制に縛られていることに気が付かない面もあります。メディアの責任も重いですね。

 原 しばしば講演などで話すのですが、国民の中には特定の利権を持った人は少数しかいないのに、その人たちの利益を代弁する「族議員」が政治家の大半を占めています。また、役所に積極的に働きかけるのも、そうした特定の利権を持っている人たちですから、役所の担当部局はいつのまにかそういう特定利権とシガラミが深まっていきます。

メディアは記者クラブを通じて担当部局を取材しているので、知らず知らずの間に、特定利権を擁護する論調を発するようになるのです。メディアの責任は重いと思います。

こうした各段階での構造を変えないと、日本は変わらないですね。特定の利権を持った人たちは業界団体などの組織を持っています。一方で一般の国民や消費者にはそうした団体がありません。今年1月に万年野党というNPOを立ち上げたのは、そうした国民目線で政策監視できる団体を作ろうと思ったのがきっかけです。

また、記者クラブにいて官僚から取材している記者はなかなか本質が分かりません。ジャーナリストや一般の国民に事実を知ってもらうために、今回の本をまとめました。私の中では今回の本の出版と万年野党は同じ活動の一環です。

 問 この本は小学館の月刊誌『SAPIO』のコラム『おバカ規制の責任者出てこい!』をまとめたものですが、連載はまだ続くのですね。

 原 ええ。2012年に連載を始めた時には1年もしないでネタが尽きると思っていたのですが、次々に新しい規制が生まれるのでネタには困りませんね。

過疎地を「宝の山」に変えるベンチャーを創業 奥田浩美さんインタビュー 「人生は見切り発車でうまくいく」

奥田浩美さんのインタビューです。あの勝間和代さんや第一生命保険のスーパーセールスレディ柴田知栄さんは仲良しだそうで、奥田さんによれば「3人で話すと勝間さんはほとんど話さない」のだとか。話さないというか、話せないぐらいのパワーをお持ちなのです。そのパワーがインタビューで伝わっているかどうか。ご一読ください。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39667

人生は見切り発車でうまくいく

人生は見切り発車でうまくいく

IT分野の国際会議の事務局管理やイベントの運営を担う「ウィズグループ」の代表である奥田浩美さんが上梓した『人生は見切り発車でうまくいく』(総合法令出版)は、奥田さんのユニークな人生から紡ぎ出した一冊である。

「もう悩まない!」「『完璧』は目指さない!」と帯にあり、加えて「勝間和代さん推薦」とくれば、安っぽい自己啓発本かと疑いかねないが、実際は自らの経験に裏打ちされた具体的な話が詰まっている。奥田さんが2013年7月に徳島県美波町に作った「株式会社たからのやま」も「見切り発車」でスタートしたという。エネルギー溢れる奥田さんに「見切り発車」の人生を聞いた。

「たまたま就職した会社でIT関連をやらされた」のが起業のきっかけ
 問 ウィズグループはIT関連の国際会議などで事務局管理を請け負う会社として成功されていますが、もともとこの分野に関心があったのですか。

 奥田 いいえ、大学院を出てたまたま就職したのが国際会議の企画運営会社だっただけです。新入社員ということで重要な企業の会議は任せてもらえず、当時はまだ出始めだったIT関連の仕事をやらされた。(米マイクロソフト創業者の)ビル・ゲイツや(アップル創業者の)スティーブ・ジョブスらが日本にやってくるようになった草創期でしたが、可能性をすごく感じました。

1991年に貿易会社の出資でIT専業の国際会議会社を起業しました。まだパソコンもインターネットも普及していないころですが、米国で急速に広がっていたIT関連の大規模イベントが日本に上陸する手助けをしてきました。

 問 たまたま入った分野で起業までしてしまったわけですか。もともとは何をやりたかったのですか。

 奥田 親が教師で、地元の大学の教育学部に入っていましたので、そのまま教師になる路線が敷かれていました。親から与えられた課題をこなしているような気持ちがくすぶっていたのです。教員採用試験も受かり配属される学校が決まりかけていた時に、気が変わりました。インドに行こうと思いたったのです。

