オリンパスは上場廃止基準に抵触していない?! 上場維持に突き進む東証の不思議な理屈にマスコミも同調。「粉飾でも債務超過でなければセーフ」

1月20日東証自主規制法人オリンパス上場廃止にしない、という決定を下しました。20年近く粉飾決算を続け、巨額の損失を隠し、市場と投資家を欺き続けた会社ですら上場廃止にできないのならば、初めから上場廃止基準に「有価証券報告書への虚偽記載(粉飾決算)」など加えなければ良いのです。一度決めたルールの適用を後から四の五の言って変えるのは法治国家ではありません。そう私はかんがえるのですが、どうやら今の日本では私は少数派なのでしょうか。

1月11日付けで「現代ビジネス」に掲載したオリンパス関連の記事を編集部のご厚意で再掲致します。オリジナルページは →http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31533


 20年にわたって投資家を騙し続けてきた企業ですら上場廃止にできないとしたら、市場の規律はどうやって守るのだろうか---。巨額の損失隠しが明らかになったオリンパス株の扱いが焦点になっている。

 1月9日付けの日本経済新聞は朝刊で「オリンパス上場維持有力」という観測記事を掲載した。3年以内に企業統治体制が改善できなければ上場廃止になる「特設注意市場銘柄」に指定して、上場は当面維持する案が有力だとした。また、ロイター通信も、「複数の関係筋が9日明らかにした」として、同じく「特設注意市場銘柄に指定して上場維持する方向で調整している」と報じた。

 これを受けて10日朝からオリンパス株には買い物が集中。一時、293円高い1346円を付けた。前週末6日の終値が1053円だったので、一気に28%も急騰したことになる。

 上場廃止にするかどうかは東証グループの「自主規制法人」の理事会が決定する。東証が株式会社化する際に、取引所を運営する東証からの独立性を維持する目的で設けられた組織で、理事会は5人の理事で構成する。

 理事長は財務次官を務めた林正和氏。常務理事は東証の上場審査部門などを務めたプロパーの武田太老氏と美濃口真琴氏の2人。これに非常勤の外部理事として藤沼亜起・元日本公認会計士協会会長と、久保利英明・元日本弁護士連合会副会長が加わっている。

 記事にも記載されているが「今月下旬に5人の理事で構成する臨時理事会を開き判断する」段取りで、上場廃止問題について突っ込んだ議論が行われた形跡は今のところない。また、商法学者などの専門家で構成する諮問会議も存在するが、それが招集された気配もない。2人の外部理事には年末に事務局から「状況説明」がなされた模様だが、5人の理事か集まって侃々諤々の議論をしている様子はないのだ。

 にもかかわらず、マスコミを通じて結論めいた情報が流れるのはなぜか。12月の段階では産経新聞が今回の"結論"とほぼ同じ「特設注意市場銘柄」への指定を報じており、どうやら「まず結論ありき」の様子が濃厚なのだ。

 東証上場廃止規定には、「有価証券報告書等に『虚偽記載』を行った場合で、その影響が重大であると当取引所が認めたとき」とある。損失を隠すために虚偽記載(粉飾決算)を行ってきたことは会社側も認めているので、議論の余地はない。その「影響が重大か」否かについて、自主規制法人が判断することになるのだが、東証周辺からは「問題を小さくみせよう」とする意図的な情報が流れてくる。

 12月の段階では「ごく一部の取締役だけが関与してきた」という理屈が語られた。菊川剛前会長と森久志前副社長、山田秀雄前常勤監査役の3人だけが知っていたもので、組織ぐるみの犯罪ではなかった、という見方が流された。

 だが、この論理はあっけなく瓦解する。歴代取締役の責任を調べた「取締役責任調査委員会」が1月7日付で調査報告書を提出。現旧取締役の合わせて19人の責任を認定したのだ。報告書では菊川、森、山田の各氏のほか、中塚誠前取締役、下山敏郎元社長、岸本正寿元社長も損失隠しを知っていたと認定している。歴代社長がかかわった粉飾決算を、組織ぐるみと言わずして何と言うのだろうか。

 ちなみに、オリンパスの現経営陣はこの19人に対し、総額34億1000万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。委員会の報告書では不正による損害の合計を859億円と認定している。会社側が賠償請求額を小さく留めたのは、「支払い能力を考慮して」とされているが、会社ぐるみで行った犯罪の責任を一部の取締役にすべて負わせるのは忍びないという心理が働いたのではないか。

 ここへきて、大手メディアの記者たちが真顔で言う論理が、「そもそもオリンパス上場廃止基準に抵触していない」というものだ。

 ロイターの日本語ウェブ版の記事でも、「東証は、オリンパスが12月に過去の財務情報についての訂正報告書を提出したことを受け、上場維持・廃止の審査を進めていた。訂正後にもオリンパス債務超過に陥っておらず、上場廃止基準に抵触していなかったことや、既存株主への影響などを勘案し、上場維持が適当と判断しているもようだ」と書いている。

 確かに、上場廃止基準の中には、「債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表による)」という規定がある。だがこれは前述の「虚偽記載」とはまったく別の規定だ。それとも、訂正しても債務超過にならなかったので、「影響は重大ではない」と言いたいのだろうか。日経も「上場廃止になった旧カネボウは9期連続の債務超過だった」と書いている。オリンパスは罪が軽いと言いたげである。

 また、記事では、「特設注意市場銘柄」への指定がいかに厳しい処分であるかを印象付けようとする記述を目立つ。「指定解除には実質的に新規上場と同程度の審査を経る必要があり、3年内に改善しなければ上場廃止となる」というものだ。

 取引所が成立するのは、取引への参加者がお互いに「信用」するからに他ならない。投資家、上場企業、証券会社、東証自主規制法人、規制当局それぞれが相互に信頼を置くことによって成り立っているのだ。その信用を20年間も裏切り続けたオリンパスの犯罪は、資本市場で最悪の犯罪と言ってもいい。そんな不良企業を追放することもできない市場では、日本の投資家ばかりか世界からの信用も維持できないだろう。

 オリンパス上場廃止問題は、オリンパスという一私企業の問題ではなく、日本の証券市場の信頼にかかわる大問題なのだ。

 オリンパス事件に関しては東京地検特捜部の捜査がいまも続いている。巷間言われているように損失隠しが"会社のため"で個人の懐に一銭も入れていないとすれば、特別背任などの責任を問うことは難しいだろう。だが、その場合は、「組織ぐるみ」の虚偽記載が認定されることになるに違いない。その段階になって「やはり上場廃止」と言うのだろうか。

 公権力のお墨付きを得られなければ上場廃止にすらできないとすれば、自主規制法人の存在意義が問われる。高給で天下りを受け入れる受け皿ならば、まずは法人自体を廃止してはどうか。