大阪維新の国政進出はあるのか---橋下徹大阪市長の"天才的アジテーション"に右往左往する既成政党

今年6月に総選挙というのが永田町の通説になりつつあります。主として自民党など野党周辺からこの説が聞こえてきます。野田首相があえて負ける戦に打って出るのか、疑問にも感じますが、いずれにせよ永田町は選挙モードに入りつつあります。その総選挙で最大の焦点になってきたのが橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会が国政に進出するかどうか。つまり、総選挙に候補者を立てるかどうかです。既存政党が軒並み勢いを失っている中で、エネルギーがたぎる唯一の存在といっていいのが大阪維新の会です。どこの政党と連携するのか、あるいは政界再編の端緒になるのか、橋下氏の一挙手一投足を固唾を飲んで見守っているというのが実情です。

そんな大阪維新の動きを「現代ビジネス」でまとめてみました。編集部のご厚意で再掲します。オリジナルは→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31642


「大阪がこのように今、動き始めているなら、この日本国も動かしていこうじゃありませんか」

 大阪維新の会を率いる橋下徹大阪市長が1月20日大阪市内で開いたパーティーで行った挨拶に、永田町は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。翌日の新聞各紙も「橋下市長が維新『国政進出宣言』」「橋下氏、腹の底では首相狙う?」(読売新聞)、「維新の会、衆院200議席を目標 300人擁立を検討」(朝日新聞)と、維新の会が国政に打って出ることを決めたというトーンの記事を掲載した。

 大阪維新の会が3月に発足させる「政治塾」に公募で400人程度の塾生を集めるとしたことが、大量擁立報道の根拠になっている。メディアに近い大阪維新の会の幹部が次期衆院選への候補者擁立に前向きな発言をしていることも大きいようだ。

 こうした報道を受けて、民主党自民党など既成政党の間には動揺が広がっている。とくに支持率が低迷している民主党は、"政権交代ムード"の中で当選した若手の議員が多いだけに、波に乗った大阪維新の候補者が出てくれば苦戦は必至。さっそく、 輿石東幹事長は記者会見で「対決はしない。どう対応するかはこれからだ」と述べ、正面衝突を避ける姿勢を示した。

 一方の自民党も水面下で橋下氏との連携を模索しているという。報道によれば自民党大阪府連会長である竹本直一衆議院議員自民党員が籍を置きながら維新の会にも加わる二重党籍を「容認することもあり得る」と述べてたという。府議会や市議会で「維新VS自民」という対立の構図が出来上がることを何とか避けたいという苦しい胸のうちが伺える。

 みんなの党大阪維新に急接近している。大阪維新には、上山信一・慶応大学総合政策学部教授や元経産官僚の原英史・政策工房社長、同じく経産省を去年辞めた"改革派官僚"古賀茂明氏などがブレーンとして結集している。彼ら「脱藩官僚」は、公務員制度改革などを掲げるみんなの党と政策的にも近い。

 大阪維新みんなの党は、いわばブレーンを共有しているのだ。大阪維新の会が実現を公約している「大阪都構想」に関しても、みんなの党は関連法案の提出などで協力する構えだ。そのほかの、政党も軒並み大阪維新に秋波を送っている。既成政党の支持率が上がらない中で、大阪維新の勢いに乗りたいという願望が透けて見える。

 では、本当に大阪維新が国政に打って出ることはあるのか。橋下氏は本当に首相の座を目指しているのか。

「それは地域よりも国政が上にあるという既成観念に捉われた人の発想。われわれは国政を動かすことにも、日本国の首相を握ることにも、まったく興味はない」

 橋下氏に近いブレーンのひとりは、そう断言する。では、次の衆院選に候補者を立てないのかと聞けば、どうも、そうではないらしい。

 大阪維新の目的はあくまでも「大阪都」の実現にある、という。だが、大阪都を実現するには国会で地方自治法を改正する必要が出てくる。大阪都構想の実現に協力する政党や議員とは連携するが、仮に地方自治法の改正に反対する政党や議員がいれば、その選挙区に"刺客"候補を送り込む、というのである。

 大阪維新の幹部が衆院選への候補者大量擁立を匂わせるのも、橋下氏が「日本を動かす」と大声を張り上げるのも、既成政党に協力させるための揺さぶりなのだ。もちろん、そんな"脅し"が効果を上げるには、いつでも"刺客"を送り込んで選挙に勝てる体制は整えておかなければならない。大阪維新が人材と資金を着々と集めているのも、そんな明確な戦略の上にあるとみていい。

 ただ、"刺客"を送り込む相手の選定基準はおそらく、地方自治法の改正に賛成か反対かだけではないだろう。大阪維新府議会や市議会で「職員基本条例」と「教育基本条例」の可決を目指している。ともに職員・教育の勤務評定を厳格化し、問題職員の処分を容易にしようというもの。

 つまり、これまで"聖域"だったところに、政治のグリップと競争原理をきかせようというわけだ。これにはもちろん自治労日教組など労働組合がこぞって反対している。昨年秋の大阪府知事大阪市長ダブル選挙で、大阪維新対立候補自民党民主党共産党までもが相乗りしたのは、職員組合など既存の支持母体とのつながりが大きかった。

 この2つの条例の考え方に反対する労働組合をバックにした衆院議員候補者とは正面衝突が避けられないのではないか。とくに大阪市政や府政に影響を与える近畿圏選出の国会議員については、大阪維新の「シンパ」を送り込む必要に迫られる可能性が出てくるだろう。

 大阪維新が両トップを握った大阪市政、大阪府政の今後の改革で、組合との全面対決が避けられなくなった場合、輿石幹事長が言うように民主党と「対決はしない」ことはどこまで可能なのだろうか。言うまでも無く民主党の最大支持母体は、傘下に自治労日教組を抱える労働組合の連合である。民主党政権になって政府の会議や審議会に連合の代表が参加するようになったのをみても、いかに労働組合の影響力が大きいかが分かる。

 その最大支持母体の不倶戴天の敵ともいえる大阪維新や橋下氏に、民主党は党として協力姿勢を打ち出せるのであろうか。こう考えると、大阪都を実現するという大阪維新の本当の狙いを実現するためには、国政を牛耳ることが不可欠になってくる。

 仮に大阪維新の人気が全国レベルにまで広がり、衆院選で大躍進したとしよう。では、橋下氏が首相となり、日本を再建するために力を振るうことになるのだろうか。

 これはどうやらNOのようだ。大阪維新が国政で影響力を握った時に、彼らがやることは何か。大阪の自立性を高めるために国の支配から抜けること、あるいは国の支配力をとことん小さくすることだろう。橋下氏が次ぎの衆院選の争点を「道州制」と言っているのは、これを明確に示している。大阪維新が国政に進出するとすれば、それは国を再建するためではなく、明治以来続いてきた中央集権の国を壊すためということになる。

 地方分権規制緩和など国を変えるために試みられた「上からの改革」は多くが挫折し、あるいは中途半端で終わってきた。大阪維新が主導する「下からの破壊」によって、国はその姿を変えることになるのかもしれない。橋下氏の天才的とも言える巧みなアジテーションに右往左往する既成政党は、果たして大阪維新が狙う国の破壊に手を貸すことになるのだろうか。