もちろん親は大反対です。当時、父親はムンバイの日本人学校の校長をやっていました。説得するためにムンバイ大学の社会福祉修士課程に行くと言い、何度も電話をかけ、何とか許しを得たのです。インドでは週3日地元のソーシャルワーカーに付いて歩くフィールドワークをしました。価値観の崩壊というか多様性の受容が不可欠だということを身をもって学びました。

2年目はマザーテレサが作った施設に行きました。当初は社会福祉の仕事に就こうかとも考えたのですが、教師を捨てたのに公務員になるというのも変だと思い東京に出たのです。そこでたまた会社に出会ったわけです。

原点は「ITで世の中を幸せにする」
 問 貿易会社と設立した会社を辞めて今度は自分で起業したそうですね。

 奥田 娘の1歳の誕生日にウィズグループを立ち上げました。2001年のことです。それまでの会社も成功していたのですが、深夜まで働いて家庭を犠牲にするような仕事の仕方に疑問を感じていました。そこで、自分がどこにいても仕事ができるような魔法使いのようなグループを作ろうということでウィザード(魔法使い)のウィズを社名にしました。

女性が働きやすい会社にしようと初めから思っていました。また、ちょうどITバブルの絶頂期で、どうも腑に落ちないものを感じていたのです。

また、この業界に入って時に思った「ITで世の中を幸せにする」という自分自身の原点をもう一度見つめ直してみようと思ったのです。自分だけが出資する会社にしました。もといた会社はITの同時通訳サービスに強みをもっていたため、ウィズグループはもっとイベントのマネジメントに特化することにしました。大工の棟梁というか、一種のプロデューサー業ですね。

事業が軌道に乗ってからですが、ただイベントをやるだけではなく、スタートアップ企業を育てる、起業家の場づくりのようなことを心掛けました。

 問 2013年に3度目の起業をされた理由は?

 奥田 娘の中学受験が終わった事が1つのきっかけです。また、六本木や渋谷の起業家と長年付き合ってきましたが、少し地方を回ってみたら、あまりの落差に驚いたんです。エネルギー格差とでも言いましょうか。

そこで2012年に「finder」というメディアをウェブ上に立ち上げました。離れた地域に住む人のエネルギー交換を目指す「プロジェクト&メディア」サイトという位置づけです。各地域の面白い取り組みや担い手をビジュアル中心に伝える一方で、各地域の事情に合わせた活性化支援の企画を立案・実行することにしました。

 問 それはウィズグループでやっていたのですね。

 奥田 はい。やっているうちに、伝えるだけでは変わらないということを痛感するようになりました。そこで、実際にプレーヤーになって産業を創造し雇用を生むような存在になろうと考え、「たからのやま」を設立したのです。2013年7月のことです。

「未来への出張」
 問 なぜ徳島県美波町なのですか。

 奥田 過疎化が凄い勢いで進んでいます。女性が活躍できる雰囲気はないため、若い女性はどんどん都会に出て行ってしまう。高齢化という観点では未来の最先端の場所と言うこともできます。地方の高齢化が進んだ地域に出張することを私は「未来への出張」と言っています。高齢化は全国でどんどん進んでいくわけですから、今はまだ高齢化率が低くてもいずれはその地域と同じようになります。

 問 どんな事業を始めたのですか。

 奥田 町中に「ITふれあいカフェ」を作りました。地域の人がスマートフォンタブレットに気軽に触れることができる場を提供し、そこで得られた知見をIT企業などにフィードバックするなど実証実験の場にしています。最終的には、地域の高齢者とメーカーが共同で新製品開発を行う場になればと思います。

また、地域の情報発信支援や、地域での創業支援の場にしていきます。まあ、たからのやまも見切り発車で作ったので、どんどん進化していきます。

 問 『人生は見切り発車でうまくいく』はどんな人たちに読んでもらいたいのですか。

 奥田 読者層は広いと思いますが、中でも20歳代半ばの人たちが読みやすいように書いたつもりです。

人生は見切り発車でうまくいく

人生は見切り発車でうまくいく