「ガバナンス・コード制定で日本の経営者が変わる!」 門多丈・実践コーポレートガバナンス研究会代表理事インタビュー

世界が注目する日本企業のガバナンス改革。いったいどんな「ベストプラクティス」を示せるのでしょう。あまり低いハードルを示したら、世界から笑いものになるのは必定です。三菱商事OBで実践コーポレートガバナンス研究会を主宰する門多さんにお聞きしました。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40398


安倍晋三内閣が6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」に盛り込まれた「コーポレートガバナンス・コード」の策定作業が始まった。金融庁東京証券取引所が共同で事務局を務める有識者会議で、具体的なコードのあり方が議論されている。

日本企業の経営体制のあるべき姿、いわゆる「ベスト・プラクティス」を示すことで、企業の収益力を高めさせようというのが政権の狙いだけに、どんなコードが出来上がるのかに注目が集まっている。この問題に詳しい門多丈・実践コーポレートガバナンス研究会代表理事に聞いた。

従来の仕組みに慣れた経営者にはたいへんな試練となる
 問 成長戦略にコーポレートガバナンス・コードの制定が盛り込まれました。

 門多 成長戦略で企業のガバナンス強化がうたわれ、コードの制定が打ち出されたのは画期的な事だ。

昨年の成長戦略には、機関投資家の行動指針である「日本版スチュワードシップ・コード」の制定が盛り込まれたが、すでに実現し機関投資家の多くも受け入れ表明している。

スチュワードシップ・コードコーポレートガバナンス・コードは裏表の関係にある車の両輪のようなもので、日本企業の経営のあり方に大きな影響を与える。

この制定を決めたことは海外の機関投資家からも大いに評価されている。

 問 ガバナンス・コードの制定をどう評価しますか。

 門多 今回、制定されるガバナンス・コードの意義は、取締役会自身が自社のガバナンス体制について自分たちで考え、自社に合った制度を導入する点にある。いわゆるコンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か説明か)のルールが本格的に導入され、コードに従うか、さもなくば、従わない理由を説明することが求められる。

つまり、できないことは、はっきり「できない」と言う事が取締役会に求められるのだ。これまでは、会社法などのルールで決まったことは守るのが当然だったが、ガバナンスコードはまったく違う。

そうしたルールの仕組みに慣れた日本の経営者にとって、たいへんな試練になるのではないか。これまでの日本の経営が大きく変わるきっかけになるかもしれない。

報酬が経営者のモチベーションを高める
 問 ガバナンス・コードの具体的な項目として、何が必要だと思いますか。

 門多 英国のガバナンス・コードでは、リーダーシップ、取締役会の有効性、説明責任、報酬、株主との関係という項目がある。こうした項目についてベストプラクティスを示し、取締役会が自ら議論して、あるべき体制を決めることが大事だろう。

具体的には、ここ数年、日本でも社外取締役の導入促進が言われているが、欧米では社外取締役過半数を占めるようになっている。コードでは、独立社外取締役を複数置くというぐらいの規定を設けることが不可欠だろう。

そうした厳しいコードを示したうえで、それぞれの会社の取締役会が、取締役と執行役の機能分離についてきちんと議論し、独立社外取締役の役割や機能がどうあるべきかをきちんと考えることが重要だ。

 問 経団連など経済界は社外取締役の義務付けに反対してきました。

 門多 経団連社外取締役を一律に義務付けることに反対すると言ってきた。企業の事情が違うのだから、企業自身が考えて結論を出すべきだ、というわけだ。今回決定するガバナンス・コードは一律に義務付けるのではなく、遵守か説明かを求めているのだから、経団連の考え方に合致している。さすがに経団連は反対できないだろう。

 問 ほかに重要だと考える具体的な項目はありますか。

 門多 指名委員会と報酬委員会の設置だろう。日本でも指名委員会、報酬委員会、監査委員会の3つを置く委員会等設置会社が会社法で認められているが、なかなか採用する企業が増えないのが現実だ。だが、指名委員会は、内輪の論理だけで社長を選ぶのではなく、きちんと説明責任を果たすうえでも大きな意味を持つ。コードで、こうした委員会の設置をベスト・プラクティスとすれば、置かない理由を経営者が説明しなければならなくなる。

 問 経営者の報酬決定にも説明責任が必要だということですね。

 門多 ええ。昔に比べて大企業の一部では取締役の報酬が高くなったが、欧米に比べればまだまだ。経営者が転職するような人材マーケットがないため、低く抑えられている。報酬が経営者のモチベーションを高めることにつながっていない。企業の成長や利益に見合った報酬を支払うことが重要だ。能力のある経営者には高い報酬を支払うというのは世界では当たり前のことだ。

 問 報酬委員会で変わりますか。

 門多 日本企業の場合、経営者報酬に対する基本方針、つまりロジックが見えない。香港にある金融機関などは世界中から経営人材を集めているが、中国人やインド人、オーストラリア人などがいるにもかかわらず、日本人はいない。

日本にも経営人材のマーケットができれば、グローバルに通用する経営者が当然出て来ると思う。そのためには、日本企業が論理的に報酬を決め、世界から人材を取ってくるようにならなければならない。経営者の移動が始まると、誰がどんな経営判断をしたかが重要になる。

 問 確かに、日本企業の場合、経営判断が見えにくいですね。

 門多 事業報告のあり方が中途半端だ。これを株主に対するコミントメント、いわば公約の場にすることだろう。経営者がどんな方針でリスクマネジメントに取り組んだか、将来につながる事業投資を決断したか。それが見える形を考えるべきだ。例えば、指名委員会で社長候補者に今後の事業戦略をプレゼンさせるなど、経営方針を指名委員会が判断するという形も必要だ。

社外取締役の重要性
 問 独立社外取締役の役割は何でしょう。

 門多 M&A(合併買収)などの際に、きちんと株主や、社員などのステークホルダーの利益と合致しているかを判断するのは社外取締役に期待される機能だろう。事業を推進したい社内出身取締役では判断が甘くなる。もう1つが社長の指名と取締役の報酬決定だ。そして、会計不正や粉飾決算に目を光らせるのも社外取締役に期待される。

 問 英国のガバナンスには取締役会の有効性という項目があると仰いましたが、取締役自身の適確性もあるのではないでしょうか。

 門多 これは重要です。会社として取締役の研修プログラムを持つなど教育がポイントだ。欧米には取締役の教育方針を取引所に提出させているところもある。さらに、取締役会の有効性を第三者に評価させることも重要だ。

海外ではヘッドハンターの企業などが行っているケースがあるようだが、例えば、取締役会にM&Aの専門知識を持った人材がいない、といった指摘が出されれば、そうした人材を会社は獲得しなければならないわけだ。

 問 実践コーポレートガバナンス研究会はどんなメンバーが加わっているのでしょうか。

 門多 現在正規のメンバーは70人ほどだが、毎月行っている勉強会に来たことのある人は400人近くいる。企業の中堅幹部だった人が多く、リタイアした後、他社の社外取締役監査役を務めている人も多い。研究会としては社外取締役のあっせんや、取締役の研修受託などを拡大していきたいと考えている。