高齢化で増え続ける医療費がついに37兆円を突破! 消費増税でも補えないのなら、党利党略を越えた国民目線の議論を!

 医療費の増加が止まらない。厚生労働省がこのほど発表した2011年度の医療費総額は、約37兆8,000億円と、前年度に比べて3.1%、約1兆1,500億円も増えて、9年連続で過去最高となった。高齢者が増加しているうえ、医療技術や医療機器の高度化で1人当たり医療費が上昇していることが大きい、という。

 この医療費を賄うために健康保険料も引き上げられている。また、国庫負担の医療費も前年度より1,000億円多い1兆9,000億円になっている。結局、負担はすべて国民に回ってきているわけだ。加えて、消費税増税も決まった。増え続ける医療費をこのまま放置すれば、国民負担がいずれ限界に来るのは明らかだ。

 実は医療費はこの20年来、ほぼ減った例がない。2002年に0.7%減ったぐらいだ。それでも国民の収入が増えているのなら、負担感はそれほどでもない。しばしば使われる国民所得に占める医療費の割合は20年前は5.9%だったが、2000年代になって8%台で定着、2009年以降は10%台に乗せ。10.3%、10.5%、11.0%と増加を続けている。所得が減る中で、医療費の負担がズシリと圧し掛かっているのだ。

医療崩壊に歯止めをかけた民主党

 増加の大きな要因が高齢化にあることは間違いない。37兆8,000億円の医療費のうち70歳以上の患者の医療費が全体の44.9%に当たる17兆円、75歳以上だけで見ても13兆3,000億兆円(全体の35.2%)を占めている。しかも年々その割合は上がっている。

 1人当たりの医療費を見ると、健康保険組合に加入するサラリーマンやその家族の医療費は、14万4,000円だが、70歳以上は80万6,000円、75歳以上になると91万6,000円の医療費が使われている。

 高齢者が安心して医療サービスを受けられる体制が維持されることはもちろん好ましい。だが、高齢者が使うこの高額の医療費が、保険料や税金として若年世代に圧し掛かってくる現実をどう考えるか。

 高齢化が進むのだから、医療費の増加は仕方がないのだろうか。

 ここ数年の医療費の増加には明らかに政策的な「意思」が働いている。政権交代以降、民主党政権は、長年の課題である医療費の抑制ではなく、むしろ医療費を増やす方向に舵を切ったのだ。これは野田佳彦首相自らも認めている。

 4月の参議院予算委員会で、野田内閣の基本姿勢に関する集中審議が行われた際、民主党議員から「政権交代後の民主党の政治は(自民党と)いったい何が違うのか」と問われて、こう答えている。

 「大きく変わったことがいくつかあると思うが、代表的なものは社会保障だと思っている。それまで(自民党政権で)2,200億円を毎年削る方向だったものを立て直して、介護難民とか医療崩壊と言われたものに歯止めをかけてきている」

 野田首相は「医療崩壊」に歯止めをかけるために2,200億円の削減方針を反故にし、むしろ医療費など社会保障費は増やす方向に持ってきたのが民主党政権だった、と明言しているのだ。

増え続ける医療費を税収で補うのは不可能

 この2,200億円の削減という政府の方針は、小泉純一郎内閣当時の2007年度予算から始まった。当時の谷垣禎一財務相川崎二郎厚労相が、社会保障費の自然増分の7,700億円のうち2200億円を削減することで合意。その後の安倍晋三内閣にもこの方針は引き継がれ、2008年度予算でも自然増分7,500億円を5,300億円増に抑制。2009年度予算も8,700億円の自然増を6,500億円増に抑えた。

 医療費が過去最高を更新し続けているのをみても分かるように、増加分を抑制しただけで、実際に削減したわけではなかったのだが、医師会や厚労族議員は真っ向から反対した。その際に繰り返されたのが「医療崩壊」というキャンペーン的な主張だったのだ。

 医師会はその後、民主党支持に方針を転換した。社会保障の充実という主張が政権交代の1つの原動力になったのは間違いない。野田首相が「医療崩壊に歯止めをかけた」と胸を張るのは、的外れではないのだ。

 だが、政府の方針転換によって、いわばその"ツケ"として当然のごとく医療費は急速に膨らむことになる。2006年度0.1%増→2007年度3.1%増→2008年度1.9%増と推移した医療費は、2009年度3.5%増→2010年度3.9%増→2011年度3.1%増と高い伸びが定着することとなったのである。

 厚労省は長年にわたって薬価の引き下げを行ってきた。2年に1度の改定時期には大幅な引き下げが繰り返されてきた。ところが、医療費をみると、調剤費は減るどころか、むしろ急速に増えている。2006年度に4兆7,000億円だった調剤費は2011年度に6兆6,000億円に膨らんだ。わずか5年で1.4倍になったのである。

 社会保障と税の一体改革法案が成立、消費税率の引き上げが決まった。2015年10月に現在は5%の税率が10%になっても、税収増は13兆円に過ぎない。消費税増税によって医療や年金など社会保障費は十分に賄えるような錯覚を国民に振りまいているが、現実には、現状の財政赤字を吸収してプライマリー・バランス(基礎的財政収支)を黒字にすることさえままならない。ましてや医療費が増え続けた場合、それを税収で補うことは不可能なのだ。

 税や保険料などの国民負担が4割を超えてくる中で、今後も健康保険料を引き上げ続けることは難しい。さりとて、さらなる増税を行うのも難しいとなれば、そもそも増え続けている医療費を何とか抑制しなければならない、と考えるのが普通だろう。高齢化が進む中でどうやって医療費を削減していくか。党利党略を離れて国民目線で議論する時だろう。