「反IFRS活動家」を金融庁参与に任命した自見金融相「政治主導」の危うさ 国民新党に金融行政を丸投げする野田政権

本日配達されたFACTA10月号に、「自見金融相が振興銀受け皿に政治介入」という記事が載っていました。この件は私は取材していないので正確なところは分からないのですが、かなり筋の悪い話と言っていいでしょう。金融には素人の自見大臣が、何でそんなに熱心に政治介入を行うのか。いずれその理由が明らかになる日は来るのでしょうか。この記事が掲載されたことで、金融庁詰め記者はもちろん、金融ジャーナリストが取材に動き出すことは間違いないでしょう。その自見大臣が政治主導で反IFRS派の代表的な人物を金融庁参与にした話を先週「現代ビジネス」に書きました。以下に再掲します。

現代ビジネス→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/19449


 野田佳彦内閣の誕生で、当然交代するだろうと思われていた自見庄三郎・金融担当大臣が残留した。大多数の国民が選んだわけでもない国民新党に日本の金融・資本市場行政を丸投げする民主党の経済音痴ぶりもさることながら、国民新党が金融相ポストにここまで固執するのも不思議だ。郵政民営化阻止という以外に何かあるのだろう。

金融には素人の大臣が残留することになって、金融庁内には明らかに失望の色が広がっている。金融庁長官が政治家にはめっきり弱かった三國谷勝範氏から現場に人望のある畑中龍太郎氏に代わり、果たしてどう大臣に対処していくのか、注目される。

 そんな金融庁の現場と大臣の火種の1つが、自見氏が菅直人内閣総辞職の直前に行った「政治主導」人事だ。三菱電機顧問の佐藤行弘氏、日本労働組合総連合会(連合)副事務局長の逢見直人氏、住友化学工業副会長で日本経団連企業会計委員会委員長でもある廣瀬博氏の3氏を8月29日付で「金融庁参与」に任命したのだ。

参与にした理由について、自見氏は「国際会計基準(IFRS)についてのご意見を賜るのにふさわしい方だと判断」したと述べているが、3氏はいずれもIFRS適用についての慎重な姿勢を示している。中でも佐藤氏は反IFRSの急先鋒とも言える人物で、国会議員や幹部官僚、大物経済人にIFRS反対を説いて回っている"活動家"として知られている。

突然、参与に任命したのはなぜか

 実は、これには伏線がある。IFRSへの日本の対応を議論する企業会計審議会が6月末に開かれた際、政治主導で反IFRS派の面々を、10人も臨時委員として追加任命。大臣の「政治的決断として」、IFRSの日本企業への適用義務付けを先送りしたのだ。この間の経緯についてはこれまでも何度かこのコラムで記事を書いた。今回、参与に任命された3人は、6月の審議会で臨時委員に選ばれた人たちだ。

 そんな佐藤氏らを突然「参与」にしたのはなぜか。

 自見氏は金融関係者に会った際、「IFRSっていうのは小泉・竹中だろう?」と聞いたという。小泉政権よりはるか前から会計の国際化は日本にとって課題であり続けてきたものだ。そんな歴史も学ばずに金融のグローバル化対応をすべて「竹中流」として排除するのだとすれば、金融大臣としての適格性が疑われるのではないか。

 一部の利益を実現するために「政治力」で審議会の委員を増員し、お気に入りを「参与」に加えるやり方は、大臣として正しい行動なのか。

 自らが批判する竹中・木村コンビの構図とまったく同じことにご本人は気が付かないのだろうか。

 国際的な金融規制の当事者でもある金融庁の現場は、この段階で日本がIFRSに背を向ければ、様々な国際交渉での日本の発言力が落ちると強く警戒している。このため、大臣の無茶な注文にも面従腹背を貫いているとされる。

 6月に開いた審議会を、反対派が多数を占めた「企画調整部会」として開催するのではなく、本委員会と合同の総会にしたのも、強引な多数決によるIFRS揺り戻しを恐れた金融庁の現場の智恵とされる。

 委員になった佐藤氏は繰り返し「企画調整部会」単独の開催を主張していたが、現場は無視していたと言われる。審議会の一臨時委員ではなく、参与にすれば現場も言うことを聞くだろうというのが、今回、参与に任命した大臣側の思惑と見られる。

「特定の目的を持った人を参与にし、審議会の委員まで兼務させれば、金融庁の意思がそこにあると思われ兼ねない。独立性、中立性を基本とする公務員組織としては禁じ手だろう」と金融庁のOBは言う。「ましてや政治主導など論外だ」と語気を荒げる。

 もともと金融庁設置法では金融庁のトップは金融庁長官とされ、内閣総理大臣に直属している。金融担当大臣は内閣府の特命担当という立場で、組織上はトップではない。金融行政への政治介入を防ぐのを目的に、政治家を排除する形になっているのだ。過去には関係する金融機関への便宜供与などが疑われ辞任に追い込まれたケースもある。独立性と透明性を重んじる金融庁に、政治主導と言って堂々と踏み込んでいる自見氏の手法は異常さが目立つ。

小泉・竹中への怨念

 自見氏を反IFRSに動かしている黒幕は誰か。当初は今回参与になった佐藤氏ではないか、という見方が多かった。6月の審議会前に要望書を取りまとめ、大臣に陳情していたことも判明している。通商産業省も佐藤氏に協力していたのではないか、と見られていた。

 ところが、佐藤氏が参与に就任するに及んで、「こんな禁じ手は官僚には絶対使えないし、佐藤氏自身の力でも無理。誰か黒幕がいるのは明らかだ」(経産省幹部)という声が出始めている。経団連ではないか、という見方もあるが、今の経団連にはそこまでの結束力も政治力もない。日本がIFRSに背を向けることが利益になると思っている黒幕がいるのだろうか。

 今回、金融庁参与を発表した同じ会見で、自見氏は日本振興銀行に対する行政対応等検証委員会がまとめた報告書についても触れ、振興銀行に免許を交付したことについて、「妥当性を欠く不当な免許交付」だったとした。報告書の内容をこう説明した。

「『金融再生プログラム』は、竹中平蔵大臣の指示によって作成された方針であり、竹中大臣固有の方針である」。「同プログラムには、『銀行免許認可の迅速化』の方針が示されている」。「金融庁長官以下、金融庁職員は直接的には参画しないまま、竹中大臣が『金融再生プログラム』を発表した」。「同プログラムは発表と同時に金融庁に示達され、金融職員はこれに基づいて、金融行政をやるように命ぜられ、その内容を金融庁職員に説明したのが(金融庁顧問だった)木村剛氏であった」

 つまり、大臣の金融庁顧問による出来レースだったと批判しているのだ。報告書をまとめた委員会は自見氏の肝いりで作られたものだ。そこには竹中氏に対する怨念のようなものすら感じられる。

 自見氏は金融関係者に会った際、「IFRSっていうのは小泉・竹中だろう?」と聞いたという。小泉政権よりはるか前から会計の国際化は日本にとって課題であり続けてきたものだ。そんな歴史も学ばずに金融のグローバル化対応をすべて「竹中流」として排除するのだとすれば、金融大臣としての適格性が疑われるのではないか。

 一部の利益を実現するために「政治力」で審議会の委員を増員し、お気に入りを「参与」に加えるやり方は、大臣として正しい行動なのか。

 自らが批判する竹中・木村コンビの構図とまったく同じことにご本人は気が付かないのだろうか。